NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#341 10cc「Rubber Bullets」(UK)

2024-03-12 07:44:00 | Weblog
2024年3月12日(火)

#341 10cc「Rubber Bullets」(UK)






10ccのサード・シングル曲。73年リリース。メンバーのグレアム・グールドマン、ケヴィン・ゴドリー、ロル・クレームの作品。10ccによるプロデュース。

英国のロック・バンド、10ccは72年デビューの4人組。以前「一日一枚」でアルバムを取り上げたことがあるが、その「愛ゆえに」は2人編成になってからの作品なので、今回はオリジナル・ラインナップでの楽曲を取り上げてみたい。

元々バンドマンやプロデューサーであった彼らが集合、ジョークっぽいバンド名をつけて、シングル「Donna」で72年8月にレコード・デビューする。ドゥーワップ風のノスタルジックな曲調がうけてか、瞬く間に全英1位の大ヒットとなる。ちなみに、これはゴドリー=クレームコンビの作品。

元々は短期プロジェクト程度のつもりで録音した曲が意外やヒットして、10ccはパーマネント・バンドへと変化していく。

幸先のよいスタートを切った彼らが、翌年6月、1曲おいてサード・シングルで再び大ヒットを出す。それが本日取り上げる「Rubber Bullets」だ。

本曲ではロル・クレームがリード・ボーカルを取っており、そのファルセット・ボイスといい、コーラスといい、もろアメリカンなサウンドといい、かなりビーチ・ボーイズ、あるいはフィル・スペクターあたりを意識した爽快なポップ・チューンに仕上がっている。スマッシュ・ヒットも納得のいく出来映えである。

とはいえその歌詞内容は、サウンドの脳天気な雰囲気とは裏腹に、かなり毒を含んだものである。「10ccらしさ」として度々語られることのひとつに、「諧謔のきいた歌詞」があるが、この作品あたりから、既にその流れは始まっているのだ。

メンバーのエリック・スチュアートが後のインタビューで語ったところによると、歌詞の題材は、71年9月に起こった、米国ニューヨーク州アッティカの刑務所の、囚人暴動事件だと言う。あまりに劣悪な生活環境に対して改善を要求して、暴力的な手段で囚人が刑務所の役人と交渉したのだが、看守側、囚人側双方に37人もの犠牲者が出た。

この痛ましい事件をモチーフにして、刑務所で開かれたダンス・パーティで起きた惨劇を、華麗なポップ・ソングに仕立ててしまった。その手腕、さすが手だれのソングメーカー、10ccである。

リスナーもそのごきげんなビートに身体を揺らしながら「おかしな歌詞だな」ぐらいにしか思っていなかったのだろうが、よくよく聴けば、相当ヤバい表現が含まれている。「I love to hear those covicts squeal(囚人たちの叫び声を聞くのが大好きだ)」とかね。

この曲はヒットしたものの、一時BBCでは流れていなかったという話も残っている。刑務所の事件と称しながら実は当時の北アイルランド紛争のことを歌った曲だと解釈して、ポール・マッカートニーの曲「Give Ireland Back to Irish」などと同様に放送禁止になったらしい。お上って、すぐそういう邪推をするよね(笑)。

それでも、その後一応誤解は解けたようで、同年の12月のBBCテレビ「トップ・オブ・ザ・ポップス」には10ccが登場、この曲を堂々と演奏している(全て当て振りだけどね)。それも観ていただこう。

60年代的な懐かしさと、70年代の新しさが見事に溶け合ったサウンドは、今聞いても実にカッコいい。

初期のういういしい10ccを代表するナンバー。乗って踊って、当時の空気感を味わってみてほしい。




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