映画『セプテンバー5』を見ました。歴史的事件を題材に人間の在り方を問う、すばらしい映画でした。
1972年のミュンヘンオリンピック開催中の9月5日に発生した、パレスチナ武装組織によるイスラエル選手団の選手村襲撃事件を、それを取材したテレビ局の視点から描いた作品です。この時私は小学生でした。かすかに記憶しているのですが、実は今迄、これがそれほどの大事件だったのだという認識もないままでいたのです。恥ずかしいことです。
パレスチナとイスラエルの対立はイスラエル建国以来ずっと続いており、今日のガザの問題にまで発展しています。お互いの引けない事情の一つになっている大事件だったのです。さらに忘れてはいけないことは、当時はまだドイツは東西に分かれていたということです。ドイツは統一して一時的に平和は訪れましたが、近年ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアとEUの対立は明確に表面化しています。そして背景として、、要だと思われるのはことはドイツはヒトラーの国であり、ユダヤ人を虐殺した国であるということです。ひとつひとつの歴史的な出来事が、今に向って複雑に進行してきたことが改めて認識させられます。
この映画の一番の見所は、テレビ番組制作者の倫理です。この映画では、事実の確定ができないまま、一部の情報をもとに報道がなされてしまいます。そこでの葛藤がよく伝わってきます。例えば、選挙報道番組などで、当確をいち早くだそうとテレビ局は必死になります。私は、すでに投票が終わってしまっているので、そんなに焦らなくていいのにといつも思うのですが、なぜかテレビ局は急いで当確をだそうとします。そしていくつかのミスが生じています。どうしてもそこに功名心が生じてしまうのです。その人間の弱さが見事に描かれています。そしてその弱さを戒めつつも、その弱さに現れる人間らしさに寄り添う気持ちもうまれてしまうのです。そこにこの映画の魅力があります。
弱いからこそ人間である。しかしその弱さを克服できる人間であらねばならない。とても強いメッセージを持つ映画のように感じました。