ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

神代ダム

2022-12-15 18:05:54 | 秋田県
2022年10月26日 神代ダム
 
神代(じんだい)ダムは左岸が秋田県仙北市角館町広久内、右岸が同市田沢湖町卒田の一級河川雄物川水系玉川にある東北電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
昭和10年代に入り玉川水系では東北振興電力(株)による電源開発と、農林省による田沢疎水農業水利事業が計画され、1937年(昭和12年)に発電・灌漑を目的とした『玉川河水統制事業』が着手されます。    
具体的には強酸性で灌漑に不適であった玉川の水を田沢湖で希釈し、生保内・夏瀬・神代各発電所で発電したのち、農業用水として仙北平野に導水するという壮大な事業です。    
神代ダムは東北振興電力を接収した日本発送電によって1940年(昭和15年)に建設され、神代発電所での最大1万9700キロワットのダム水路式発電が開始されました。    
神代ダムと同時に夏瀬ダムも完成しますが、こちらは戦争激化による影響から発電所の建設は中断し、夏瀬発電所の稼働は1953年(昭和28年)にずれ込みました。    
これらの発電施設は戦後の電気事業再編成令により東北電力が継承しています。    
一方、田沢疎水農業水利事業は1963年(昭和38年)に竣工、さらに第二田沢開拓建設事業の竣工により現在は4500ヘクタールを超える広大な農地に灌漑用水が供給されています。    
神代ダムの利水容量上の目的は発電のみですが、現実には仙北平野を潤す灌漑用水の調整池として需要な役割を果たしています。    
また戦時中の貴重な土木建築物としてCランクの近代土木遺産に選ばれています。    

国道46号線から夏瀬温泉の標識に従って市道夏瀬線を2キロ東進すると右手に東北電力の管理道路が分岐します。
この先は関係車両以外通行禁止のため徒歩で約1.5キロ進むと神代ダムに到着します。残念ながらダムの敷地は立ち入り禁止。
かつては職員が住み込みで駐在していたようで立派な管理事務所が併設されています。


水利使用標識。


ダム手前の山道を登るとダムを俯瞰できます。


豪雪地帯ということでピアは被覆されています。


手前(右岸)に発電用取水口があり除塵機が見えます。
取水された水は約3.5キロの導水路で神代発電所所に送られ、さらにその放流水が田沢疎水により仙北平野に導水されます。


貯水池左岸は元は遊歩道として開放されていましたが、災害による遊歩道破損により今は立ち入りできません。
奥に見えるのは第二田沢開拓建設事業で建設された第二田沢幹線用水路の取水口。


場所を変えて第二田沢幹線用水路の取水口
農業水利事業二期工事で刷新されています。


折角の近代土木遺産のダムですが、下流からに見学ポイントはなし。
市道夏瀬線から上流面を遠望するのみ。


玉川河水統制事業により仙北平野の農地開拓は大きく前進しますが、一方で田沢湖は湖水が酸性化し生態系を含め環境面に大きな打撃を受けました。
近年話題になった『クニマス』の絶滅などはその一例です。

(追記)
神代ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え 事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

0353 神代ダム(1919)
左岸 秋田県仙北市角館町広久内
右岸     同市田沢湖卒田
雄物川水系玉川
 
 
26.5メートル 
178メートル 
5108千㎥/2777千㎥ 
東北電力(株) 
1940年
◎治水協定が締結されたダム


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