「ネットの高校」として設立されたN高の生徒数が、わずか4年で約1万5000人に達し、「日本最大の高校」に成長した。
ネットを活用した効率的な学習システムと、多彩なリアル体験を組み合わせたプログラムが、従来の教育システムには収まりきらない多様な生徒たちを引き寄せている。
N高の急成長は、新しい教育の可能性を示している。
1万5000人それぞれの進路がある
N高等学校は、学校法人角川ドワンゴ学園が2016年4月に通信制高校として設立し、17年に通学コースを設けた。
全国から入学できるネットコースと、19地点のキャンパスに通う通学コースがある。
設立時に約1500人だった生徒数は今春、1万4700人にまで増えた。
時間割に縛られないことから、各分野で活躍している生徒も多い。
フィギュアスケートの紀平梨花さんが在籍中。
囲碁棋士の上野愛咲美(あさみ)さんもN高の卒業生だ。
「東京大学1名、京都大学3名、慶應義塾大学13名、早稲田大学8名……」。
2月下旬から、大学合格者数の高校ランキングを特集する週刊誌に、N高のカラー広告が連続して載った。
N高から東大合格者が出たのは初めてだ。
ただし、大学進学実績はN高の一つの側面にすぎない。
奥平博一校長に言わせれば、「1万5000人の生徒がいれば、1万5000通りの進路がある」ということだ。
N高が公表している卒業生の進路は、専門学校40%、就職29%、大学15%、未定16%。
必ずしも進学校というわけではない。
生徒を紹介してもらい、話を聞いてみた。
3年生の石井翔さん(17)は、公立中学を卒業してN高に進学した。
「中学時代、毎日6時間も7時間も決められた授業を受けるのが苦痛でした。
高校からは、もっと自由に勉強できる通信制高校に行こうと思っていました」
いくつかの学校を調べ、学びのコンテンツが豊富で、IT授業が充実しているN高を選んだ。
N高はネットとリアル体験をうまく組み合わせている。
授業は映像で学ぶが、コミュニケーションツールのSlackを使ったホームルームや部活があり、友達といつでもやりとりができる。
ネット上とはいえ、先生や友達と双方向のコミュニケーションが取れ、自宅にいても孤独にならない。課外活動に当たるアドバンストプログラムには、大学受験対策講座、プログラミング、文芸小説創作など豊富なネットのコンテンツがあるほか、リアル体験としてスタンフォード大学の国際教育プログラムへの参加、刀鍛冶(かじ)や牧場などの職業体験、離島での野外体験などが用意されている。
石井さんは、1年次に長崎県の五島列島で行われたワイン造りを体験し、地元の醸造家にホームステイしながら、ブドウの収穫や瓶詰めの工程を手伝った。今年は新型コロナウイルスで中止になったが、文化祭実行委員にも立候補して準備を進めてきた。
「もともとインドアタイプでしたが、N高に入って、いろいろなことにチャレンジしたくなり、アクティブに変わりました」
将来は、通勤せずに仕事をするノマドワーカーを目指しており、そのためにも大学で経済学や商学をしっかり学びたいという。
奥平校長は、N高がここまで伸びた理由について、こう話した。
「我々が何かをしたというよりも、N高のようなシステムを求めている層が、潜在的に存在していたんだと思います。
学校だけじゃない学び、新しい学校を求める人たちです。
そこにN高が出現したので、これだ、ということになったのではないでしょうか」
N高もネットでの映像授業だけなら、ここまで話題にならなかったかもしれない。
双方向のコミュニケーション、豊富なコンテンツ、特徴的なリアル体験などが成長のカギではないだろうか。
それは現在、新型コロナウイルス対策で広がるオンライン授業にも、示唆を与える気がしてならない。
柿崎明子 教育ライター
以上
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