演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

貧乏な地方劇団のための演劇講座 第13章 基礎練習

2012年04月15日 17時25分05秒 | 貧乏な地方劇団のための演劇講座

貧乏な地方劇団のための演劇講座もこれでおしまいだ。最後に基礎練習を持ってきたのは、最初に原稿を書いたときに、書き忘れていたからだと思う。
昔のことなので、正確には記憶していない。今、高校生に指導するときにはストップモーションとか、スローモーションの練習を多く取り入れるようにしている。
最後に書いている「大声を出すのが発声、早く喋るのが発音と考えている人がいるがこれも間違っている。 楽に声を出せるようにするのが発声、正しく喋るようにするのが発音」というのは、今も正しいと思っている。最近の劇団や高校生の公演を観ているとまだ勘違いしているなと思うことがしばしばある。
指導している先生たちからして「発声ができていない」とよく講評のときに言うが、ほとんどは「音は聞こえているけれど、台詞として聞こえてこない」だけなのだ。
そういう視点で、ほかの劇団の芝居を観て欲しい。そして自分たちの芝居に応用してください(2011.05.07追記)。

さらに追記:いろいろな本を読むと発音の練習には「外郎売(ういろううり)」がいいと書いてある。というわけで、数年前から試しているが明確な効果が上がっているかどうかは不明だ。なぜかというと、大声を出す練習のほうがいかにも練習をやったという感じがするらしく、「外郎売」はあまり人気がないため熱心に練習しないから効果が上がらない、というのが理由のひとつだ。もうひとつは正確に読む練習が必要なのに、ただいたずらに早く読んでしまうためだ。「なぜこの練習が必要なのだろう」という意識がないせいとせっかくやる練習も意味はない。
これらの点をきちんと説明しても、いまだに自分自身が参加しないときの練習は十年一日のごとく大声を出す練習をやっている。まあ、声を出さないよりは出したほうがいいのだが(2011.05.08追記)。

以下が最終章の本文となる。
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 基礎訓練が大切なことは演劇をやっている人たちはみんなよく知っている。特に高校演劇の伝統校出身の役者がいたりすると、基礎訓練が大好きだったりする。
 しかし、社会生活をしていて、練習は夜の2~3時間しか取れないのに、それだけ基礎訓練をすることはメリットがあるのだろうか。また、基礎訓練はメチャクチャプロ並みなのに、芝居本番ではその基礎訓練はどこへ行ってしまったのでしょう、という劇団も多く見かける。では、基礎訓練というものはどれだけやればいいのだろう。
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13-01
発声練習


 発声練習の目的を知っているだろうか。発声練習の目的は喉の緊張を取り、自分自身がどういう楽器なのかを認識することにある。色々な練習法の本を読み、難しい部分を全部省略するとこういうことになる。特に、昔は大劇場での公演が多く音響も悪かったので、こういう練習が必要だったのだろう。
 発声の中で最も芸術的とされているものに、オペラのベルカントという発声法があるがベルカントは特殊な発声法であって、演劇に向いているとは思えない。
 発声練習には色々な方法があるが一番簡単な例をあげる。

○鼻で息を吸い、ゆっくり口から吐く。この時なるべく腹式呼吸にする。ただし、女性は無理に腹式呼吸を身につけるとホルモンバランスを崩し、色気がなくなる場合もあるので、肩が上下しない程度に胸と腹同時に吸う。

○同じく息を吸い、2拍に区切って吸う。これを3拍、4拍、7拍、10拍というように増やしていく。息は全部吐ききること。

○[ムー]という音を、歯の間から出す。この時、口のなかのあちらこちらに音をぶつけてみたり、体を色々動かしてみたりする。最終的には、両足を肩幅に広げ、ゆったりとした姿勢で音を出してみる。

○同じく[ムー]という音をだしながら、ゆっくりと口を開ける。この時自然と[あー]という音になってくる。 これが、その人の持っている基本の[あ]の音である。これをなるべく長く出す。2度目は少し強く出すようにする。

 以上の練習はリラックスした状態で音を出す練習なので、時間があったらテンションをかけた状態での発声練習もやってみよう。

○両手を水平にのばし、両足を肩より少し広く取り、腰を真っすぐ椅子に座るようにゆっくりと(30秒ぐらいかけてゆっくりと、)腰を落としながら声を出す。また、逆に座った姿勢から声をだしながら立つ。
 早い話がゆっくりとヒンズースクワットをやりながら声を出すわけです。

13-02
発音練習

 有名なのは、[あえいおうあお]~[うぁうぇうぃうぉううぁうぉ]という50音を発声する奴とか、早口言葉とか。しかし、本当はこの練習の目的は自分はどの音がうまくいかないのかを知るための物であり、歯の形や顔の形によって、出ない音もあるので、単に音がうまく出ないからといって、ああしろ、こうしろと騒ぐための物ではない。場合によっては[赤い鼻のトナカイ]であることの方が重要な場合もあるのだ。

○ゆっくりと一音づつ、[あえいおうあお]と言ってみる。これを[うぁうぇうぃうぉううぁうぉ]までやる。
○少し早くやる。この時、呼吸が腹式呼吸になっているかどうかを注意する。

○お互いにどの音がうまく出ていないのかを注意する。

○音がうまく出ていない場合は原因を探る。
 この練習をやることで顎の形が変わってくることもある。女優がきれいに見えるのは顎の線がきれいだということも原因となっている。もし、ある音がうまく出ないとしたら、ストレッチング体操をした後にもう一度やってみる。筋肉の疲れというケースも考えられる。

13-03
肉体訓練

 腹筋力だけは鍛えておきたい。疲れが出てくるとまず、腹筋が体を支えきれなくなる。腹筋を鍛えるのは色々な方法があるが、下のは一例。

○ゆっくりと足をあげる。(30゜ぐらい)

○15秒そのままにする。この時ゆっくり息を吐く。

○息を吐きおわったら足をすとんと落とす。

 このほかストレッチングが体の緊張を取るのには有効。

 以上で約15分ぐらいかかるはず。一回2時間の練習だとしたら、これぐらいで切り上げて台本の練習に入らないと練習時間がなくなってしまう。
 プロになろうとしている人は[俳優の発声訓練](富田浩太郎著、未来社刊)や[実験演劇論](グロトフスキ著、テアトロ刊)他、たくさんの発声訓練の本が出ているので、これらを読むなり、演劇学校へ通うなりしてほしい。
 ストレッチングや、肉体訓練の本も色々出ているが日本の演劇ではほとんどの場合、野口体操の流れとなっている。(劇団四季はどうも違うシステムを取り入れているようだが)ところが、この肉体訓練についてだけは、本を読んでもよく分からないものだ。なぜなら野口さんがイメージという点を強調しすぎたために(このイメージ性ゆえに野口体操が広まったといえるが)具体的なポイントについて書いてある本が少ない。野口体操と少し違うが[子供操体法](武田忠 著 農文協 刊)がこの手の本の中では写真入りで分かりやすい。
 さて、[月虹舎]では今までほとんど基礎訓練をやつたことがない。理由の第一に教えるほうも基礎訓練のレッスンを受けたことがないので、まともに教えられない。第二に基礎訓練をやろうといっても人が集まらない。第三にかったるい。本当は基礎訓練は役者が日常的に行なっているもので、稽古場まできてやるもんじゃない、という意識もある。
 間違った練習や、目的のはっきりしない練習は舞台を作る上での障害になるだけだ。特に次の3点は守りたい。

○発声練習は音を有機的に出すことが出来るようにくふうすること。モノローグと朗読と会話では発音や発声の仕方が違う。

○発声練習では呼吸の練習を主体にする。

○実際の舞台で活きる練習をする。

 特に最後は時間がないときに大切である。公演がないときだったら基礎訓練を一時間かけても二時間かけてもいいが、公演半月前になっても練習前に一時間の基礎訓練というのでは時間のないアマチュア劇団の場合自滅行為と考えていいだろう。

 ところで、大声を出すのが発声、早く喋るのが発音と考えている人がいるがこれも間違っている。
 楽に声を出せるようにするのが発声、正しく喋るようにするのが発音。だから、台詞は楽な声で正しく喋ることから始めること。やっているうちにだんだんと早くなってくるはず。その時に変な間が出来るようだったら、呼吸法に問題がある。早く喋るためには、素早く音もなく息を吸い、コントロールして吐き出す必要がある。
 台詞が早くなってくればくるほど、間があくという舞台がある。近頃の[月虹舎]の舞台もこういう傾向が観られる。こういうときは、呼吸法を無理していないか、喉を無理していないかをチエックしてみるといい。原因がかならずあるはずだ。

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