木魂に明る 夏の月
令和3年7月27日(火)
手をうてバ
木魂に明る
夏の月
未明の月を拝して柏手を打つと、
その木魂とともに夏の夜は明けて
いく、
の意。
元禄四年(1691)の作。
底本の4月23日の条に、
月待ちをしていた後の吟と
して掲載し、
「夏の夜や 木魂に明る 下駄の音」
の初案形を消して、現行形に改める。
柏手は他者の行為とも見られる。
◎ 二十五夜の月待ちをしていると、
願い事が叶うという信心があった。
朝になると、願い事の柏手を打つ音が、
あちらこちらでして、それがあたかも
一人の人間の柏手のように聞こえる。
片仮名の「バ」が、
人々の柏手をまとめて、
すがすがしい音の響きにする。
朝といっても、まだ夜が白々と
明けた程度である。
何とも気持ちのよい、涼しげな
夏の朝の光景だ。
ところで、初句は、「
夏の月」ではなく、「下駄の音」
であった。すなわち、
夏の衣や
木魂に明る
下駄の音
であった。
とすると、決定句の木魂は、
芭蕉が打った音ではなくて、
周囲に響き渡る大勢の人々の手を
打つ音であったので、
芭蕉はその伝統行事の音に
耳を澄ましていたことになる。
そのほうが、夏の朝の澄んだ空気を
示して面白いか。
それとも、片仮名の「バ」という擬
音めいた表現が優れているか。