不易流行、この矛盾に挑む!
令和3年7月20日(火)
初しぐれ
猿も小蓑を
ほしげ也
初時雨の中、猿も私と山路を旅し
たいのか、小蓑をほしそうにしている、
の意。
元禄二年(1688)の作。
西行『山家集』
「あやひねるささめの小蓑
きぬに着む涙の雨を凌ぎがてらに」。
「ほしげ也」・・・伝西行
「篠ためて雀の弓はるおの童
ひたいゑぼしのほしげなるかな」。
九月下旬。伊勢から故郷伊賀に
向かう折の吟と見られ、
真蹟類の前書き
「あつかりし夏も過、
悲しかりし秋もくれて
山家に初冬をむかへて」は、
これを帰郷後の句と位置づけ
直した物であろう。
◎ 伊勢から山越えて、故郷の
伊賀に帰ろうとしていると、
時雨が降ってきた。
景色をめでて四方を見渡すと、
すぐ傍の木の上に猿がいた。
こちらが蓑で雨除けしているのを
見て、うらやむ気色である。
そこで、猿に小さな小さな蓑を
買ってやろうと考えている優しい
芭蕉の心を詠んでいる。
冬場の寒さを示す時雨を猿と蓑との
取り合わせで、猿芝居の道化にまで
連想させる句に仕立て上げた。
賑やかで、滑稽な猿芝居は、
蕉門の目指す「不易流行」の句作を
も示している。
「不易」は、永遠性を指す言葉である。
しかし、俳諧には、「流行」という
刻々に変わっていく新風を目指す
ことも要求される。
ここにも、矛盾を重んじる芭蕉の
要求が見られる。
俳諧の妙は、歴史、伝統を深く知り、
例えば、能の世界に通じていること、
新しい世界を知り、これによって、
表現に深さと広さを示さねばならない。
まことに難しい道行である。