『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭

ジュリアナから墓場まで・・・。森羅万象を語るブログです。
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[映画『おみおくりの作法』を観た]

2015-06-27 11:49:03 | 新・物語の感想

☆・・・良作でした。

 主人公は、役所の閑職、民生課の一部所、身寄りのない死者の葬儀・埋葬をするたった一人の職員。

 冴えなくも、生真面目に、一人一人の死者の調査をし、丁寧な弔いを行なっている。

 調査で知った死者の弔辞を読み、その死者にあった音楽を選んだりもする。

 一つの事例に時間を掛けるので、弔いが間に合わず、安置所には遺骨が溜まっている。

 イギリスも、火葬が普通にあるんだね(作中では、身寄りのない者の安価な葬儀として火葬があるようだ。土葬の描写もある)。

 その生活も質素で、アパートメントの一室で、毎日決まった食事をし、家具も一糸乱れぬ配置で過ごす。

 そんなおり、二つの「意外」が起こる。

 隣接するアパートの向かいの一室から、身寄りなき死者が出る。

 時を同じくして、役所の人員整理のため、主人公は解雇を言い渡される。

 主人公は、最後の案件として、マイペースだが、期して最後の弔いの調査に動く。

 これは、ハードボイルドの話として、私は見た。

 そこかしこに、その要素がある。

 社会から隔絶した主人公が、同じく身寄りのない社会から隔絶された孤独死の者の調査をする。

 足を使い、ロンドン近郊を歩いて回る。

 ひょんなことから、新たな手掛かりを得て、新たな人間関係を知る。

 主人公は寡黙で、たびたび、その仕事の意義を疑われる。

    女・「変わった仕事をしているのね?」

  主人公・「好きでやってます」

    上司・「弔いは死者のためではないよ、残された者のためにある。だから、身寄りのない死者への丁寧な弔いは不要だ」

  主人公・「私はそう思ったことは一度もない」

 唯一の楽しみは、これまで弔った者の写真を一枚だけ貰い受け、それをアルバムに貼り、ときおり、その死者のことを思い出すのだ。

 ある意味、異常な行動に思えて、主人公の真摯な生き方が、私たちにそう思わせない。

 先ほどの上司のセリフ(「弔いは死者のためではないよ、残された者のためにある。だから、身寄りのない死者への丁寧な弔いは不要だ」)だが、やっぱ、そのクールさに、かなり引っかかる。

 私は、葬儀は、死者のためだけではなく、残った者のためでもある、という解釈だが、この上司の主張では本末転倒の意味合いを為している。

 そして、エンディングだが、二つの奇跡が起こる。

 それについては、皆さんに心を揺り動かして貰いたいので記さないでおくが、少なくとも、上司のセリフは粉砕されることになる。

 私は、この作品では泣かなかった。

 主人公は幸せに生きるからだ。

 序盤では、この主人公の名前は出てこない(名無しのオプ)、最後の案件が立ち表われたころから、主人公は社会の中の一員の如く、名前を呼ばれ始める。

 年中、死者を相手に仕事をしているせいか、物語の終盤まで、死者のような生気のない顔だ。

 動きも整然としている、が、やはり、最後の案件から、走る姿も見せるし、次第に顔に赤みを帯びていく。

 ・・・優れた作品である。

                                              (2014/06/27)