まるで春が来たのではないか?
そんな風が吹いた12月。
僕は四谷の駅から四谷三丁目に向かって表通りを避けて裏通りを歩いた。
背中にギブスンJ-50を担ぎ、手にはエフェクターを下げ、
ちょっと今夜のライブ、ヤバいなぁ~なんて思いめぐらしていた。
そのヤバさと言うのは、落ち着いた気持ちで演奏できないだろうな・・・そんなことなんだけど。
いつまでたっても「人に良く思われたい!」
そんな欲望からは逃れられそうにない。
荒木町に足を踏み入れたころには少し汗ばんでいた。
メンバーの集合時間には早すぎた。
少し時間稼ぎをしなくちゃならないとベローチェへ入った。
席に着いた途端、LINEが来た。
「クルマが混んでいてちょっと遅れそう!」
店のS嬢からの手短な遅延報告。
少しホッツとしてコーヒーを飲み、心を落ちつけようとLOWDOWNの歌詞を見直した。
全く頭に入ってこない。
そして、記憶として身体に浸みこまない。
焦りが自己確認できるまでになってしまったようだ。
こんな状態でできることと言えば放棄すること。
何もかも放り出して逃げ出すのだ。
心が、そう叫んだ。
しかし、それはできない。
そう、僕の復活ライブなんだから・・・・・
ライブだなんぞと言ったって素人のバンド演奏。誰が期待し喜んでくれる。そんなこと想像外。
時計は4時を少し廻ったところ。
冬至を超えたので、夜の闇が急ぎ足でやって来た。
ステージにたつまであと3時間。
ここにずっといるわけにもいかない。
ましてや家に帰るわけにもいかない。
生まれて初めて地上10センチくらいの処を歩いているような気分になった。