あまりにも評判が良くなかった。
「龍三と七人の子分たち」。
北野たけしの最新作。
だからあえて見に行くことに決めていた。
でも、なんだか時間がうまく合わずに、グズグズしているうちに正常のロードショウは見逃してしまった。
でも、なんだか不思議な縁で、前から気になっていた映画館。
「目黒シネマ」。
この映画館で北野特集がかかっている。そんな情報を耳にして行ってみることにした。
驚いたことに二本立て。かつてはこんなスタイルの映画館が場末にあった。
記憶が蘇ったのは、京都の「西陣キネマ」。千本通りから路地を入ったところにその映画館はあった。
そして、路地の突き当りには、その道では知る人ぞ知る「千中ミュージックホール」があった。
西陣キネマは基本三本立て、洋画と邦画とエロ映画とが微妙なバランスでプログラムされていて、
最後の一本の上映になると200円に負けてくれた。
「七人の侍」もこの映画館で観た。
そんな思いが蘇る中、「龍三・・・・」を観た。
すでに引退して平穏で静かな日々を送るやくざの兄弟たちのコメディ映画。
映画を観ながら思った。
こりゃ、評判悪いだろう。駄作と言われるだろう。つまらない映画作ってナニ考えてるんだ?!
脚本も寝転んで、そろそろ映画とらないとまずいか?
でも、なんだかメンドクサイなぁ~
なんて、チカラが入ってない話だしね。
別に深読みをするつもりなど毛頭ない。
しかし、北野たけしらしい映画だと感心してしまった。
観終わったあとに気持ちが和んだんだ。
そう、僕の気持ち的には
「そう、そう、これでいいんだよ!」・・・・なんて感心してしまったんだ。
北野作品は「その男、凶暴につき・・・」以来、観客の期待をキッチリ裏切ってきた。
それは、音楽的にもセリフ的にも映像的にもキャスティング的にもだ・・・・
普通の人が、映画を観ながら、タブンこの後こうなるだろうなぁ~とか、この映画は多分こうなんだろうなぁ~
そんな想像を見事に裏切り続けてきた。
もう年寄は年寄らしく生きるのがベスト。
それは、全てを受け入れ流れるままに生きることだ・・・・。
なんてことを、いけしゃあしゃあと知識人ぶった人たちが声だかに叫ぶいまだから。
だからこそ、こんなフウチョウだからこそ、
のたうち廻って、嫉妬し、懐かしがり、存在感を無駄に誇示するのが
今の老人と呼ばれている人たちに欠けてしまってる。
想像絶するほど物分りがよく謙虚で奥ゆかしい老人なんてものは存在しないはず。
歳を重ねるほどにタガが外れるのだから、外せばいいのだ。
北野たけしは、
そんな風に僕に話しかけてくれてる気がしたんだ。
やくざの世界でも親分になり切れなかった人間が、
まるで高校の同窓会のようにして集まって「組」を作る。
そんな話なんだ。
もっと普通に世間を眺めて笑ったり泣いたり怒ったりしてる。
ごくごく普通の感性で生きるのが、
いかに、ステキなことなのか・・・・。
映画で遊ぶ北野たけし。
観客の期待を完璧に裏切れる映画監督。
やっぱ、好きだ。