平穏な時を過ごして終わりの時が来るなどと思いはしない。
意のままに時を重ねながら生きて行ける程、器用でもない。
遠くに霞む山の緑が恋しくなっても春はまだ遠く、山並みには白いカーテンが垂れ下がり、草原はブラウンに澱んでる。
遠くの方で鶯の啼く声を聞いたような気がしも空耳としか思えなくてハンドルをにぎる手にもチカラが入らない。
さあ、さて何処に行こう。
思い倦ねる僕はアクセルを踏み込む。
メルセデスのエンジンは振動を心地良く僕の身体を揺さぶり、やる気を出させてくれる。
フロントガラスには枯葉が溜まっていたけれど、お構いなしにクルマを発車させた。
老いを簡単に受け入れてはいけない。
身体の節々の軋む音がしても、やるべき事はやらなくてはならない。
惰性だけで生きてはいけない。ましてや過去のつまらない躓きに心を曇らせたり、早く忘れてしまいたいなどと弱音を吐く暇などないのだ。
時は留まらない。過ぎ去っていく風景を眺めやり過ごし、無いモノとして過去を偽るには罪が重すぎるのだ。
「償う」しかないのだ。何があっても、謝罪の言葉以外で相手に伝える方法を編み出し赦しを乞う。
それが老いたもののすることなんだ。
自分を見つめ直して気が付けば誰だってそうするのだ。
しない事を老いの所為にしてはならない。
そんな言葉が頭の中でグルグルまわりはじめた。
横浜に戻るか・・・・。