どんな物語にも終わりがあって、でもエンディングロールは自分で作れないんだ。
そんなことにふっと気づいて、表参道から246を青山一丁目方向に歩き始めた。
時間は夕方の6時を少し過ぎたころだった。まだ、しっかりと暗闇は町を包んでいなかったし行き交う人々はどこかせわしなげ。
ブルックス・ブラザースのビルの前にはデカい建物がなくて遠くに東京タワーが小っちゃく見えた。
アメリカの大統領が東京に昨日やってきて、今日には帰ったそうだ。そのせいなのか、金曜日の所為なのかあのタワーが星条旗色に
変わってたことを思い出した。
ベルコモンズビルを右に曲がって外苑西通りの坂を少し下った。
「MANDALA」
今夜の目的のライブハウス。南青山じゃ老舗なのかな?吉祥寺の店へは一度行ったことがあったけれどこの店は初めてだった。
ビルの地下一階。受付カウンターで品のいい女性が出迎えてくれた。
チャージは1ドリンク付きで4500円。まあ、プロの歌手料金てとこか・・・・。
ステージはさらにもう一階降りる。ちょっと安普請な豪華さ。
ステージから一番遠い席に座った。でも、正面に彼女が見える。
まだ、開演まで15分あった。
なにげに周りの客たちの顔ぶれを伺った。
男も女も、50歳以上。それなりの身なりと、少し澄した顔立ち・・・気取った人たちなのかな・・・・?
そして多分、僕もそう見えるのだろう、この空気の中では。
照明が消えた。
最初にピアニストがステージに上がる。何もはじまりはしない。そしてベーシスト。ほんのわずかの間をおいて彼女はステージに上がった。
スポットライトを浴びて、歌いだした。ブルース、マーティンの音が静かに心を和ませた。
ピアノがけだるく入ってきて、ベースが「入れて」と言った。
彼女はまるでやさぐれ男のように優しく「いいよ」と言った。
こんな調子で始まってしまったんで僕は少し動揺しながら聴くともなく耳を傾け、
身体が緩んでいくのを感じた。
そこから、1時間。休息。
思ったよりも小柄で太目な彼女に、今までのイメージとは違う何かを感じた。
多分だけど母性みたいなものなのかな・・・・守ってやらなくっちゃあ~とか、いや、そっちに行くなとか・・・
そんなお節介な気持ちみたいだ。
オトコのくせに母性なんておかしいかもしれないけれど、母親は子供をどんなことがあっても切り捨てたりはしない。
アメリカの男が憧れてばかりいる、女性蔑視感覚。
男同士の友情が男女の情愛よりもランクが上なんだってな幻想を全面否定するような気分なんだ。
彼女も女であって男感覚を持たないと生きていけなかったりしたんだろう。
どこかに女を持ち続けるというのはけっこー辛いんだ。周りの期待に応えなくっちゃならないし。
自分を正当化するためには他人の見る目や言葉を全面肯定するフリをしなければならないからね。
たぶん、開き直るってことだ。
しかし、安易に開き直ると、ホントに惚れた男が現れた時がヤバイんだよ。
身も心もボロボロになってしまう。
だから、精一杯防御姿勢を万全にして、とてつもない甘い口説きの寸前でかわし続けるんだ。
いままでに、イッパイ傷ついていればどうってことにならない。
一番ヤバイのはすべからくいい加減な男にとってとても都合のいい女になってしまうことだろう。
例えば、思いっきり酔っぱらって、オトコと一緒にタクシーに乗ってふざけたフリをしながあちこち触られたりして
思いのほかカラダが受け入れ体制に入ってしまって・・・そのまま夜を過ごしてしまう。
絶頂を迎えたあとで、我に返って、酔いも覚めてしまって、後悔。
しら~とした顔、そう、クールな顔してオトコを置いて部屋をでて。
「しまった!」
と思い。そのオトコが普段何気ない付き合いをしている人間であれば・・・
翌日、でれーとしたメールをしてきたオトコにすかさず返信をする。
「人間的に大好きです。たまに本音で語り合う関係でいたいのです。すみません」
なんて・・・・
オトコは思う、とても残念だけれど、「助かった!」・・・と。
そして、暫くたって仕事仲間と酔っぱらった席での自慢話にしてしまう。
彼女は自分のプライドを守ったことで・・・ダラダラとだらしなく付き合う女では決してない。
自分を誇りに思んだ。
でも、それが生きてるてことなんかな・・・て思うんだ。
惚れたらトコトンなんだ。でも実らぬなら・・・諦める。
泣いて泣いて叫んで泣いて愚痴ってののしって、相手を責めて自分をせめて
諦める。
そして、二度と会わないと誓う。男の住む町にも近ずかないし男の友達にも近ずかない。
未練は永遠にある。でも、忘れられる相手と巡り合うコトを思い描く。
愛してくれなかったオトコを失ったけれど、オトコは愛してくれる女を失ったんだ。
そんな経験がないのかもしれない。彼女は。
あるのかもしれない、でも・・・未練ばかりをため込んでるような・・・その小さな身体いっぱいに。
ライブを聴いて、フト、そんな想像をしてしまったんだ。
そんなコトがとても気になって、ライブハウスを出て、ベルコモンズのビルを見ながら
246を渋谷に向かって歩き始めた。
捨てられたオトコをいつまでも思い続けてダラダラ付き合っている女を
ど~も好きになれなくなっちまってる自分に気が付き始めた。