過ぎ去ったことなどどうでもいいんだけれど、
片隅に、頭や心の中に追いやってしまったことへの仕返しなのか、僕を責め始めている。
舗装もされていない道。疎らに、不規則に建つ木造家屋。電信柱の中程に不安げに灯る電球。真冬でもなさそうなのに外套を羽織る中年の男。紛れもなく僕の父だとは分かる。僕に近づいて来る。しかし、待てど暮せど側には到着しないんだ。話しかけているのは分かるけれど聞こえないんだ。
ただ、少し怒っていることは伝わってくる。
でも、何を怒っているのかが分からない。
苛立ちは、いつだってすぐ伝わる。
僕も歳を、とったのだ。
脚が遅くなり、階段を登ると3、4段目で息が上がる。
いや、肉体的なことだけではない。
気がつかぬうちに、腹がたってしまう。
意のままに動かぬ身体や心。
コントロール制御不能。
感情が露わになるのは恥ずべきなのだ。
理性と言うより知性が失われていく。
老醜
そんな言葉に恐れ慄く日々がやって来たんだ。
しかし、まあ、それでもいいんだ!と、思える瞬間があったりする。ほんの少しだけだけれどね。 周囲の人間への洞察力が低下しているから、自分の心が納得しやすい原因を想像してみることにしている。
若かりし頃、想像していた60代になんかになっていない。詰まらない男になってしまっている。時々は数少ない栄光の時を思い出してもみるが…地下鉄の前の座席に座ってる女の子を頭の中で裸にしてみたりしている。それでは中学生と変わらないではないか…愕然として呆れてしまう。
ホントにやりたいことは何か?
そんなことを自問しながら時は、流れっぱなしなのだ。
ただひたすら
老醜と呼ばれぬようにしなくては…
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