最近川柳作家の岸本水府伝を読み返していたら、だんだん川柳ぽくなってきた。
イタリアの名木を惜しげも無く使い製作されたヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ三台の演奏会、しかもピアノはベーゼンドルファー! まるでヨーロッパのお城の夜会の様な音であった。ヴァイオリニストのピエール・アモイヤル氏の言葉が印象に残ったので書いておく。
「楽器の性格と、製作者の性格が音に表れる。」
ピエールさんが使われた、character(性格)という言葉が聞き取れなかった。通訳して下さったピエールの奥様であるヴィオリストの清水祐子さんが、「気」と訳されたので、ああ、"spirit "だったのかと納得、ならば、魂と訳してもいいかもと思ってた。後でニックに聞いたら、確か"character"と言ってたよ、と言う。characterは魂とは訳せないが、性格では言い足りない。「気」とは言い得て妙だね、とニックも感心してた。
「楽器の気と、製作者の気が音に表れる。」
楽器の気とは即ち、木の気。弦楽器を代表するストラディバリウスが製作されたイタリアの風土が育む同じ樅や楓の木の持つ「気」である。
ちょっと話が長くなるが、木と風土について面白い話を最近聞いた。染井吉野はクローンで日本中同じ桜だけれど、江戸彼岸という野生種の木は地域、地域に根付いた桜なので、それぞれの風土特有の性格があるという。イタリアの風土特有の木の気が、飯田楽器の音に表れている。そして製作者の気とは、長年の哲学的探求により孤心を削りつつ木を削る、まるで木から仏を掘り出す仏師の祈りのような、飯田裕氏の気である。
私はここに、演奏者の気も音に表れる、と付け加えたい。アモイヤル夫妻の慈愛に満ちて暖かい気が確かに会場に溢れ、天真爛漫なニックの気は楽器を伸びやかに歌わせ、福原彰美の無垢な気がベーゼンドルファーの音を蝋燭の炎の如く浄らかに輝かせていた。ユダヤ人が家長のローゼン家ではクリスマスを祝わない習慣だが、それでも私は演奏会のこの夜が、聖夜だと思われて仕方なかった。
最新の画像もっと見る
最近の「日記」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事