現在の状況が大きく変化することなく、一年近くの時間の経緯で、放射能汚染の状況に大きく変化がない場合(これは望ましいケースですが、勿論。)に、内部被曝をどう考えるのかと言うことを、琉球大学の名誉教授である矢ヶ崎克馬氏に伺いました。矢ヶ崎先生は物性の物理学が専門だったのですが、原爆症の認定のずさんさに気づいて、それに関わったことから、内部被曝の概念をどうはっきりと日本社会に認識させるのかに、著作も出されて、主張されている数少ない方です。現況の実態は、海の汚染はかなりひどく、日本国内の影響にとどまるのかどうかさえ、判らないレベルだと話が始まりました。空気中の汚染も深刻で、野菜もよく洗浄しろでは対応できないとも。内部被爆と言う、空気、水、食物からくる被爆と言うのはそもそも原子力の国際機関、つまりICRPも実はマニュアルとして考慮に入れていない。実際に妥当どうかの議論はあるけれども、ECRRの考え方しかないと言うこと。ECRRは自然放射能は害悪で、公衆被曝の年間1ミリをさらに十分の一にという立場なので、極端な部分はあるものの、考慮できる中身だと言うことです。晩発性障害についての警鐘も鳴らしているという。矢ヶ崎先生は、外部被曝はガンマー線で計れる物をいうけれども、内部被曝は、ベータ線もカウントするから、ヨウ素が別の物資に変化する際に出すベータ線だけでも、外部被曝の三倍の線量になる可能性があることや、ヨウ素やセシウム以外のいろんな核種を考慮していない状況で、身体の中に取り込んだ状態と言うのを考えに入れなければならないと話してくださいました。その上で、恐らくは外部被曝の4から5倍程度が内部被曝の実態になると考えたほうがよいかも知れないと話してくださいました。これは、僕が考えていた内部被曝も含めた推定線量を出す考えとも大きく異なってはいませんでした。先生は、内部被曝も考慮すると風の通り道を考える必要があって、まず八十から百キロ圏内はどちらにしても全面退避したほうがよいと話していらっしゃいます。「女性の乳がんが多発するのを恐れている」と先生はおっしゃいます。風の通り道は、真南にゆけば、関東平野、東京にくるし、上に上がれば仙台まで。いずれにしても、人口密集地に現在の状況でも危険は続いているとお話になります。首都圏での危険は、原子炉の状況によってはさらにあがる可能性も考えると、本当は一時的に移転も検討すべきレベルだけれども、お子さんと妊婦だけでも西日本に向かわせたほうがよいし、今の状況でも、かなりシビアな状況と話します。「マスクでは防げないんですよ。放射性物質の粒子は小さいので。都内だと200キロから300キロのゾーンで、一マイクロメートル以下の小さいものが集中して落ちると思います。N100のマスク(かなり高価)を使っても恐らく捕獲しきれない。普通のマスクもしないよりはマシ程度だが、水を含んだガーゼをいれるようにすれば少しはましかもしれないとも。植物は空気から中に取り込んでくるので、野菜を表面だけ良く洗浄することでは、早晩解決しなくなりますしね」と。シンガポールあたりから輸入禁止を食らっているのを過剰反応という方が不可解です、外からどう見えているのかを日本人がさとらなければならないのにとも。
福島に行って、いろいろ現地の方と話したけれども、話しながら自分の中でつらい感覚だったともおっしゃいます。とにかく、80キロ圏内は退避してほしいし、多かれ少なかれ、福島県内の汚染は全面的にすすんでいると。「土地が汚染され、それが染み付いている状態になっていて、政府は低いと言うがとんでもない。土壌から空中に向けて一マイクロ以上線量が出ています。ここで生き続けていく以上、皆さんは各々で考えられる限りの最大のプロテクトをしてほしいと話しますが、必ず後々、障害が出るのですと。大量の人を避難させるべきで、それに政治的に踏み切るべき時期にきているのに」とも。
「安全神話しかなかったんですよ。政府が長年、タカをくくっていた。原子炉が安全でないなら、あの濃度の水を海中に流すしかないのは、他に冷却する手段がないからですよ。水をかけても蒸発し、さらにどんどんもれる。冷却を十分に確保する見通しが無い。恐らく、部分的に核分裂がおきている。メルトダウンが進み、連鎖反応が起きる可能性があっても、本当に有効な阻止手段が無い。」と話す矢ヶ崎先生。「木下さん、沖縄にいて、マジマジするんですよ、いや、イライラし続けているんですよ」と。現在の原子力の科学は内部被爆と言う都合の悪い話を極力認めない、「内部被曝」という概念をなくさせているのが現状であり、言い方を変えれば「支配関係の科学」になっているとも。「原爆症の認定にそのことは如実に出ていて、元々専門外の僕はびっくりしましたよ」と。
そうした中で、今の政府の方針についてもどう考えるのかをきいてみたところ、「直ちに健康被害はでないと言っていますが、これは後々、かなり大量のガンによる死者が出てもしょうがないことを、受容するのかどうかがポイントですよ。皆さんにわかっているのかどうかは別にして」と。
僕が後、気になっていたECRRのクリス・バズビーのテレビインタビューの内容があります。あまりに絶望的なコメントは以下の通りです。「避難を私たちは100キロ以上にしたらよいというアドバイスを欧州委員会のウエブサイトなどでしました。今や東京の住民を避難させることを考えなければいけないと思います。彼らをどこに避難させるかという問題は悪夢です。東京自体はヨウ素だけでなく種々の放射性成分のリスクにさらされています。その中には検出することが容易でないものもあります。トリチウムは、あらゆる場所にまき散らされ、遺伝的欠陥、ガンや様々な病気を発生させる可能性があります。」というものです。この点についても矢ヶ崎先生に聞いてみました。先生は、「木下君、彼に多少の誇張は無いとは言わないが、大筋で、彼のその見解がおかしいと僕は思わないよ。事態は現状でもかなり深刻だ」と。「福島県内にとどまらず、北関東のエリアでも早晩、影響は大きくなる。一定レベルまでは範囲はひろくなっていくと考えたほうがよい」とも。
内部被曝を真摯に考えている専門家はたぶん数人しかいなくて、そのうちの一人である矢ヶ崎先生の割と絶望的な言葉の数々。しかも、最善のシナリオで進んでいると言う前提を立てた場合でも厳しい見立ててですから、最悪の場合は、事ははっきりとかわってきます。こういう状況を踏まえててでしょうが、原子力委員会が年間の被曝限度量を引き上げる検討をはじめました。公衆被曝1ミリシーベルトでは避難地域が拡大するのを抑止できないためとしか思えませんが、いきなり20ミリシーベルトに上げると言いはじめました。すでにこの線量も超えているからでしょうが、もはやお話にもならない世界です。浪江町も23日以後の十一日間で10ミリシーベルトを超えていますから、恐らく発生当初から積算だとこの水準も守るのは厳しいと思います。避難させていない実態に合わせて改定している感覚でしょう。こうなってくるとどうしてこういう話をまともと考えるのか、僕には理解できません。「木下が間違っている」「木下が陰謀史観」「木下がおかしい」という言説を直接電話してくる人もいます。そうではないと僕も断言はしません。僕が間違っているかもしれません。しかしながら、おきている事をフラットに見て、数少ない専門家に聞き続けていく過程を皆さんにお見せするだけで、事実はどこにあるのかを皆さんに判断していただきたいと思います。
どこかに戻りたければこんな面倒な作業は続けません。戻るという感覚なんぞ最初からありません。僕は、自分の良心に基づいて行動するだけです。僕の言説が不当で、行動も惨めで、さらに結果が間違っていれば、僕が完全に終わるだけですから。ただ、それまでは、何を言われても闘い続けますから。
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======================================================年間の被曝限度量、引き上げを検討 原子力安全委(朝日新聞) - goo ニュース
原子力安全委員会は5日、放射線量の高い地域の住民の年間被曝(ひばく)限度量について、現在の1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げるべきか検討を始めた。放射線の放出が長引き、「長く生活する観点で考えないといけない」とし、現実路線への見直しを検討する。
会見した代谷誠治委員は「防災対策での退避は通常、短期間を想定している」と指摘。すでに数週間に及ぶ退避や避難の考え方について、政府から見直しを検討するよう相談されていることを明らかにした。 原発から半径30キロ圏外の福島県浪江町の観測地点で放射線量の積算値が上昇している。先月23日から今月3日までの積算値は10.3ミリシーベルトになった。日本では人が年間に受ける被曝限度量は現在、一律1ミリシーベルト。国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告では、緊急事故後の復旧時は1~20ミリシーベルトを目標としている。