まず松井英介医師の話です。
木下さん、内部被曝というのは、まず、次々と呼吸をつうじてはいってくるんですよ。これが多いんです。そして、水や食物を通じてもさらに入ってくる、核種はつぎつぎといろんなものがあって、入ってきますから。時間軸で見ると短い時間と言うよりも、長い時間で広い範囲内で考えておかないと、どうにもならない。だから、内部被曝はやっかいなんです。もう一つ別の例で考えてみて見ましょうか。X線の場合は、線量と電流の量の関係を考えます。アンペア数と被曝線量はパラレルの関係にあります。低線量のCTを考案したときに、アンペア数を十分の一くらいに落とすことで、低線量のCTとして機能させています。もちろん、外部からの照射ですし、一定時間内での照射ですから、たいしたことにはなりません。染色体にまばらに傷がついても、限られた時間での話ですし、ふつうに修復されていくのです。こうしたX線と異なり、内部に入った粒から、体内で至近距離に近いところから繰り返しα線、β線の照射がくるんです。非常に至近距離で被曝しますし、そこの細胞は強く被曝することになります。DNAは傷ができると、修復の働きが当たり前のようにありますが、傷ついたところにまた放射線があたりますと、なかなか修復がうまくいかなくなることがあります。そして、間違ったくっつき方をする場合があります。内部被曝は体内に粒を取り込んでいる以上、こうした繰り返しがおきやすい環境なんです。しかも、中にありますから、外からの放射線以上に危険度は高いんですよ。繰り返し、照射されるリスクも大きいし。正しく、くっつきにくくなれば、何がおきるのかというと、、ガン、先天性障害が起こりうるんですよ。免疫系統の異常等はさらに高密度に起こりうるんですよ。だから内部被曝をCTと比較するなんて、だましのテクニックですね、全然レベルが違うんですよ。素人相手にこういうウソをつくのは僕には理解できませんね。
それから、「直ちに影響はない」という決まり文句にも触れておきましょうか。まず、作業員の急性被曝は多かれ少なかれ、必ずありますから、これはそもそも該当しませんから。もちろん、「直ちに」というのは、急性被曝がないということしか指していないと、私は理解しています。時間軸の概念から考えると「直ちに」というのは、ちょっと後のことは想定に入れていないという意味でしかなく、本当に安心できる話ではないと言うことなんです。まあ、そういう言葉遣いでなんとなくそれで安心させる物の言い方だということです。つまり、今すぐ無くても、そのうちおきることをはっきりと言わないための言い方なんですね。具体的な言葉で言うと、晩発障害です。二年後、五年後、十年後という感じのスケールで考えていかなければいけません。このうち割合に早く出るのは、核種の粒が小さくて、母体から赤ちゃんに出てくる場合です。粒が小さければ、つたわりやすく、先天性障害は割合と早く出るのです。だから、妊婦が最も早く避難すべきなのは当然のことなんです。生まれてきた赤ちゃんに、こうした障害を極力避けるために、妊娠中の女性は守らなければならないと、私は強く思いますよ。次に子どものガンです。固形のガンというのは、時間軸で言うと20年くらいの間隔はあると思います。しかし、甲状腺のガンは早ければ数年内にでてきますし、白血病も十年以内に出てくる可能性があります。割合に早いんですよ。子どもはやはり早くて、数年内にいろんな形で発症したケースが、イラク戦争で、劣化ウランで被曝した子どもたちでもありました。子どもの方が早くて、しかもはっきりと出てくるんです。だから、子どもを避難させなければならないんです。
長期的な調査が必要になります。今回の場合は広い地域で、多くの人々が被曝しつつある状態ですから、政府がやることは過去にない規模になります。都市部を抱えているので、本当に大変ですよ。内部被曝というのは、蓄積性のあるもの、水に溶けない核種というのがどうなっていくかということです。木下さんも、他の人に聞かれたでしょうから、判っていらっしゃると思いますが、ICRPの基準が軽視しているんですよ。内部被曝を過小評価なんです。やっかいなのは、内部被曝というのは、微量であっても無視できないんです。だから、汚染の少ないところに移住しましょうと言うことしか解決策がない。外部被曝は放射線がそれほど出なくなれば、なんとかなりますが、放射性物質は、もうすでにいろんところに出てしまっていますから、簡単では有りません。高濃度のエリアは本当に大変なことなんです。そういうことをどうしたらよいのかという例はチェルノブイリしかありませんから。対応をどうするのかは、内部被曝はかなりやっかいなものなのです。
僕が危険性を感じているのは、福島、宮城、茨城、のエリアで、内部被爆がどういう状況なのかは危惧していますし、いろんな数値を見ていて、ある程度警戒が必要なのは、千葉、栃木、東京、神奈川でも思います。セシウムはカリウムに近くて、カリウムと間違えて認識する場合があります。もちろん、セシウム以外にもいろんな核種があります。どの核種にも警戒が必要なんです。例えば、野菜は洗った後でも、それなりの放射能があるのなら、外に付着しているだけではなくて、水分からも野菜が中に取り込んでいることを考えなければらないかもしれません。雨が降って、ある程度は染み込んでいるという想定です。こういう状況にあるのが現況なんです。だから、小さなお子さんや妊婦の方が、より汚染の高い地域にいるのは、内部被爆に取り組んできた医師として、避難してほしいと思いますよ。政治的な話は知りませんが。次には妊娠可能な若い女性でしょう。福島県内にとどまらない話ですから。
ヨーロッパの反応は早いですね。フランスもドイツも。ドイツは大使館を大阪ベースにしたままのはずでは。チェルノブイリの経験がありますから。スウェーデンは250キロで線を引きましたし。当然、東京も入りますよ。なかなか、きびしい状態なんです。現実に可能かどうかは別として、内部被曝という観点からしますと、中部より西日本の圏内まで退避するほうが望ましいと僕は思います。いずれにしても、できる範囲内で、日本政府はまず適切な方針を出すべきなのに、そうしようとはしていない。内部被曝ということを原子力関係の人々は、世界的にもずっと軽視していました。そして、内部被曝に関しての研究蓄積は、日本にはありません。世界的にも少ないんですが。ちょうどベルリンで、チェルノブイリ関連の国際会議でしたが、日本の参加者は一人だけのはずですよ。日本の研究者で、劣化ウランの診療に携わったのが、一番まだ経験値がある気もします。とにかく、データが出てきていないんです。今のデータじゃ足りません。調査はもっとすべきだし、データは全部出さなければならない。土、地下水、水道水、大気、植物、野菜、農作物、海水、すべてから徹底的に調査をしてもらわなければなりません。ヨウ素もセシウムも、ストロンチウムもウランもプルトニウムも、あらゆる核種がどのような感じで出てくるのかを詳らかにしなければなりません。それが、はっきりしないと、どの地域にどのくらいの危険が有るのか、新たなホットスポットがあるのか、まずはそこをはっきりさせる作業をおこなうことが肝要なんです。
松井医師のお話です。先生は岐阜環境医学研究所所長、元岐阜大学医学部で放射線医学をされていました。日本呼吸器学会呼吸器専門医でもあり、主な関連著書:『国際法違反の新型核兵器「劣化ウラン弾」の人体への影響』(2003耕文社)があります。とにかく、内部被曝の専門家は少なく、医師として発言する人もほとんどいません。外部被曝に比べて、検証しにくいことが一つの理由ではありますが、内部被曝が人体に与える影響を考察していくと、改めて中身を聞くとびっくりする思いです。その症例のおこり方まで。しかも、現時点でも、広いエリアで問題が今後、発生する可能性を指摘されると愕然といたします。強制的な避難という線引きのあとに、自主的な避難という発想があります。僕自身、いろいろと考えていますけれども、この内部被曝の危険をどう考えるのかという観点からも、引き続き、考えたいと思っています。ここは、実は、日本人がどういう生き方をするかという根幹につながる部分であるとも思いますし、このリスクを軽視することが正しいと言う人々が、まさにそれを軽視することそのものが、国民の安全を最も損ねていく可能性があると僕は思うからです。