原発の問題で、周辺地域で着の身着のままで逃げていた人達が、一時帰宅をされたいという意向が強いと聞きます。というか、政府の方針と関係なく、勝手に自宅に戻って、荷物を持ってくる人が、一人や二人の状態ではないと言うのが、現地の状況と、避難地域に入っている人から直接聞いています。もちろん、何の荷物も無く、そのまま逃げてきていることに対してのみなさんの苛立ちも多く、荷物を取りに戻りたいと言う思いはよくわかります。安全を考えればすべきではないのですが、恐らくそんな一般論を話しても、埒が明かないのは、間違いありませんから、ある意味、しょうがないことだろうと、僕は思います。こういうことは、避難地域といっても、そこへの立ち入りを強制的に禁じている状態ではないですから、はっきりいって、やる意志のある人には、難しい話ではありません。この場合、普通に考えると、家までいって、室内にある必要なものを取りに行くという作業だろうと思います。室内であれば、高濃度の放射性物質が大量に付着している方が、レアでしょうから、そのエリアに立ち入るリスクはともかくとして、持ってきた物品に放射能という観点から、大きなマイナスはないだろうという推測は成り立ちます。こういうことについて、僕は、強く言うつもりはありません。好ましいとは思いませんが、自己判断に近い世界の出来事です。
ただし、今回聞いたのは、高濃度に汚染されていて、線量も高い地域に、屋外で長期間放置されていた車両を持ち帰る人が続発していると言う話です。もちろん、利便性という観点では、自宅にある車を持ってきたいという考えはおよそ納得がいくものであります。自分の車を持ってきて、何が悪いんだと言う話なのだとも思います。しかし、一番問題なのは、この車が、長期間、屋外に置かれているのですから、放射線も放射性物質からも、高濃度に被曝している危険性がかなりあるということです。線量はもちろん一定ではなくて、ある場所と近隣の違う場所でも、ものすごく差が出たりしますから、一概に言うことはできないかもしれませんが、しかし屋外に放置されていた車は、屋内にあったものとは違って、それ自体が、高い放射線を出すような状態になっている可能性があって、下手をしたら二次被曝を招きかねないと言うことです。避難している人々に対して、国がきちんとした方針を出さない状態が続いていますから、我慢がならなくなる人々がいろんな行動にでてくるでしょうし、その一部が、危険性のあることも平気でするという状況なんだろうと思います。現場レベルの話かもしれませんが、こうした現実も放置されている状態です。ぎりぎりの時にはいろんなことがおきますが、守らなければならなすこともあるし、守らせなければならない約束もあるのだということを強く意識した方がよいと思います。被爆という実感がないのが怖いところですが、ある意味、怖いことを平気でやる人々がいるということなんだなあと思います。行政は現実には、ほぼ放置したままです。僕は、他者のことも考えて、少なくとも車など、屋外に長期間放置していたものを避難地域から持ち帰るべきではないと思います。被害にあっている方々にこういう事を言うのは難しいのですが、これは守ってほしいと思います。つまりは、どこで、線を引くのかと言うことです。
さて、文部科学省は、福島県内の子どもたちはやはり年間で二十ミリシーベルトを基準とするようですから、毎時3.8マイクロシーベルトになる校庭だけは屋外活動の制限を設けることにし、実際は現況の状態が固定化すれば、福島県内の大半の学校は、普通に運用されると言うことです。どちらかというと、現況の子どもたちをそのまま通わせる体制を維持するために、数値の基準を二十ミリシーベルトにしたのは、殆ど間違いないことだろうと思います。「子どもは十ミリシーベルト」という原子力安全委員会の委員の主張は骨抜きになり、避難地域以外、現実には放射能は問題がないという政府主張のとおりに、子どもの被曝量が決められるというスタンスと思います。極論すれば「二十ミリシーベルトを年間子どもが被曝しても大丈夫」というのが文部科学省、つまり政府見解だということです。こんなことを政府が平気で容認したことは、僕にはもう言葉にならない位の感覚です。自分たちの都合が優先しても、子どもの健康と安全を、この政府は優先しないということなのだと、僕は思います。きちんとした事を、やらないという事について、そこまで、なぜ固い意志が、今の政府にあるのか、僕には、またしても理解不能です。たぶん年間十ミリシーベルトにした瞬間に、通えなくなる学校が多数出てきて、どうにもならない現実が舞い込んでくるのだと思います。その現実に直面しないため、子どもが、多く放射能を浴びても、大丈夫だと言うことにしたのが、今回の判断だとしか僕には思えません。ありえない話です。子どもが放射能を浴びるのはより少ないほうがよいにきまっています。あたりまえのことが、全く認められない感覚が強まっています。勿論、内部被曝はほぼ考慮されていません。公衆被曝1ミリシーベルトは完全に無視です。
きのう、福島県内のあるおかあさんと話しました。やはりお子さんのことを心配されていて、「何でこんな線量なのに、安全と言うのか全くわからない」とおっしゃいます。「木下さん、県や教育委員会に何回尋ねても、大丈夫を繰り返すだけなんです。政府がきめているから心配いらないという答えなんです。それが信用できますかね。この前、南相馬市に枝野長官が完全防御で短時間はいられましたよね。それは、別に構わないんですが、うちの近くはもっと線量が高いんですが、前の子どもは普通に泥遊びをしているんです。私のところよりも、線量の低い場所にフル防御ではいる官房長官をテレビで見ながら、福島の中通りは、全体から無視されているような不安もおぼえました。さあ、放射能は大丈夫だから、すぐに復興してくださいと言われている気がします。大丈夫ならいいですけど、年間の被曝量も計算すればすぐにわかりますし、内部被曝の危険も考え合わせると、子どもを普通に過ごさせるレベルではないと思うんです」とも。政府への不信感と言うよりも、あきらめに近い感覚が伝わります。僕も政府の言う事を信用するべきなのが通常であるのは十分に理解しますが、このような子どもの健康安全に切迫するような状態の場合に、適切な判断をしているのかは、疑義をはさむべきなのが、まっとうな感覚と思います。僕に対して「謀略史観」というレッテルを貼りたがる人がたまにいますけれども、こうした事のいったい何が「謀略史観」であるのか、本当に教えていただきたいと思います。一方的な話ではなくて、政府判断がおかしいと疑義を唱えることが、「謀略史観」であるならば、ジャーナリズムとしてのある水準以上の活動は無理だと僕は思います。日本のお上に対しての信仰は根強いものですが、この事態の中でも、その信仰は継続されているようです。このお母さんは、当面、学校を休ませることも考えはじめられていて、僕は、ある意味では、追い詰められているのかなとも思いました。意識をちゃんともってこの事態を見ようとする方こそ、シビアな状況に置かれかねないという現実はすさまじいものがありますし、政府が、そういう状態を放置しているのが、今の日本だとも思います。日本的な意味での「無言の圧力」がのしかかるところもあるのかもしれませんが、いろんなことに配慮しながらも、福島県内で、厳しい現実と直面している方の話を伺うと、どうにかする方法はないのかと思うばかりです。本当に厳しい局面です。
実は、東京からもいろんな人達から「逃げたい」というご相談やメールが届きます。このことは、東京の今の現実を反映している部分もあって、色々と考えさせられているところでもあります。これについては、もう少し事態の推移を見ながら、詳しく書いておきたいと考えています。今の東京がよくわかる話とは思っています。
そういえば、東京のモニタリングポストが、ほんの少しですが、平常値の範囲よりあがっています。ほんとに、ほんの少しですが。上がってこないことを、僕は期待しています。
さて、1号機の270ミリシーベルト問題に続いて、きのうの調査で、2号機原子炉建屋内に高温蒸気がこもっているようです。原子炉の下部になる圧力抑制室が損傷していることが原因ではないかと、東京電力は話していますから、こちらも工程が、黄色のシグナルが鳴りはじめているとしか思えません。3号機は元々、強い爆発がおきていますから、復旧はそもそも大変です。そして、どの号機でも、深刻ないろんなトラブルが継続していることが、今の状態だということが再確認されているということだと思います。見通しが立つなら何も言う事はありませんが、見通しを立てることが極めて難しい状態としか思えません。こうした状態で、どうやって作業員を中に入れて、きちんとした作業を始められるのか、具体的な方法論が見えれば、いろんな考え方もあると思いますが、そうしたことが見えない中で、「一体、どうするのよ?」と言う疑問ばかりが浮かんできます。工程表が、きちんと機能してくる工程表になるのかどうかが、僕らがシビアにみるしかなくなっているのが、早くも現実になっているのではないでしょうか。
とにかく、皆さんからのいろんな情報をお待ちしています。原発に直接、かかわりのある方からのお話は特に伺いたいと思っています。よろしくお願い致します。
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2011年4月19日(火)23:47
東京電力福島第一原発の事故を受け、文部科学、厚生労働両省は19日、保育園や幼稚園、学校活動での放射線量の安全基準を発表した。
夏休みが終了するまでの暫定基準として、校庭の放射線量が1時間あたり3・8マイクロ・シーベルト以上の場合は屋外活動を制限し、屋内活動を中心にするなどとした。
政府が指定する予定の「計画的避難区域」や「緊急時避難準備区域」にある学校などを除き、今月14日時点で、福島市、郡山市、伊達市にある計13の保育園、幼稚園、小中学校がこの基準を超えており、両省は、校庭などの利用を制限するよう県教委などを通じ保育園や学校の設置者に求めた。該当する学校などの園児、児童生徒数は3560人。
内閣府の原子力安全委員会によると、基準は、児童生徒の年間 被曝 ( ひばく ) 線量の上限を20ミリ・シーベルトとし〈1〉現在の放射線量が今後も継続〈2〉1日の屋外活動は8時間〈3〉残りは木造家屋内で過ごす――との想定で算出した。年間20ミリ・シーベルトは計画的避難区域の設定基準と同じで、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を基にしている。