研究陣は、免疫療法が施されるとともに、治療ワクチンを投与されたマウスのがん細胞の大きさは、わずか36日で82%小さくなったと明らかにした。そのため、マウスの生存確率も17%から36%へと高まった。

2021-09-15 06:37:21 | 真の解決目指して

「コロナワクチン」技術でがん細胞も殺す

登録:2021-09-14 05:35 修正:2021-09-14 10:35
 
ファイザーとモデルナで用いられたメッセンジャーRNAを利用した治療法 
マウスの95%でがん細胞を完全撲滅…人に対して試験中 
AZと同様のウイルスベクターワクチンも生存率を高める
 
 
新型コロナウイルスワクチンに用いられたRNA技術を利用したがん治療ワクチンが開発され、臨床試験が開始された/ロイター

 新型コロナウイルス感染症の克服の最前線にあるワクチン技術が、がん治療でも新たな希望となっている。

 ファイザーとモデルナのワクチンに用いられたメッセンジャーRNA(mRNA)を利用したがん治療薬が、動物実験で大きな成果を収めた。メッセンジャーRNAとは、細胞に特定のたんぱく質を作るための指針を伝える遺伝物質だ。

 ファイザーのワクチンを開発したドイツの生命工学企業ビオンテックは、この技術を用いたがん治療法がマウスを使った実験で腫瘍をほぼ完全に無くし、現在は人を対象とした臨床試験を行っていることを先日、科学ジャーナル「Science Translational Medicine(サイエンス仲介医学)」で明らかにした。

 研究チームはまず、がん細胞を攻撃するために、免疫細胞が作り出すサイトカインと呼ばれるたんぱく質を4種作るよう細胞に指示するmRNA混合物を作った。サイトカインは免疫調節に関与するたんぱく質で、種類は数百にのぼる。研究陣が作ったmRNAには、がんと戦う免疫システムを支援するとされているインターロイキンやインターフェロンアルファを含む4種類のサイトカインを作る指針が記されている。

 研究陣は、このmRNAを20匹のマウスの黒色腫の細胞に注入した。すると、腫瘍内の免疫細胞がサイトカインを大量生産しはじめ、免疫反応が活発に起きた。40日も経たないうちに、20匹中19匹からがん細胞が完全に消えた。

 
 
    ファイザーのコロナワクチンを開発したビオンテックの実験室=ビオンテック提供//ハンギョレ新聞社

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RNA治療薬、安全性は検証済み…効果を見る試験を予定

 今回の研究の協力企業であるフランスの製薬会社サノフィが行ったもう一つの実験では、黒色腫と肺がんに両方かかっているマウスに対してこの治療法を用いた。ただし、mRNAは黒色腫細胞にのみ投与した。ところが、この実験でも黒色腫だけでなく、肺がん細胞も抑制された。サノフィのティモシー・バゲナール博士は「メッセンジャーRNAによって活性化した免疫細胞が、遠く離れている腫瘍まで移動したためとみられる」と述べた。マウス実験でこの治療法の副作用は現われておらず、治療期間中にマウスの体重が減ってもいないと研究陣は付け加えた。

 ビオンテックとサノフィは現在、黒色種、乳がん、その他の固形がんを患っている231人の患者に対して試験を行っており、mRNA混合物の安全性を検証している。初の発表となる17人の患者の試験の中間結果によると、深刻な副作用は見られなかった。研究陣は今後、この治療法がどれほど効能を発揮するかを試験で確認する計画だ。

 この治療法の弱点は、mRNAを腫瘍に直に注入しなければならないというところだ。したがって現在のところは、皮膚に近いところにある腫瘍にのみ、この治療法を用いることができる。しかし今後は、超音波をはじめとする他の技術を使えば、より奥深いところにあるがん細胞にも用いることができると研究陣は期待している。

 
 
オックスフォード大学ジェンナー研究所が開発したアストラゼネカ社のコロナワクチン=オックスフォード大学提供//ハンギョレ新聞社

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アストラゼネカのワクチン技術を用いた治療ワクチン

 アストラゼネカ(AZ)のコロナワクチンに使われた技術も、動物実験で良好ながん治療効果を示している。

 アストラゼネカのワクチンの開発機関である英オックスフォード大学ジェンナー研究所とルードヴィヒがん研究所が、最近、国際学術誌「がん免疫治療ジャーナル」に発表した研究によると、研究陣はアストラゼネカのワクチンの製造に用いられたウイルスベクター技術を利用して、がん治療ワクチンを設計した。

 疾病に感染する前に投与する予防ワクチンとは異なり、治療ワクチンは疾病の発生後に投与するワクチンだ。治療ワクチンは患者の免疫システムを活性化するかたちで作用する。今回開発された治療ワクチンは、がんの免疫治療の補助薬だ。

 研究に用いられた免疫治療は、患者の免疫システムの一つで、腫瘍に浸透する「CD8+T細胞」でがん細胞を殺すというもの。ところが、この療法は一部の患者では大きな効果を示すものの、大多数の患者にはあまり効かない。患者のT細胞数が少ないことが理由の一つだ。

 研究陣はこれを補うため、T細胞の数を増やす2回投与用のがん治療ワクチンを開発した。このうちの一つが、まさにアストラゼネカ社のワクチンの運び屋(ベクター)を用いたワクチンだ。

 
 
          がん細胞(中央)を攻撃する3つのキラーT細胞=ウィキメディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

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がんのたんぱく質遺伝子注入…免疫細胞の数値上昇

 アストラゼネカのコロナワクチンの運び屋は、チンパンジーの風邪ウイルスであるアデノウイルスだ。研究陣は、がん治療ワクチンでもこのウイルスを遺伝情報の運び屋として使用した。ただし、コロナのスパイクたんぱく質の遺伝子の代わりに、MAGEたんぱく質の遺伝子を挿入したというところが異なる。MAGEたんぱく質は、様々なタイプのがん細胞の表面に存在するため、ワクチンの標的とするのに適した物質だ。研究陣は、MAGEたんぱく質は腫瘍を破壊する免疫細胞をがん細胞の表面へと誘引する「赤い旗」の役割を果たすと述べた。このたんぱく質は正常な細胞の表面には存在しないため、免疫系が健康な細胞を攻撃することで生じる副作用を減らすことができる。

 研究陣は、免疫療法が施されるとともに、治療ワクチンを投与されたマウスのがん細胞の大きさは、わずか36日で82%小さくなったと明らかにした。そのため、マウスの生存確率も17%から36%へと高まった。

 研究チームは、非小細胞肺がんの80人の患者に対して、免疫療法と併用する治療ワクチンの臨床試験を年末に開始する計画だ。

 ジェンナー研究所のエイドリアン・ヒル所長は「この新しいワクチン・プラットフォームは、がん治療に革命をもたらす潜在力を持っている」と述べた。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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