森鴎外の作品に「安井夫人」という短編小説がある。
飾りっ気のないシンプルな小説であるが、いろいろな読み方ができる。リンク先にアクセスすれば、小説が読める時間があったら読んでみて欲しい。短いのですぐ読み終わる。
読む気のない人のためにあらすじを簡単に説明すると、安井仲平という30歳の醜男のところに、16歳の佐代という美しい女性が嫁にいって生涯を終えるという話である。特に事件らしいことも起こらない。事件といえば、佐代が仲平のところに嫁に行きたいと自分から言ったところくらいだろうか。
この淡々とした小説を読むと、人とって幸せとは一体何なのか考えさせられて今う。佐代も自分の人生の意味を分からなかったに違いない。
金持ちとはお金のことを心配しなくてもいい人のことだ定義すれば、幸せな人とは、幸せについて考えなくてもいい人といえるのではないか。この小説を読み終わったあとのすがすがしい読了感はそういうことなのかもしれない。
人は思っているより自由に選択できる事柄は限られている。私自身、親も、性も、生まれた場所も、容姿も何一つ決定していない。私たちは好きと嫌いとに関わらず与えられた条件の中で一生懸命生き抜くしかない。与えられた条件に文句を言っても仕方がない。自分に与えられた条件、そしてこれから人生に起こることすべてを受け入れる心が、人生肯定への道である。
そうすれば、少なくとも幸せとは何かを考えなくても生きていける。