破風山避難小屋~サイノ河原~木賊山~甲武信岳~水師~富士見~国師岳~大弛峠
予定では元旦に破風山避難小屋に着くつもりだった。しかし、結果的に、一日遅れになってしまった。
あと、3日間しかない。最終日は時間的に余裕をもたせないといけない。バスの時間に間に合わないと大変だからだ。そうすると、今日と明日は相当頑張らなければならない。
今日は最低でも大弛峠まで行かなくてはならない。
気合を入れて早起きをする。
出発 5:40
サイノ河原 6:45
木賊山 7:45
甲武信小屋 8:05
甲武信岳 8:40
水師 9:21
富士見 10:10
両門の頭 10:40
東梓 11:35
国師岳 14:45
大弛小屋 15:30
朝、3時頃、避難小屋が吹っ飛ぶんじゃないかと思うくらいのすごい風が吹いていた。確か、北風ではなく南風だったような気がする。山谷風(放射冷却によって起こる風)か低気圧によって起こる風か定かではない。だが、凄まじい風だった。もしテントを張っていたら飛ばされていただろう。
山の朝の風は要注意である。恐ろしくて寝ていられない。
ただ、私の出かける時間にはすっかり止んでいた。外はまだ暗闇だった。ライトをつけて登り始める。
木賊山(とくさやま)。「とくさやま」とはなかなか読めない。2468m。甲武信岳よりすこし高い。だが、景色もなく地味。おかげでスルーされるかわいそうな山である。仕方がない。
木賊山から見た甲武信岳。これから登る。けっこう登りがきつい。
今日は甲武信岳から国師岳につながるこの尾根を行く。割りと平坦な尾根である。しかし、尾根の最後のほうが、きつい登りになっている。多分、その辺が国師岳の登りなのだろう。そこはきつそうだ。覚悟しなければならない。
甲武信小屋。人の話し声がする。けっこう人気のある小屋。水も1リットル50円で売ってくれるという話だ。しかし、雪を溶かして水にすることに決めたので、スルーする。長い距離、水を持っていたら、必ずバテる。できるだけ軽く行く。
ここから先は行ったことのない未知の世界である。すこしワクワクする。どんな所なのだろうか。
この尾根を今日一日ずーっと歩き続けるつもり。
左側の方に登って行っている尾根が国師岳へとつながる尾根である。そこから右側に重なるように連なっている山が金峰山である。国師岳と金峰山の間にあるダルミが、大弛峠である。
今回は金峰山には行かない。
字が消えかかっているが、水師。ここで一人分のテントが張れる。もし、力尽きて甲武信小屋に辿りつけない人は、ここでビバーグすべし。
樹林帯の中にも、テント張れそうな場所がいくつかある。ただ、雪が積もって、かつ風が強いと倒木の恐れがある。テントに直撃することも考えられる。そのリスクも頭に入れておかなければならない。
富士見。ここもテント泊できる場所がある。水師よりここのほうがいいかもしれない。
北風が吹き始め天候がかなり荒れてきた。かなり寒い。大弛小屋はまだまだ先だ。すこし不安になる。
両門の頭。下は切り立った崖である。落ちたら確実に死ぬ。風で吹き飛ばされそうなので、気をつけて渡る。気候のせいで展望はなし。
国師のタル付近か? 吹雪になってきて前がよく見えない。写真なんか撮っている余裕はない。
この辺は精神的にきつかったなぁ。いつになったら国師岳に着くんだという感じ。
それにしても、坂が辛かった。
一時間くらいで、膝くらいまで雪が積もる。雪が降っているというより、横殴りの風で雪が舞っている感じだ。それでも、いつの間にか積もっている。
やっと国師岳に着く。2591m。ただ、景色はない。吹雪で前は見えない。周りは雪女が出てきそうなくらい幻想的である。だが、私はヘロヘロでそんなことを考える余裕すらない。かれこれ9時間くらい歩いている。疲れ、寒さ、不安、そういうネガティヴな感情が渦巻いている。だが、一歩一歩前に進むしかない。とにかく生きたかったら頑張る。それだけ。
気持ちに余裕があったら、相当綺麗だったに違いない。しかし、完全にへたっている。景色どころではない。写真を撮る気力があったのが不思議なくらいである。
だけど、下りだ。もう少しで大弛小屋につく。それだけを考えて前に進む。
雪が膝上に達してきた。歩きづらくなってきた。だけど、もう少し。
15:30。暗くなる前に、大弛小屋に着く。誰もいない。だから、勝手にテントを張らせてもらう。
水場は凍っていた。雪を溶かしてカップラーメンを食べた。とにかく今日は疲れた。
物事は、事後的に起こったことを分析するのと、行為時に判断するのは全く違う。当然、事後的に判断する方が楽である。
この日、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。そして、明日どうすべきかの決断も迫られていた。というのも、ラジオの天気予報によれば、山岳部では雪が降ると言っていたからだ。
明日の奥仙丈ヶ岳方面は、行ったことがなく、どういうところか全く想像できない。また、地図上では破線で迷いやすいコースである。そして、雪が積もれば道が不明瞭になる。倒木が多いという情報があるので、雪が積もれば、倒木の間を踏みぬいて大怪我をしかねない。このまま雪が降って積もれば、かなり危険な登山が予想される。
そうすると、考えられる方法は3つある。1つは、来た道を戻ることである。つまり、甲武信岳に戻って徳ちゃん新道(西沢渓谷の方)を降りていくコースである。
2つは、大弛峠につながっている林道を通って帰るコースである。
3つは、予定通り、奥千丈岳方面から乾徳山に下っていくコースである。
うーん、何のためにここまで来たのかと思う。楽をしたいならわざわざこんなところまで来ない。困難を乗り越えるために、自分を試すために、ここまで来たのだ。
そこで、決断する。予定通り進もうと。どんなに地図を眺めても予定通りのコースが一番近道である。道を間違わなければ、このコースが必ず早い。だから、コンパスを慎重に使って迷わないようにすること。足元を気をつけ倒木の間を踏み抜かないようにすること。それらのことを頭に叩きこんで少しずつ前に進む。それで行こう。
そう決断すると元気が出てきた。気持ちが闘う方に向いてきたからだ。
結果的に、次の日は晴れていい天気になる。だから、全く問題はなかった。しかし、もし、天気が崩れていたら、また違った結果になったかもしれない。
この2日は、槍ヶ岳や大菩薩嶺で遭難者が出たり、長野のスキー客が道に迷ったりした日である。
あの吹雪はかなりすごかった。ホワイトアウトに近かったと思う。遭難するのもよくわかる。私も一歩間違えば危なかった。
事後的に何も起こらなかったらOK、というだけではなく、行為時のあの不安と決断を忘れないようにしようと思っている。
奥秩父縦走 2012 1月3日 へ続く