大弛小屋~北奥千丈岳~奥千丈岳~シラベ平~ゴトメキ~大ダオ~黒金山~笠盛山~乾徳山~高原ヒュッテ
出発(大弛峠) 5:30
北奥仙丈ヶ岳 6:50
奥仙丈ヶ岳 7:50
シラベ平 8:40
ゴトメキ 9:20
大ダオ 10:30
黒金山 12:00
笠盛山 13:00
乾徳山 14:00
高原ヒュッテ 15:00
この日も早く起きた。まだ暗いうちに出発した。遭難はほとんどの場合、焦りから生じる。だから、精神的に優位に立つには早く出発して時間的に余裕を持たせることが重要である。
ただ問題がある。それはこの時期、朝6時半を過ぎなければ明るくならないことである。早く出すぎれば暗い道を歩かなければならない。暗い道は危険である。なかなか難しい。
だから、北奥仙丈ヶ岳に着く頃、夜が明けるように、時間を調整して出発した。
今まで西へ西へ目指していたのだが、90℃方向転換して南のほうへ向かう。
まずは石楠花(シャクナゲ)新道を行く。
ここから、南へ向かう。どういう道か分からないので、少し緊張する。雪が積もって歩きづらい。
北奥仙丈ヶ岳。2601m。奥秩父の最高点。
大弛峠までは、林道を通って車で来れる。大弛峠からおおよそ一時間で北奥千丈岳まで来れる。体力に自信がない人でも、マイカーを持っていれば、比較的簡単に登ってこれる。
景色は最高。体力はないが高いところから景色が見たい人にはお薦め。
道迷いを心配していたが、赤いテープの道標がしっかりあって、非常に助かった。
この辺は、石楠花(シャクナゲ)が多い。石楠花新道と言うのもよくわかる。しかし、低木の石楠花が登山道を塞いでいるので、歩きづらくて頭にくる。ザックに引っかかってひっくり返りそうになる。それが想像以上にストレスになる。多分、春夏はもっと酷いに違いない。要注意。
奥仙丈ヶ岳。2409m。景色もない。面白くもない。
注意しなければならないのは、ここを境に大きく西側に道が折れるので、迷わないように。
私は道がないのに強引にまっすぐ進んでしまった。途中で、何かおかしいと思い、引き返し、何とか助かった。赤いテープがないときは、必ず引き返すこと。~だろうと自分の都合のいいように推測するのは危険。
多少、テントが張れそうな場所がある。力尽きた時、ビバーグも可能である。
石楠花新道は、心配していたが、まぁまぁ歩きやすい。大丈夫、迷うことはない。ただ、奥仙丈ヶ岳の方向転換に注意すること。
この辺は獣のあしあとが多い。熊っぽいような気がする。写真をとっておけばよかった。
シラベ平。2154m。林道が通っている。ここは、もちろんテントが張れる。
昭文社の山と高原地図 「金峰山甲武信」によれば、ここから黒金山までの登山道は破線になっている。破線は難路という意味である。しかし、私の感想では難路というほど厳しい道ではない。それより、黒金山から乾徳山までの道のほうが迷いやすい。
破線上は鹿が多い。だから、良い猟場となる。危険で一般人には近寄ってもらいたくないということで、破線にしたのではないか。違うか。
まぁ、昭文社にはなんの利害もないから関係ないだろうけどね。
この辺くらいから倒木が非常に多くなる。倒木の理由は幾つかあると思う。そのひとつに、鹿の食害があげられる。冬になると食べる草がなくなる。そこで木の皮を食べるのだ。木は皮を食べられると枯れてしまう。枯れて何年かすれば倒れる。そういう流れである。それを証拠に、倒木が多いところは鹿のフンだらけである。
鹿は可愛らしい動物である。殺すのはかわいそうな気がする。しかし、森を守るために鹿を狩るのは仕方がないことだ。
大ダオ。景色が良い。そして、心地よい場所である。
この時は知らなかったが、徳和のお寺で聞いた話し。ここで首をつって自殺をした人がいて、重くて下ろせず寝袋に入れて埋め、一年放置した後、里に下ろしたとのことだ。
まぁ、最近こんな話を聞いても全くビビらなくなった。死体は死体である。その人と面識がなければ単なる物質である。人は死に土になる。別に変わったことではなく当たり前のことである。縄文時代からどれだけの人が死んだのか分からない。少し歩いたら、すぐそこは人が死んだ場所である。そんなこといちいち気にしていたら生活できない。
むしろ、ほんとうに怖いのは、生きている人間である。ただ、私を傷つけるかもしれないその人も死ぬ。そして、私もいつか死ぬ。
綺麗な広場だが、鹿のフンだらけである。気にする人は注意。鹿は草ばっかり食っている。だから、そのフンもあまり汚くない、と思う。この間、テントを張る時、周りにたくさんあったので素手でつまんで放り投げた。20個くらい。もちろん、手は洗ったが、すぐその手で飯を食べた。山にいると神経が磨耗してくる。都会に戻ると、少し気持ちが悪い感じがする。
山は人間を動物化する。
大ダワからの富士山。ここを下って徳和に行ける。山梨市駅行きのバスに間に合えば、今日中に家に帰れるかもしれない。ちょっと迷ったが、やっぱり、黒金山に行きたいので止める。ちょっとでも頭をかすめるのが私の弱さである。
大ダワから見る乾徳山。左から右に辿っていくと、尾根の先っぽが少しとんがっている(乳首みたいなの)のが見える。あれが乾徳山の岩場である。
黒金山までの登山道。シラビソかコメツガか分からないが、針葉樹の樹林帯の坂を登る。けっこうきつい。
この辺は尾根道が広くどこを歩いたらいいのかわからなくなる。ただ、迷うことはない。
黒金山山頂から見える景色。甲武信ヶ岳から北奥千丈岳、それから、今日歩いた石楠花新道、シラベ平、ゴトメキ、大ダオ、すべて見渡せる。正直言って、涙が出そうになるくらい感動した。自分が歩いてきた軌跡がよくわかるからである。自分のがんばりが誇らしく思える。
一歩一歩少しずつ進めば、いつか知らないうちにすごいところまでやってこれる。
奥秩父縦走について、瑞垣山を終点にするのも悪くないが、この黒金山経由で徳和に抜けていくコースの方がいいと思う。こっちのコースの方が感動が大きい。
笠盛山頂上。
尾根沿いから見える乾徳山。富士山も見える。
黒金山から乾徳山までの尾根は緩やかな下りである。一般論として、尾根沿いを下っていくときは要注意である。どうしても尾根から外れて、沢の方に降りていく危険があるからである。私も何回か道を外し沢のほうへ向かっていってしまった。おかしいと思いすぐ引き返したが。
沢は水が岩を削って出来ているから切り立った崖になっていることが多い。だから、うっかり沢の方に降りてしまうと、崖に落ちてしまう危険がある。そして一回落ちてしまうと登れず、かつ降りられなくなってしまう。携帯電話がつながればいいが、繋がらなければ、多分、命が危なくなるだろう。
乾徳山山頂。乾徳山に登るだけの体力がなかった。だから、写真だけ撮って、下山道に降りる。
このまま降りて、徳和におりることもできたが、高原ヒュッテで一泊することにした。ヒュッテの中でテントを張った。
ストーブに薪をくべたら、かなり暖かくなった。快適である。ただ、すこし不気味だった。なんでだろう。外より廃墟の中のほうが気持ちが悪い。
10分くらい降りると、水場がある。じゃぶじゃぶ水が出ていた。久しぶりの水だ。その水で、ご飯を炊いて食べた。
ほぼ、今回の登山は終了である。寂しい気もするが、早く帰りたい気もする。明日は10:30くらいのバスに乗って帰ろうと思う。
ヒュッテにある鏡を見ると、ひげモジャの顔になっている。お腹は、仮面ライダーのように割れている。脂肪率は、多分一桁台になったと思われる。ただ、顔はむくんでパンパンだ。ぜんぜん痩せて見えない。丸くなっている。
少し体臭がする。水が豊富にあるから、寒いのを我慢して体を拭く。人間社会に戻るには、それなりのエチケットが大事である。
まぁ、早く寝よう。
奥秩父縦走 2012 1月4日 へ続く