フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

幻影の書 ポール・オースター

2010年12月01日 08時52分51秒 | 読書・書籍

 本は真ん中あたりで開き、一つのセンテンスの下に鉛筆で薄く線が引いてあるのが目に入った。

 Les moments de crise produisent un redoublement de vie chez les hommes.


 危機的な瞬間は人間のなかにいつにない活力を生み出す。あるいは、もっと簡潔に訳すなら、人は追いつめられて初めて本当に生きはじめる。


 
 本書では、二人の主人公が出てくるが、両者とも生と死の境目にある塀の上をよたよたと歩いていて、どっちに転んでもおかしくない状況にある。死の側に倒れないのはほとんど偶然の出来事や出会いによるものである。

 ポール・オースターの描く人々、特に主人公は、いつも絶望的状況におかれている。それは、彼がホロコーストを経験したユダヤ人の血を引くということが影響しているのだろうか。ただ、絶望的状況にありながら、物語は息つく間もないほど面白く展開する。
 日常生活ではありえないと思える出来事が、リアルに感じられるのは、絶望的状況では人々は、どんなにおかしな出来事でもあっても救いを求めそれを掴もうとあがくからである。

 
 危機的な状況で自分にできることは限られている。その限られたことに意識のすべてを集中することで無駄な思考を排除し、その死的状況をブレイクスルーできるのである。
 ポール・オースターの小説は救いのない人々を本当の意味で救おうとする小説なのではないかと思っている。

コメント
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