「還るべき場所」を読了。
世界第2位の山、K2(8611m)をめぐる物語である。K2はエベレスト(8838m)より登頂が難しいといわれている。
主人公の青年は、このk2登頂の一歩手前で、最愛の恋人を失ってしまう。
あらすじをざっと要約すれば、その恋人を失った心の空虚感を、再度k2に挑戦することで、取り戻していく物語である。
個人的な趣味だが、このような絶望の淵から這い上がっていく人間の復活の物語に魂が揺さぶられてしまう。
この作家は、人を愛する熱のようなものをうまく表現するなぁと思う。心の内側からジワーっとくる熱い思いを、読者の私たちにも与えてくれる。
人を愛することは、矛盾を孕んでいる。
愛は私たちに生きる意味を与えてくれる。しかし、それを失ったとき、生きている意味が無くなってしまう。愛が深ければ深いほど喪失感は大きい。それを失ってしまったときにどう振る舞うかが問題となる。
物語には、もう一人の重要な人物が登場する。60代の大企業の会長である。彼は、戦う男である。正確に言うと、戦うことを決意した人間である。
この会長のエネルギーが、物語に強いパワーを与えている。このエネルギーに若者たちが、共鳴していく。
この会長の言葉を幾つかピックしておく。
「どんな目標への挑戦でも、いや人生そのものに対しても、絶望というピリオドを打つのは簡単なことだ。しかしそれは闘い抜いての敗北とは意味が違う。絶望は闘いからの逃避だよ。あるいは魂の自殺行為だ」
「絶望によって前に進もうという意志にピリオドを打つたびに、人は自らの生の品位を貶める。それを繰り返すたびに人生は腐っていく」
「人は夢を食って生きる動物だ。夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢は世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信じさせてくれる。そうやって自分を騙しおおせて死んでいけたら、それで本望だと私は思っている」
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還るべき場所 (文春文庫) |
笹本 稜平 | |
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