風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

雪と湯の花と君と

2024年02月25日 19時30分05秒 | 詩集

 ホームへ降りたら
 湯の花の香り
 君は白い息を吐き
 静かに降りしきる
 雪を見上げる

 人影もまばらな温泉町
 純白に埋もれた児童公園
 僕らの前を歩く
 放し飼いの柴犬
 ともだちになりたいと
 柴犬は振り返りふりかえり
 僕たちを見つめた

 雪が音を吸い取るから
 僕たちの足音も聞こえない
 つつましい教会
 十字架に降る雪
 神さまが拵えたこの世界で
 愛しい君と過ごす人生

 露天風呂
 湯けむり
 ぼた雪が
 舞い降りてはとける
 湯の花の香りを
 胸いっぱいに吸い込めば
 とろけるように
 身体中の力が抜けた

 窓の外は白い渓谷
 君は瞳をゆらして
 初めての雪景色を見つめる
 僕は背中から
 そっと君を抱きしめる
 やさしく抱きしめる

 
 

小説家になろう投稿作品
https://ncode.syosetu.com/n9200ib/
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風になれ

2024年02月10日 00時02分12秒 | 詩集
自由になったつもりでいたんだ
そうさ、外の世界のまばゆさに憧れて
流れるままに人生の旅をして

自由になったつもりだった
愚かだった
十字架は十字架として
消えるはずもないのに

でもさ、今からでも遅くはないだろう
人は誰だって
いつでも生まれ変われるのさ

十字架を背負って進んで行け
十字架を背負って越えて行け

人は生まれながらに悲しいと
わかっただけでも
ありがたいこと

風になれ
今こそ風になれ
罪を背負った風になれ
あとは神さまがなんとかしてくださるさ

風になれ
今こそ風になれ
ほんとうに自由になるための
風になれ
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ゆず湯

2024年02月04日 23時16分58秒 | 詩集
 
 キスをしよう
 きみのくちびるは
 ほんのり
 ゆずの香り


 運命ってあるんだね
 きみと出会うまで
 思いもしなかったよ
 そうとは知らずに
 ぼくはきみを
 探していた
 きみはぼくを
 待っていてくれた

 お風呂はきもちいいね
 気持ちがほぐれるね
 きみを愛して
 きみに愛されて
 人生そのものが
 あたたまった

 湯船に一つずつ
 ゆずを浮かべるようにして
 ぼくらの思い出が
 ふえていく
 一日いちにちの
 営みの積み重ねが
 希望の地への道になる

 ぼくたちを
 結びつけてくださった
 神さまに感謝しながら
 心に浮かんだ想いを
 感じるままに
 暮らしていこう


 キスをしよう
 きみのくちびるは
 ほんのり
 ゆずの香り
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夢愛日記

2024年01月29日 13時08分56秒 | 詩集

 心をノックしたのは
 いたずらな春の風
 白い翼の天使が
 運んでくれた恋

  あなたと出会って
  生まれ変わった
  さびしい心が
  愛で満たされるだなんて
  思いもしなかった

 瞳に映る
 互いの影を大切にして
 あなたとわたしの
 夢愛日記


 運命に導かれて
 人は旅をする
 愛を識しるために
 旅をする
 
  もしも
  あなたが死んだなら
  わたしも独りでは
  生きていられない
  どうやって生きればいいのか
  見当もつかない

 桜咲く春も
 風光る夏も
 紅葉燃える秋も
 小雪舞う冬も
 ふたりで綴る
 夢愛日記

 なにげない暮らしが
 わたしたちの生き甲斐
 あなたとわたしの
 夢愛日記
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深夜の魚釣り

2023年10月20日 08時47分06秒 | 詩集

 寝静まった真夜中の湖畔
 冴えた月あかり
 小さな桟橋に腰掛けて
 ぼんやりと釣り糸を垂れた

 岸辺には
 黄色い銀杏の大木
 夜風に揺れて
 はらりと葉が落ちる
 波は金と銀を織りなして戯れる

 夜の鳥がどこかで啼く
 智慧をつぶやているのか
 それともたださびしいと
 愚痴をこぼしているのか
 ひんやりとするから
 僕は手編みのマフラーを首に巻く

  学生時代に暗記した
  現代詩をつぶやいてみたり
  旅先で思わず見惚れてしまった
  雄大な雪山の連峰を思い浮かべたり
  それから
  もう二度と会うことのない
  あの娘この横顔を思い出したり
  元気にしてくれてるといいけど

 浮きに当たり
 ずしりとした手応え
 黒い鯉を釣り上げた
 釣り針をはずそうとすると
 鯉の口に銀貨が一枚
 僕は銀貨をつまみ
 宙へかかげて眺める

 なぜ生まれてきたのだろう?
 なんのために生まれてきたのだろう?
 この世界はどうして存在するのだろう?
 魂のふるさとはどこにあるのだろう?
 死んだらそれですべておしまいだなんて
 そんなことがあり得るのだろうか?


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あなたに贈りたい花束がある

2023年09月26日 23時19分29秒 | 詩集

 聞いてくれますか
 わたしの心
 わたしの想い
 あなただけに打ち明けたい
 わたしの愛を


 お酒の力を
 借りてはいますが
 わたしの真心に
 かわりはありません
 あなたのことしか考えられない

 わたしなりに
 いくつか恋をしてきたけれど
 これほど大切にしたいと思ったのは
 あなたが初めてです
 あなたに出会ってからというもの
 無数の星が
 胸の内でまたたくようです

 わたしの夢はあなたです
 わたしの望みは
 あなたが満ち足りたほほえみを
 いつも浮かべていること
 生きる悲しみは
 わたしがそっと預かりましょう


 受け取ってくれますか
 わたしの心
 わたしの想い
 あなただけに届けたい
 こころの花束を
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『枕草子』の「をかし」を「やばい」に換えてみた

2023年09月20日 06時15分30秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 第一段(抜粋)

 夏は夜。
 月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。
 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、や・ば・い・。
 雨など降るも、や・ば・い・。

 秋は夕暮れ。
 夕日のさして、山の端いと近くなりたるに、烏の、寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。
 まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、ち・ょ・う・や・ば・い・。
 日入りはてて、風の音、虫の音など、はた、言ふべきにあらず。


第二段(抜粋)

 三月。
 三日は、うらうらとのどかに照りたる。
 桃の花の、いま咲きはじむる。
 柳など、や・ば・さ・こそさらなれ。
 それも、まだ繭にこもりたるはや・ば・い・よ・。
 ひろごりたるは、うたてぞ見ゆる。
 おもしろく咲きたる桜を、長く折りて、大きなる瓶に挿したるこそや・ば・い・。
 桜の直衣に出だし袿して、客人にもあれ、御兄の君達にても、そこ近くゐて、ものなどうちいひたる、ち・ょ・う・や・ば・い・。


第二十六段

 心ときめきするもの。
 雀の子飼ひ。稚児遊ばする所の前渡る。
 よき薫き物たきて、一人臥したる。唐鏡の少し暗き見たる。
 よき男の車とどめて、案内問はせたる。
 頭洗ひ、化粧じて、香ばしう染みたる衣など着たる。
 ことに見る人なき所にても、心のうちはなほち・ょ・う・や・ば・い・。
 待つ人などのある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。


第四十段(抜粋)

 夏虫ち・ょ・う・や・ば・く・廊のうへ飛びありく、ち・ょ・う・や・ば・い・。
 蟻はにくけれど、軽びいみじうて、水のうへなどをただ歩みありくこそや・ば・い・よ・。


第四十一段

 七月ばかりに、風のいたう吹きて、雨などさわがしき日、おほかたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香少しかかへたる綿衣の薄きをいとよく引き着て、昼寝したるこそ、や・ば・い・よ・。



(2021年2月5日発表)

 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第485話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/
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破れても

2023年09月06日 06時15分15秒 | 詩集

 空が破れても
 心が破れても
 人は生きながらに
 生まれ変わる


  秘めた想いは
  ポケットに隠したまま
  あなただけわかってくれれば
  それでいい
  あなたがわかってくれるだけで
  私は満たされる

  悲しいことや
  さびしいことがあっても
  もう嘆いたりしません
  穏やかな微笑でもって
  夢を
  そっと
  くるんでしまいましょう

  熱いコーヒーを飲んで
  一息入れたら
  仕事を続けます
  他人の時間を耕すためにではなく
  自分の時間を耕すために
  自分の心を実らせるために
  私自身のための仕事を続けます


 空が破れても
 心が破れても
 人は生きながらに
 生まれ変わる
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夏の終わりの夜に

2023年08月24日 06時15分30秒 | 詩集

 夏の終わり
 夜風の吹くホーム
 遠くに花火が上がる
 旅立つ僕を許しておくれ


 幸せになりたかったのに
 どうしてもできなかった
 わかりあおうとすればするほど
 わがままだけを言い合って
 傷つけあう日々
 ほんのすこしだけでも
 譲りあえたらよかったのだけど

 あなたを殺すか
 自分が死ぬか
 堂々巡りの末に出した答えは
 あなたから離れること
 生きていれば
 生きてさえいれば
 なにかを見つけられるかもしれないと

 暗闇に咲く花は
 あなたの未来だと思いたい
 あたりを震わす爆音は
 祝福の声だと思いたい
 消えない悲しみの向こうに
 あなたの幸せが待っていると信じたい


 夏の終わり
 鉄橋を渡る夜汽車
 遠い思い出に舞う花火
 旅立つ僕を許しておくれ
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夏・ピアノ

2023年08月02日 06時15分45秒 | 詩集

 ピアノを奏でる
 あなたの白い胸元
 細い指の滑らかな動き
 水のボールが浮かぶように
 夢の音があふれる

 窓の向こうで揺れる夏
 すべてを包む陽射し
 笑顔の咲くひまわり
 季節を急ぐ蝉の声
 ピアノの音に耳を傾けながら
 光を見渡す

  あなたと二人きりなのに
  あなたの肩に手を置きたいのに
  触れてしまえば
  なにかが壊れてしまいそうで
  あなたを見つめてる
  ただ見つめてる

 風を孕んだ白いカーテン
 心に吹き抜けるのは
 あなたへの想い
 ふたりの希望
 遠くまでつづく未来
 教会の尖塔がきらりと光った

 ピアノを奏でる
 あなたの白い胸元
 細い指の滑らかな動き
 水のボールが浮かぶように
 愛の音があふれてる
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