風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

隣の市の給食はおいしい(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第83話)

2012年03月03日 13時02分14秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 高校に入学したばかりの頃、隣の市に住む新しい同級生と学校給食の話で盛り上がったのだけど、隣のH市の話を聞いてびっくりしてしまった。
 僕が通っていたN市の小学校では、年に二三回、お雛様の日や六年生の最後の給食の日といった特別な日だけケーキが出た。お雛様のケーキは、桃色、白、黄緑の三色ケーキで、それがとても楽しみだった。
 ところが、H市ではなんと毎月一回、給食にケーキがついたという。しかも、なんのイベントもないごく普通の日に。H市のクラスメイトはケーキくらいどうってことないよといった顔をしていた。僕はうらやましくてしょうがなかった。
 僕が通っていた小学校では、月に一回ご飯食が出た。砂糖をいっぱいまぶした揚げパンや黒パンは好きだったけど、普通のコッペパンとご飯を比べたら、やっぱりご飯のほうがいい。いっそ、毎日ご飯だったらいいのにと思ったものだった。
 ところが、H市では週に一回はご飯食だったそうだ。しかも、ただの白いご飯ではなく、炊き込みご飯や五目御飯などが多かったのだとか。僕は話を聞いているだけでつばが出てきた。
 僕の家からチャリンコで十分も走ればH市だったのだけど、市が変わるだけでこんなに給食が変わるものかと不思議でしょうがなかった。
 なんでも、H市には工業団地があって企業がたくさんあるので、税収が多くて市の財政が潤沢なのだとか。それで、給食のメニューも豊富だったそうだ。いまさら小学生に戻って給食を食べなおすわけにもいかないからどうしようもないのだけど、なんだかなあとちょっと割り切れなかった。
 ちなみに、給食のメニューのなかでは、デザートのカルピスゼリーがいちばん好きだった。ぺらぺらの薄いプラスティックの容器に入った四角いゼリー。たしか、月に一、二回は出ていたと思う。カルピス色のゼリーを見ただけで、なんとなく楽しい気分になれた。もういちど食べてみたいな。





(2011年3月5日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第83話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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