アシスタントのアニメちゃんは腐女子だ。
職場のパソコンのデスクトップには、いつもイケメンのイラストを貼ってあって、時折、愛しそうに見つめている。ある時、アニメちゃんが銀色の長髪に和服のようなものを着た若い男のイラストを見つめていたので、こんな古風なのがいいのかなと思いながら、
「タイプなの?」
と僕が訊くと、
「はい。格好いいです」
と目を輝かせ、
「こんなのを見てしまうと、現実の男なんて相手にしてられません」
などとアニメ声でのたまう。
そのくせ、日本の本社からイケメンの日本人男性職員がやってきた時には、「あの方は何歳ですか?」
と大はしゃぎで僕に訊く。かなりの面食いだ。たぶん、イケメン以外は男じゃないくらいに思っているのだろう。
先日、グループ現地子会社のさわやかイケメンのNさんと顧客訪問をした後、広東料理のレストランで一緒に円卓を囲んで昼ご飯を食べた。性格もやさしくてとてもいい人だ。僕は「Nさんと話しなよ」とアニメちゃんにふってあげたのだけど、
「緊張します」
と言ってもじもじしている。僕に口ごたえする時とは大違いだ。毎日、これくらいしおらしい態度で素直にがんばってくれれば、僕はヘッドロックをかけなくてすむんだけどなあ。
イケメンのイラストにはまっているからなのか、理想が高すぎるからなのか、アニメちゃんはまだ彼氏がいないらしい。いないどころか、これまで付き合ったこともないそうだ。
そんなアニメちゃんもそのうち彼氏を見つけるのだろう。どんな男を選ぶのか楽しみだ。
(2012年6月18日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第182話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/