風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

御飯が時々切れてしまう広州の吉野屋(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第210話)

2013年11月08日 20時07分56秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 広東省広州のショッピングモールには牛丼の吉野屋があるので、たまに行って牛丼を食べる。ジャンクフードといえばそうだけど、外国で暮らしていると日本のファーストフードの味が恋しくなってしかたないことがあるから、そんな時、吉野屋の牛丼を食べるとすこしほっとした気分になる。
 こちらの吉野屋は中国人の好みに合わせてキノコ牛肉丼やトリなんとか丼などといったいろんなメニューを取り揃えていて、店内は中国人で賑わっている。牛丼を注文する客は、だいたい全体の三分の一くらいだろうか。ほかの人たちはキノコなんとか丼やトリなんとか丼を食べている。
 ただ、こちらの吉野屋には、残念ながら生卵がない。中国人は生卵を食べる習慣がないうえに、こちらの卵は日本のような鮮度管理をしていないから生では食べられない。どうしても牛丼に生卵をかけて食べたい日本人は、吉野屋で牛丼をテイクアウトして、こちらのジャスコで売っている生食用の卵(一般のスーパーでは売っていない)を買ってきて家で生卵をかけて楽しんでいる。
 この間、吉野屋へ行ったら、ずいぶんレジで待たされた。こちらはマクドナルドやケンタッキーと同じようにレジで注文して、そこで牛丼を受け取るセルフサービス式だ。
 ようやく順番がきて牛丼を頼んだのはいいのだけど、品物が厨房から出てこないことにいらいらしたレジの店員が、
「どうするんだよ」
 と厨房へ向かって怒鳴っている。
 なんと御飯がなくなってしまったのだ。
「十五分だって? そんなに待てるかよ」
 とレジ係が怒っても、厨房係りはただ、
「どうしようもないよ」
 と、肩をすくめるだけだ。
 レジ係りは御飯が炊き上がるまで十五分かかるからラーメンに変更しないかと僕に勧めるけど、吉野屋でラーメンを食べてもしかたないから、僕はお金を返してもらって店を出た。
 この店では時々御飯がなくなってしまう。僕がその吉野屋で御飯が切れた場面に出くわしたのはこれで二回目だ。知人からも吉野屋で御飯がなかったから牛丼を食べられなかったという話を何度か聞いたことがある。ショッピングモールにはレストランがたくさん入っているから、ほかの店から御飯を買ってきてその場を凌いでもよさそうなものだけどそんなことはしない。
 店が流行っているからこそ御飯が切れてしまうわけだけど、やはり厨房の管理があまいのだろう。丼物が売り物の店で御飯が切れたのでは商売にならないと思うんだけどなあ。




(2012年10月31日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第210話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

ツイッター