地下鉄駅へ急ぐ人の群れ
夕暮れがあたたかく
人懐っこく灯りはじめ
ぼんやりとしたけだるさが
ため息になったりして
僕は人の川を離れ
君の好きなベーカリーへ
明日目覚めたとき
君が作ってくれる朝食の
パンを買いに行くのです
毎朝君は
時計を気にしながら
パンを頬張り
目玉焼きにかぶりつく
僕のそばで
やさしく僕を見てくれます
なんだか僕は
満ち足りた気持ちになって
それから鞄を取って
勤めへ出かけるのです
パンを買う糧を得るために
トナーを取って
薄い紙を敷き
わけもなくトングを
開けたり閉めたり
パタパタさせて
明日のパンを選びます
君の好きな
干しぶどう入りの丸パンをひとつ
僕の好きな
栗あんぱんをひとつ
あとは気分次第で
クロワッサンや
チーズフランスパンを取ったり
チョコレートの入った
デンマークデニッシュにしたり
ベーカリーの袋と鞄を
いっしょに下げて
夕暮れの沈んだ
地下鉄駅へ
ささやかな生活に
酔いしれて
こんな暮らしもあったのだと
ただなんとなく
今がやすらぎなら
神さま
もうすこし
しあわせでいさせてください
(了)