雲南省で留学していた頃、朝食に紫糯米むらさきもちごめのおにぎりをよく食べていた。
学校の門のすぐ近くに、七十歳はとうに過ぎただろうおばあちゃんが屋台を引っ張ってきて売っていたのだ。白い普通の糯米を炊いたのと紫糯米を炊いたのとを混ぜてタオルのなかへいれ、タオルをぎゅっと絞って紡錘形のおにぎりにする。地元の人たちは、おにぎりのなかへ油条(中国揚げパン)を一切れと黒納豆を少し入れ、そこへザラメの砂糖をまぶしておにぎりの具にしていたけど、僕は揚げパンも納豆も砂糖もいらないからといって、白糯米と紫糯米だけでおにぎりを握ってもらっていた。紫糯米はあまくておいしい。毎日食べても飽きなかった。
紫糯米は古代米の一種。日本でも健康食品として売っているようだ。造血作用があるだとか、皮膚アレルギーによいといった話を聞いたことがある。ただし、この紫糯米は栽培がいささか面倒なのだそうだ。稲の背が高いので倒れやすいという。
雲南省の南にある西双版納シーサンパンナへお祭りを見に行った時、タイ族の女性が道端で紫糯米のおにぎりを並べていた。すべて紫糯米で作ったおにぎりだったから、亜熱帯の陽射しを照り返してとても色鮮やかでまぶしかった。僕はさっそくそのおにぎりを求めて堪能した。日本ではお祭りの日や祝い事の時に赤飯を炊くけれど、タイ族も同じような感覚で紫糯米を炊くのかもしれない。
上海のスーパーでも紫糯米を売っている。それだものだから、時々、家族にリクエストして白米に紫糯米を混ぜて炊いてもらっている。紫色に染まった御飯を見るとなんとなく楽しくなる。体にもいい。
(2016年12月26日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第387話として投稿しました。
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