ずっとこの日を待っていた――ホール入り口へ向かって
長蛇の列をつくる人の足取りからは、この日を待ち望んだ高揚が伝わってきました。
去年の秋、ショパンコンクール2位に受賞して話題をかっさらったピアニスト、反田恭平さんを迎えてのコンサート。
(画像が手振れで申し訳ありません…)
ホールは、4階席までぎっしり満員。
そんななか、銀のステッキで確保できたチケットは、なんと40枚。
運よく私も天井桟敷の一枚を手に入れ、鑑賞することができました。
「今回は、チケット取れたこと自体が奇跡なんですよ!」
そうもったいつけて、お客様にはチケットをお渡ししたわけですが、
皆さんも、このぎっしりの会場と興奮のなかに身を置いている今、
その言葉が誇張でもなんでもないと感じてくださっているはず。
でも白状すると、天井桟敷に座りながら、私にはほんの一抹の不安がありました。
もしも、・・・・だったら、どうしよう。
というのも、このところ持ち歩いては読みかえしている、
「これは絶対とてつもなく大切なことが書いてあるはず」のものをまとめたファイルに、
ひとつの新聞記事があり、それを今朝も読みなおしたばかりだったからなのです。
以下は、音楽評論家の梅津時比古さんの文章です。
*****************
演奏を聴く際、弾く前にある程度、演奏が予想できることがある。
特に次々に演奏者が替わるコンクールなどでは、言葉は悪いが、弾く前から、うるさいと感じさせる人がいる。
それは姿、形には関係ない。
どれほど祈るような格好をしていても、じっとうつむいていても、うるさい場合がある。
そのようなときは、弾き始めると、たいていは、これみよがしに、
どうだすごいだろう、というような演奏なので、やはり、と思う。
それが見事に成功すれば、優勝することもあるので「うるさい、静か」は成績に直結するわけではない。
(毎日新聞 2022年1月29日付)
*****************
文章はこのあと、静けさをまとう演奏のほうへと移っていき、こう語るのです。
「あるいは、音楽を聴いていても、本来、私たちは世界から静けさを聞きだそうとしているのかもしれない。」
なるほど。
と深く納得するとと同時に、コンサートを前に、かすかな不安がよぎりました。
その不安とは、つまり、
このあと反田さんが登場されたときに、(うるさい)と感じてしまったらどうしよう・・・
結論から申し上げます。
私が、バカでした。
あれ?と思うぐらい、静かに登場されました。
そのまま静かに、ピアノに向かわれました。
曲目は、ショパンコンクールの本選でも弾いた「ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11」。
演奏のことは、私には語れません。
ただ、激しく鍵盤を叩く場面でも、「静けさ」を感じました。
最後にはマイクを持って登場されましたが、終始、控えめで口数も少なく、
アンコールに選ばれたのも、意外なほど、とても静かな曲でした。
もしかしたら客席のなかには、「もっと喋って!」「もっと弾いて!!」の期待があったかもしれません。
でも、安易にそれに応えることよりも、今の心の内を表現されたのだと思います。
コロナに翻弄されたこの2年、音楽家の方々は演奏活動もままならず、
厳しい時間と向き合ってこられたに違いありません。
でも今、それとは別の次元で、人間が引き起こした行為によって世界は引き裂かれようとしています。
ショパンコンクールは、ポーランドのワルシャワで行われます。
そのポーランドへと、隣国のウクライナから多くの人が家を捨て、家族と別れて避難しようとしています。
今日、反田恭平さんの指先から生まれ、ホールを満たしていったあの音は、
静かで悲痛な祈りだったのだと思います。
*********************************************
旅行、オーダメイド旅行のご相談は…
銀のステッキ旅行 TEL 0797-91-2260(平日9:00~17:00)
■銀のステッキは会員制の「旅サロン」を主催しています。
■公式ホームページ:http://www.gin-t.com
*********************************************