ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅         マリー・・・・・3

2011-06-05 | 2部1章 マリー


スープは美味しかった。フライドライスは小皿に取って少し食べたが、あまり食が進まない。不味いのではない、たぶんシックが始まっているのだろう。
夕方六時の施錠後、釈放の為ぼくを引き取りに来る刑務官を待っていた。スタッフを吸っている場面を刑務官に見つかったら全て終りだ。釈放されたらいつでも、なんの心配もなく吸えるぼくは我慢した。そして今、夜九時過ぎ、二回目のスタッフも吸っていない。
「スタッフ、持ってる?」
「部屋に帰れば用意してあるわ」
食事を残してぼく達は部屋へ向かう事にした。ぼく達を乗せたオート力車はぼくが全く知らない道路を走っている。刑務所を出てからかなり走っている、デリー中心部に近い場所だろうと思えるのだが、オート力車はある高級住宅地の中へ入ろうとしている。団地の出入り口にはゲートがあり、銃を持った警備員が二名立っていた。夜間警備だろうが力車は一旦停止を命じられた。
 大きな二階建ての家だった。一階玄関横の路地を入っていくと鍵の掛ったドアがあり、内階段を上がると突き当たりに又、鍵の掛ったドアがあった。ドアを開けると廊下で左へ行くと直ぐ左側はキッチンになっている、その前のドアを開けると十五畳程の広い部屋だ。その部屋をぼくが使えるようにマリーは用意してくれていた。部屋の左奥の壁際にあるセミダブルくらいのベッドは清潔な白いシーツで包まれ、その横にはテーブルが置かれていた。右奥のドアの中は広いバスルーム、マリーは廊下の突き当たりの部屋を使っているのだろう、スタッフをぼくに渡すと自分の部屋へ戻って行った。
部屋の何処を見回しても見慣れた鉄格子はない。高い大きな窓には白いレースのカーテンが掛けられ白い壁には壁掛けの鏡があった。鏡に映るぼくを見る、頭にも髭にも随分と白いものが増え頬はげっそりとこけ、目だけが異様に大きくぎらついていた。Tシャツを脱ぎ上半身を見ると肋骨や肩の骨が浮き上がり、栄養状態の悪い半病人か難民のような姿に我ながら情けない。
コメント
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