午前十時過ぎティスハザール裁判所に着いた。何時もぼくは刑務所の護送車で来て収監者専用の鉄格子の潜り戸から中に入り、留置場に入れられ審理の順番を待っていた。裁判所の玄関から入るのは今日を含めて二度目だ。一度目はちょうど十一ヶ月前、去年の十月二十五日ぼくを逮捕した私服のポリに連行されて来た。デリー中央刑務所への収監手続きの為だった。裁判所の二階建ての建物を正面から見ると横の長さは50mくらい、その両翼は前にせり出た玄関ホールになっている。これと同じ建物が中庭を鋏んだ反対側にあり、左右と真中を通る建物によって連結され、四ヶ所のコーナーは玄関ホールになっている。建物の右玄関側に護送車がバックで入れる建物の切り込みがあり、そこで収監者の乗り降りが行われていた。もしかしたら此処は裁判所の裏側だろうか、反対側の建物の真中に正面玄関があったのかもしれない。
朝の出発時間やオート力車の値段交渉等は全てマリーがやってくれる。裁判所から何時頃に帰って来られるのか分からない、出発前に大目のスタッフを吸ったぼくは裁判所に着いた頃にはちょうど良い気持ちになっていた。彼女は目的の法廷が何処にあるか、正確には分かっていなかったのだろうか、人で混んだ廊下や階段を探し歩いた。ぼくは少し遅れながらも彼女を人ごみの中で見失わないようについて行く、やっと見つけた場所は左端の一階玄関から入って直ぐ左側にある広い法廷だった。裁判所の敷地内には大型護送車が4~5台停車している。一台の護送車には大体50名は乗って来る、そうすると毎日約200~250名の収監者の審理をこの裁判所で行わなければならない。被告と刑務官それに面会の家族や何か目的があって来ているのだろうが、雑多な人間で裁判所内は何時も大混雑している。もし此処に案内所があったとしても親切な案内を受けられる事など有り得ない。たぶんバクシ弁護士からこれからぼくの審理を行う法廷について知らされていた筈だ。裁判官と書記官にぼくの名前を告げ法廷内の一番前の椅子にぼくとマリーは並んで座った。