キシトーとフィリップスが絶対にエマと取引をするなと釘を刺してきた。エマに何と言って断るか難しいよ。エマには世話になっているし不味い関係にはしたくない、狭いワード内で毎日、顔を会わせるのだから。キシトーには内緒でエマから1回だけ買ってそれで終わりにしよう。どうしても1回は買ってやらないとエマも引き下がれないだろう。ダイクと詰まらない取引をしたのが不味かった。その件でキシトーは頭に来ているのだ。フィリップスの野郎も
「あっちこっちに手を出すな」とどめを刺しやがった。
良い粉を持っていると聞くと如何しても手を出したくなる。それはフィリップスのスタッフに満足していないからだ。今ぼくは2gを持っているが1パケも10gも捕まったら同じだ。危ない橋を渡っているな。今、活発に動いているのはCバラック、7房のダイク、ジュドゥ、6房のムサカだ。近いうち抜き打ちの調査が入るだろう。Bバラックには動きはない。
1月22日(日曜日)
ワードが替わったばかりでまだ落ち着かない。ここは完全に外国人だけになって毎日の生活に変化がない。やはりインド人と共同生活をしてインドらしくなる。今回のように24時間アフリカンと生活をした事がない。ドラッグの取引きで接触していたがそれ以上アフリカンと付き合う気はなかった。アジアとアフリカは余りにも遠くお互いを理解し合う接点が今までぼくにはなかった。ぼくの貧しいアフリカ感から連想されるイメージは、黒人、暑い、砂漠、エイズ、エボラ熱、サファリ、内戦、ナイル川、モザンビーク、奴隷、そんなネガティブな映像しか浮んでこない。ここにいるナイジェリア人の若者達の多くは内戦を逃れて来ていると聞いた。