パールガンジ警察署もそうだったが、ここも何となく薄暗く陰気で無機質だ。警察署というところはどうも好きになれない場所の一つだ。彼女がドアをノックしてぼく達は部屋の中へ入った。通信機器のような機材がある警察のコントロール・ルームのような部屋だった。中には2人の警察官がいたが、彼等は暇を持て余しちょうど良い話し相手が来たという様子で手招きをしてぼくを迎え入れてくれた。
「おはようございます、どうしましたか?」
町の通りを歩いているとよくこの手の挨拶をされて辟易していた。日本語の会話で知っているのはそれだけなのに、日本人だと分かると話しかけてくるのだ。だが、ここは愛想笑いでもして警察官の機嫌を害わないようにしなければならない。暫らく無駄話に付き合っていたがぼくには時間がない、用件を切り出した。(夜11時頃、2人組みに襲われた。1人がぼくに抱きつき、その間にもう1人がぼくのウエストバッグを盗んで逃げた。その中にはパスポートと1000ルピーが入っていた)その程度の話で盗難証明書を交付してくれた。それだけだ。現場検証とか犯人の特徴を聞くとか何もしない、捜査をする気は全くないのだから。ぼくもその方が助かる。
「また、会いましょう」
と警察官に言われ、はいと言ってぼくはにっこり笑顔で感謝の意を表したが、腹の中では2度とこんなところへ来るものかと思っていた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます