ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・41

2015-06-28 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   3月24日(金曜日)
 突然、キシトーの釈放が決まった。今日、裁判所から戻って来たキシトーは房に入るなり両手をパーンと叩いてリリースだ、と叫んだ。皆、握手して彼を祝福した。
 夕方6時の施錠後キシトーは食事もせず着替えを始めた。赤い派手なシャツと上下揃いのスーツ、荷物は着替えが少しあるだけ。土足禁止の房内だが革靴を履きベッドに座って刑務官の呼び出し待っている。フィリップスはベッドで横になっていた。房の外で刑務官の声がして鍵を開ける音がするとフィリップスは飛び起きた。そしてキシトーの腕を握って早口で喋り始めた。腕を握られたキシトーは黙ったままフィリップスを引き摺るように出口へ歩き出した。力一杯腕を引き尚も食下がって喋り続けるフィリップス、出口で彼の手は振り払われた。Cバラックのゲートへ歩いて行くキシトーの後姿に鉄格子を掴んでフィリップスは叫んだ。こんなに激しく感情を露わにしたフィリップスをぼくは見た事がない。
 2人はいつも一緒に行動していた。ナイジェリアには身分的な階級制度があるのではないだろうか、彼ら2人は他のナイジェリア人とは明らかに異なっていた。安ホテルで共同生活をするナイジェリア人達と接触はするが決して溶け込もうとはしない。いつも小奇麗な服装をしてバザールに網を張り金になりそうな客を一本釣りしてはスタッフを売り捌いていた。スタッフを手にするのは中卸しと客の間だけ。接触は一方通行で彼らはぼくのホテルへは来るがぼくから連絡はとれない。住んでいる場所さえ明らかにしない。
 2人は共同事犯で逮捕されたのだとぼくは思っている。だからフィリップスは同時釈放を信じていた。だが今日、キシトーだけが釈放された。キシトーは警察官と裏取引をしていたのだ。

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