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<税務署への問い合わせのいきさつあらすじ>
一日目:
小麦の栽培をしていて、将来的に酒種パンやまんじゅうを販売するお店を開いてみたいと考えていること、
現行の酒税法では、酒種づくりは違法であるが、それだと世の中の天然酵母のパン屋も違法になってしまうことを説明。
ところが、最初に電話に出た酒税担当者は、アルコール発酵って何ですか?酵母って何ですか?っていう感じで単語の説明から、酒の作り方から何から、一から説明する羽目に。
折り返しでかかってきた電話でも、また単語の説明から先に進めないので、さすがに上の人に代わってもらう。
驚くなかれ、お役所ってこういうものです。お酒の造り方を知らない人が酒税法の案内をしているし、野菜を作ったことの無い人が農政課や農林水産省で農家さんの問い合わせの対応をしているのです。
次に電話に出た方Aさん。ようやく本題に入ることができた。スムーズに話を理解していただけたが、しかし、さすがにパンづくりやまんじゅうづくりにアルコール発酵が関わっているとは知る由も無く、一通り説明をしたあと、「検討してみます」と言われ、電話を置く。
昼過ぎにAさんから電話。酵母を起こした原料(酵母液=もろみ=酒種)を保管したりせずに、一連の流れの中ですぐに使用するのであれば問題ないとのこと。
しかし実際は、酵母を活性化させるのには条件にもよるが日数が必要であり、さらに言えば、より活性化させるということが、すなわちアルコール発酵を盛んにさせることでもあり、「一連の流れ」と「保管」との線引きが難しい旨を説明。
現行の酒税法が、『文面通りなら違法だけど、実際には違法だと言うわけにはいかない』状況に置かれている、ということをようやく理解してくれた。
結局、違法とも合法とも結論を出さず、曖昧にしてなんとか電話を終わらせようとするが、
自分がこの先お店を開いてから、違法だと言われて営業停止になったり、罰金になったりするかもしれない不安を残したままでは困る、と食い下がる。
以前農林水産省に、商品への無農薬の表示に関して問い合わせたときは曖昧にされて終わってしまった。
(現在の日本では、無農薬の作物に無農薬と表示して売ってはいけないことになっている。このことについてもそのうち書きたい。)
今回は直接の死活問題なので、何としても引き下がるわけにはいかない。
違法なのか合法なのか「国としての公式な回答」を断固として求める。
パン協会みたいなところがあるならそちらに聞いてみて下さい、と言われるが、
法の解釈をするのはパン屋ではなく、税務署の仕事である。
自分が向こうの立場だったとしても、同じような方法で何とか電話を終わらせようとするだろう。
良くも悪くも、そちら側の立場と気持ちは解っているのだ。
税務署に聞いてわからないと言われるのなら国民はどこに聞けばよいのか、と問い詰めるが、曖昧なまま、会話は平行線。
結局「国税庁に直接聞いてみることにします」と言って電話を終わる。
しかし、Aさんの言うように、このまま国税庁に聞いたって答えは一緒だろう。
さて、今後どうしたものか、と思っていると…
二日目:
翌朝、Aさんから電話があり、あのあと気になっていろいろ調べて考えてみたとのこと。
酒種パン、まんじゅうの製造工程をチャートにして送ってもらい、具体的な材料や製造工程を見て、酒税法的にどうなのか検討してみたいとのこと!
レシピを作りつつ、酒種あんぱんで有名な銀座木村屋に、酒税法との兼ね合いを、どう折り合いをつけているのか問い合わせてみる。
お返事しばらくお待ちください、とのことで一旦電話を置く。
夕方近くになっても返事が来ないので、税務署にレシピと、何故天然酵母を使うのかについての簡単な説明と、
エイ出版社の『パンの基本』から、一般的な「天然酵母起こしの手順→パンづくり」までの載ったものをFAXで送る。以下がそれ。
----------------------------------------------------------------------------
<酒種パン、まんじゅうの製造工程>
炊いた(あるいは蒸した)米と、米糀と水を合わせる。
↓
酵母が起きるまで、10~30℃前後で、2~20日程度保管する。
↓
酵母が活性したもろみを、ザル等で濾して酵母液と生地(小麦粉+砂糖+塩+油分等…)を合わせる(あるいはもろみごと生地に合わせる製法もある)。
↓
30℃前後の環境で1~5時間程度発酵させ、生地を膨らませる。
↓
生地を焼く、あるいは蒸す。
↓
完成。
アルコール分は飛ぶが、もろみの風味は残る。
<なぜ天然酵母を使うのか>
そもそも、どうしてパンやまんじゅうが膨らむかと言えば、生地の内部に気泡状のものができるからなのですが、現在一般的に、パンやまんじゅう作りにはベーキングパウダーや重層(水と反応して化学的に気泡を作る)や、市販のドライイースト(酵母菌を純粋培養させ乾燥させたもの)が使用されています。
では、それらが登場する以前は何を使って生地を膨らませていたかというと、天然の酵母の、糖質を炭酸ガスとアルコールに変えるという発酵作用です。
天然酵母を使用して、パンやまんじゅうを作る場合は、酵母起こしに手間と日数がかかりますが、起こすのに使った素材の風味や、発酵作用により生まれたうまみを生地に活かせるので、既存製品には無い、奥深い味わいを持った製品を作ることができるのです。
(『パンの基本』エイ出版社よりp.52~55を引用)
----------------------------------------------------------------------
夕方過ぎ、銀座木村屋のBさんから電話がくる。
問い合わせの件、今まで気にしたことは無かったが、改めて酒税法に目を通して見ると、確かにこれは免許なりを取っておいた方が無難であろうということで、今後免許を取る方向で検討しているとのこと。
やっぱり自分の酒税法の解釈は間違いじゃなかった!あの明治天皇に献上したあんぱんですら酒税法に触れている疑いがあるのだ!
自分が将来的に酒種のパンやまんじゅうなどを売る店を開きたいと思っている旨を伝えると、大変興味を持っていただけたようで、銀座木村屋での酒種の管理・仕込みの仕方について、ご丁寧に教えていただく。大感激!!
三日目:
朝、税務署のAさんから電話があったが、用事があったので昼にかけなおす。
結論。送った製法では、材料が米と麹と水だけであり、空気中等の天然の酵母を使って発酵させる場合では、発酵の力が弱く、アルコールはほとんど発生しないと考えられる。したがって、このレシピで出来るものは、甘酒(ノンアルコール)であろうということ。
*現在流通しているお酒は、純粋培養された酒酵母菌を添加して造られている。
果実などを使用した天然の酵母起こしの工程についても、アルコール分は法律で規定するところの「アルコール分1%以上の飲料」には該当しないであろうとのこと。
つまり、
『天然の酵母でつくられた製パン・まんじゅう用の酵母液(=酒種=もろみ)は、酒税法の言うところの「酒類」には該当しない。』
ということを、国として正式に認めたということです。
酒種だけど酒種じゃない、という摩訶不思議な回答なのですが、おかしいのはAさんではなく、酒税法そのものなのですから仕方ないのです。与えられた法律の内側でなんとかしなくてはならない一般公務員としては、ここら辺が精いっぱいギリギリの落とし所でしょう。
とにかくパン、まんじゅう用の酒種造り、天然酵母起こしは合法であるという国からのOKをもらえたので、もう十分目的は達しました。
それにしても、Aさんには、やっかいな国民の相手を最後まで丁寧にしていただき、本当にありがとうございました!!これで心置きなく酵母起こし、酒種パン、まんじゅうづくりができます!!
さて、早速結果を銀座木村屋のBさんにご報告しました。
すると、5月に、免許を取って営業しているという酒まんじゅう屋さんに行ってみるとのこと。
これからもいつでも何でも聞いて下さいと、個人的な連絡先まで教えていただく。
思わぬことから、あの天下の銀座木村屋の酵母管理者との繋がりができてしまった!
結果的には、時代遅れの酒税法に感謝です!!
さて、勘違いされると困るので、最後にまとめておきます。
今回OKをもらったのはアルコール発酵のうち、
・天然の酵母による発酵であること
・パンやまんじゅうづくりの一連の流れの中での工程であること
つまり飲料用につくれば即違法です!
密造はダメ、ゼッタイ!! …今のところは。
(つづく)
銀座木村屋総本店
http://www.kimuraya-sohonten.co.jp/
<税務署への問い合わせのいきさつあらすじ>
一日目:
小麦の栽培をしていて、将来的に酒種パンやまんじゅうを販売するお店を開いてみたいと考えていること、
現行の酒税法では、酒種づくりは違法であるが、それだと世の中の天然酵母のパン屋も違法になってしまうことを説明。
ところが、最初に電話に出た酒税担当者は、アルコール発酵って何ですか?酵母って何ですか?っていう感じで単語の説明から、酒の作り方から何から、一から説明する羽目に。
折り返しでかかってきた電話でも、また単語の説明から先に進めないので、さすがに上の人に代わってもらう。
驚くなかれ、お役所ってこういうものです。お酒の造り方を知らない人が酒税法の案内をしているし、野菜を作ったことの無い人が農政課や農林水産省で農家さんの問い合わせの対応をしているのです。
次に電話に出た方Aさん。ようやく本題に入ることができた。スムーズに話を理解していただけたが、しかし、さすがにパンづくりやまんじゅうづくりにアルコール発酵が関わっているとは知る由も無く、一通り説明をしたあと、「検討してみます」と言われ、電話を置く。
昼過ぎにAさんから電話。酵母を起こした原料(酵母液=もろみ=酒種)を保管したりせずに、一連の流れの中ですぐに使用するのであれば問題ないとのこと。
しかし実際は、酵母を活性化させるのには条件にもよるが日数が必要であり、さらに言えば、より活性化させるということが、すなわちアルコール発酵を盛んにさせることでもあり、「一連の流れ」と「保管」との線引きが難しい旨を説明。
現行の酒税法が、『文面通りなら違法だけど、実際には違法だと言うわけにはいかない』状況に置かれている、ということをようやく理解してくれた。
結局、違法とも合法とも結論を出さず、曖昧にしてなんとか電話を終わらせようとするが、
自分がこの先お店を開いてから、違法だと言われて営業停止になったり、罰金になったりするかもしれない不安を残したままでは困る、と食い下がる。
以前農林水産省に、商品への無農薬の表示に関して問い合わせたときは曖昧にされて終わってしまった。
(現在の日本では、無農薬の作物に無農薬と表示して売ってはいけないことになっている。このことについてもそのうち書きたい。)
今回は直接の死活問題なので、何としても引き下がるわけにはいかない。
違法なのか合法なのか「国としての公式な回答」を断固として求める。
パン協会みたいなところがあるならそちらに聞いてみて下さい、と言われるが、
法の解釈をするのはパン屋ではなく、税務署の仕事である。
自分が向こうの立場だったとしても、同じような方法で何とか電話を終わらせようとするだろう。
良くも悪くも、そちら側の立場と気持ちは解っているのだ。
税務署に聞いてわからないと言われるのなら国民はどこに聞けばよいのか、と問い詰めるが、曖昧なまま、会話は平行線。
結局「国税庁に直接聞いてみることにします」と言って電話を終わる。
しかし、Aさんの言うように、このまま国税庁に聞いたって答えは一緒だろう。
さて、今後どうしたものか、と思っていると…
二日目:
翌朝、Aさんから電話があり、あのあと気になっていろいろ調べて考えてみたとのこと。
酒種パン、まんじゅうの製造工程をチャートにして送ってもらい、具体的な材料や製造工程を見て、酒税法的にどうなのか検討してみたいとのこと!
レシピを作りつつ、酒種あんぱんで有名な銀座木村屋に、酒税法との兼ね合いを、どう折り合いをつけているのか問い合わせてみる。
お返事しばらくお待ちください、とのことで一旦電話を置く。
夕方近くになっても返事が来ないので、税務署にレシピと、何故天然酵母を使うのかについての簡単な説明と、
エイ出版社の『パンの基本』から、一般的な「天然酵母起こしの手順→パンづくり」までの載ったものをFAXで送る。以下がそれ。
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<酒種パン、まんじゅうの製造工程>
炊いた(あるいは蒸した)米と、米糀と水を合わせる。
↓
酵母が起きるまで、10~30℃前後で、2~20日程度保管する。
↓
酵母が活性したもろみを、ザル等で濾して酵母液と生地(小麦粉+砂糖+塩+油分等…)を合わせる(あるいはもろみごと生地に合わせる製法もある)。
↓
30℃前後の環境で1~5時間程度発酵させ、生地を膨らませる。
↓
生地を焼く、あるいは蒸す。
↓
完成。
アルコール分は飛ぶが、もろみの風味は残る。
<なぜ天然酵母を使うのか>
そもそも、どうしてパンやまんじゅうが膨らむかと言えば、生地の内部に気泡状のものができるからなのですが、現在一般的に、パンやまんじゅう作りにはベーキングパウダーや重層(水と反応して化学的に気泡を作る)や、市販のドライイースト(酵母菌を純粋培養させ乾燥させたもの)が使用されています。
では、それらが登場する以前は何を使って生地を膨らませていたかというと、天然の酵母の、糖質を炭酸ガスとアルコールに変えるという発酵作用です。
天然酵母を使用して、パンやまんじゅうを作る場合は、酵母起こしに手間と日数がかかりますが、起こすのに使った素材の風味や、発酵作用により生まれたうまみを生地に活かせるので、既存製品には無い、奥深い味わいを持った製品を作ることができるのです。
(『パンの基本』エイ出版社よりp.52~55を引用)
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夕方過ぎ、銀座木村屋のBさんから電話がくる。
問い合わせの件、今まで気にしたことは無かったが、改めて酒税法に目を通して見ると、確かにこれは免許なりを取っておいた方が無難であろうということで、今後免許を取る方向で検討しているとのこと。
やっぱり自分の酒税法の解釈は間違いじゃなかった!あの明治天皇に献上したあんぱんですら酒税法に触れている疑いがあるのだ!
自分が将来的に酒種のパンやまんじゅうなどを売る店を開きたいと思っている旨を伝えると、大変興味を持っていただけたようで、銀座木村屋での酒種の管理・仕込みの仕方について、ご丁寧に教えていただく。大感激!!
三日目:
朝、税務署のAさんから電話があったが、用事があったので昼にかけなおす。
結論。送った製法では、材料が米と麹と水だけであり、空気中等の天然の酵母を使って発酵させる場合では、発酵の力が弱く、アルコールはほとんど発生しないと考えられる。したがって、このレシピで出来るものは、甘酒(ノンアルコール)であろうということ。
*現在流通しているお酒は、純粋培養された酒酵母菌を添加して造られている。
果実などを使用した天然の酵母起こしの工程についても、アルコール分は法律で規定するところの「アルコール分1%以上の飲料」には該当しないであろうとのこと。
つまり、
『天然の酵母でつくられた製パン・まんじゅう用の酵母液(=酒種=もろみ)は、酒税法の言うところの「酒類」には該当しない。』
ということを、国として正式に認めたということです。
酒種だけど酒種じゃない、という摩訶不思議な回答なのですが、おかしいのはAさんではなく、酒税法そのものなのですから仕方ないのです。与えられた法律の内側でなんとかしなくてはならない一般公務員としては、ここら辺が精いっぱいギリギリの落とし所でしょう。
とにかくパン、まんじゅう用の酒種造り、天然酵母起こしは合法であるという国からのOKをもらえたので、もう十分目的は達しました。
それにしても、Aさんには、やっかいな国民の相手を最後まで丁寧にしていただき、本当にありがとうございました!!これで心置きなく酵母起こし、酒種パン、まんじゅうづくりができます!!
さて、早速結果を銀座木村屋のBさんにご報告しました。
すると、5月に、免許を取って営業しているという酒まんじゅう屋さんに行ってみるとのこと。
これからもいつでも何でも聞いて下さいと、個人的な連絡先まで教えていただく。
思わぬことから、あの天下の銀座木村屋の酵母管理者との繋がりができてしまった!
結果的には、時代遅れの酒税法に感謝です!!
さて、勘違いされると困るので、最後にまとめておきます。
今回OKをもらったのはアルコール発酵のうち、
・天然の酵母による発酵であること
・パンやまんじゅうづくりの一連の流れの中での工程であること
つまり飲料用につくれば即違法です!
密造はダメ、ゼッタイ!! …今のところは。
(つづく)
銀座木村屋総本店
http://www.kimuraya-sohonten.co.jp/
酒税法第3条第1項第24号に、「酒母」についての規定があり、これが法的根拠です。
「酒母:酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したもの(製薬用、製パン用、しようゆ製造用その他酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるものを除く。)をいう。」
とされており、酒母と同一の物質であっても、製パン用等の(財務省令で定める)用途のものについては、酒税法の適用が除外されますので、違反にはなりません。
アルコール濃度1%以上の酵母液の飲用はもちろん違法です。
砂糖2%でおおよそ1%のアルコールが生成されます。