今日は新聞、テレビで報道された、この話題の事を書かないといけないと思います。
とうとう刑事告訴と言うことになって、それまでは名前は伏せられていましたが、具体的な名前が報道されました。
I先生67歳、今までに手掛けて来たインプラント数は2万本を超えているそうです。
年間1000本としても20年以上掛かる凄い本数で、大ベテラン中の大ベテランと言えると思います。
私が、開業した当時13年前から良く知られている方で、凄いベテランである、と私も名前だけは伺っていました。
それだけ凄い方なのに、余り表立って活動をされていない、セミナーとかで拝見したこともないと思いますし、業者にも聞いたことがあるのですが、それだけインプラント臨床をしてらっしゃる方なら、是非にレクチャー、セミナーとかを開催して、色々と良い情報を教えていただきたいのですが、と聞いても、全くその気がない、非常に自分の日々の臨床だけに邁進されている、脇目も振らずにやられている先生だ、と聞かされていました。
それを聞いて、私は非常に残念だなー、オペ見学とかも駄目なんですか、と聞いたところそれも全く考えていない、と言うことで、少し不思議な方、言葉が悪くて申し訳ないのですが、自分だけが良ければ良い、と言うタイプの方なのか、残念だな、と感じたのを良く覚えています。
一般的には、どの業界でもそうでしょうが、抜きん出ている存在は、自分の成果、結果の良さ、他で聞く内容との違いで目覚めて、少なくとも自分の仲間、家族、友人、勉強会等で話すようになったりしますし、話すことを良く頼まれるようになります。
そして、我々はやはり国民全体への貢献、業界への恩返し、恩師の恩送りとかを感じて、そう言う依頼を引き受け、手の内とか工夫、考えている概念等を教えたりしよう、と思うようになるからです。
多分、I先生にもそう言う依頼は沢山あった筈でしょう。
それに対して、誠実に対応していないのは、少し変わり者である、と言う評価も止むを得ない、と私は思います。
そして、非常に残念な問題を引き起こしてしまった。
辛い言い方ですが、むべなるかな、と思います。
報道されている内容を読む限りに置いては、下顎の内側の骨の壁を5箇所も貫いていた、と言う事です。
多分、インプラントの初期固定、しっかりと植立させて固定させ、即時荷重とかして仮歯を直ぐに入れようとされていたのではないでしょうか?
今回の事故で、内側の骨を貫くことが危険である、と広く知られるようになりました。
しかし、即時荷重とか狙って固定をしっかりさせたい場合、意図的に内側の硬い骨に支えさせることを狙うのは、わりと一般的に為されていることなのも事実です。
この場合、忘れてはならないのは、何処まで行けるのかの確認でしょう。
となると、歯科用CTでの確認、そして安全な手技として、危ない所に近付いているのを認識して、例えば削るドリルを50回転位に抑え、力を加え過ぎない、と言うのがあります。
そうして、硬い骨だな、と思ったら心配して直ぐに歯科用CTで断面図を見る。
こう言う配慮が、今後絶対的に求められるでしょう。
以前はCTの被爆量の問題が挙げられ、頻繁に撮影はするな、と言われましたが、その流れはこの事件により変わることでしょう。
刑事裁判の判断として、内側の骨を貫くことが医療として正しいのか、頻繁にCT撮影して確かめるべきであったのか、をその当時の学問的レベル、学術的レベルで司法が判断をされるのでしょう。
正直な所、厳しい判断が下されるのではないか、と感じます。
その中で、私自身インプラント臨床の真っ只中にいて、あの当時とかの業界の雰囲気、今も続いている新規導入者の凄い増加を考えると、今後は益々厳しい、ハイレベルな治療を要求される時代になるだろうとと確信します。
極論になるかもしれませんが、術中の確認の出来ない医院では、インプラント手術は行わない方が良い、と言われるようになるかも知れません。
そうなると、歯科用CTのない医院ではインプラントは激減することでしょう。
逆に言えば、業界内的には歯科用CTが売れる最大の機会が到来している、とも言えると思います。
又は、上でも書きましたが、事前にCT撮影し、ガイドしてくれる道具を揃えることで安全を確保する、と言うのもかなり有りだと思いますし、メーカーにして見れば売り時だ、となるでしょう。
しかし、上記に具体的手技を一つ紹介しているように、その場での安全を確保する技術をどれだけ知っていて、綺麗に行えるのか、が実は最も重要なのです。
歯科用CTで幾ら精密に見ても、ガイドの道具を用意しても、最期の最後はDRの力量次第、になるのです。
ここが肝心です。
I先生は大ベテランでした。
しかし、ほんの少しの油断が大事故に繋がりました。
力量の点では問題ない筈でも、安全、安心を確保する、と言う意識が薄れてしまう、慣れが生じてしまうと恐ろしい事になるんだ、と言うことなのでしょう。
常に真っ白な気持ちで、予断を持つことなく、その場その場で最善を尽くす。
毎回毎回、慣れてしまうことなく、これで大丈夫、と冷静に判断をして行く。
そして、万が一の事故が発生してしまった場合でも、それへの対応もチャンと修得して置く。
インプラントは、ただ骨に穴を開けて埋めると言う簡単そうに見える処置ですが、学ぶべきモノ、姿勢は沢山ある。
そして、それを常にアップデートして行かなければいけない。
二度とこんな悲劇は起こしてはいけない。
出来る事は全て、最善を尽くしてやる。
亡くなられた患者様のご冥福を心から祈念し、業界内の浄化を誓い、真実のインプラントを正しく伝道して行こう、と思います。
合掌