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ハムステッド・シアターで「55 Days」を見る。

2012-11-26 | 2012年、英国の旅 ~秋編
とうとうマーク・ゲイティスが主演する"55 Days"を鑑賞する為に、Hampstead Theatreにやってまいりました!
前回ロンドンに来た時にこの近くに泊まっていたので、劇場の場所はしっかり分かっていたのです。



まだ開演まで2時間近くあったので(早く来すぎw)、
まずBox Officeでチケットを引き取り、公演プログラムを購入。
Barでポット入りの紅茶をオーダーして、開場まで戯曲を復習することにしました。



舞台は1648年12月。
議会では投獄されているチャールズ一世を裁判にかけるべきではないという投票結果が出ていた。
自由の身になれば、傍若無人な振る舞いをする司教たちを追放する、
という国王との約束を信じる穏健な長老派たちが、反対に票を投じたためである。

だが、その直後、トマス・ハリソンら議会軍によってウィリアム・プリンをはじめとする長老派が議会から追放され、
絶対王政に反発する独立派が議会を独占することになる。
追放の知らせはカリスブルック城に幽閉されているチャールズ一世の元へ届き、
この状況に危機感を感じた王は密かにアイルランドへ手紙を送り、再び戦争を起こそうと企てる。

一方、議会軍指揮官のフェアファックスに説得され、
ヨークシャーからロンドンへ戻っていた独立派の指導者クロムウェルは
主権が議会にあることをチャールズに思い知らせようと策を講じる。


戯曲を読んでいるうちに、あと30分程で開演、という頃、
突然、ロビー内にサイレンが響き渡りました。
どうやら火災報知機が作動しているらしく、慌てて外に出ることに。



外に出されるのは開演待ちの観客だけでなく、劇場のスタッフも同様。
ふと入口に目をやると、キャストの方々も外に出て来るではありませんか。
すぐ傍にクロムウェル役のダグラス・ヘンシャルさんがいらっしゃるのでドキドキしていると、
避難誘導するスタッフの傍にマーク・ゲイティスが!
そして彼が談笑している相手は、スティーブン・モファットとスー・ヴァーチュー!?


(↑どさくさに紛れて撮った写真に写っていた3人)
SHERLOCKのプロデューサー仲間が同じ日に見にきていたのです!
なんという偶然! BBCの本があればサインしてもらうのに!
しかし、この日は何も持ち合わせていませんでしたし、こんな状況で話しかけるのも気が引けます。

そもそも上演自体この状態で行われるのか気が気じゃありませんでした。
この火事騒ぎで公演中止になったらどうする!?
このためにロンドンに来たようなもんなのに!? OMG! どうしてくれるんだ!
そのうちに消防車も駆けつけ、隊員が劇場内の点検に入って行きました。

やがて、5、6分が数時間のように感じられましたが、
建物の安全が確認され、ようやく再び館内に入れることに。
よかったー、まじでよかったー…(T_T)

出演者は楽屋へ戻り、観客は開場までロビーで待つことになったのですが、
その中にはなんと"10代目ドクター"、デヴィッド・テナントの姿がありました!
今日はDOCTOR WHOスタッフ観劇の日なのか!?
マークを見にきたのに、モファット夫妻だけでなく
"ドクター"の姿まで拝めるなんて、なんてラッキーなんでしょうか!

開場のアナウンスが流れ、劇場に入ると、客席は舞台を挟んで両側に並んでいます。
上手と下手にそれぞれ両開きの扉があり、扉の周りには、古いキャビネットがはめ込まれています。

事前にレビューを読んで、衣装が第二次大戦中の服装であることは知っていたので、
セットや小道具も同じように戦時中をイメージしたものが使われていることが理解出来ました。
舞台上には既にドラム缶の薪の傍で暖を取る兵士達がいて、
客席が埋まり始めた頃、低い音が劇場内に響き渡り、劇が始まります。

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無機質な蛍光灯の明かりが点灯することで議会内であることを表現したり、
格子戸を閉める音で王の幽閉されている部屋を表現したりと、刺激的な演出。
場面転換の際には群衆役のパリっとしたスーツを着た若い役者達が
机やベッドやタイプライター等の小道具を舞台から運び出します。
17世紀が舞台の芝居とは思えません。

先程書いたように、キャストは第二次大戦中の軍服や背広に身を包んでいますが、
チャールズ一世だけは17世紀当時の服装のままであり、彼が時代に取り残されていることを暗示させています。

本物のチャールズ一世は5フィート6インチ(167cm)だったそうですが、
演じるマークは6フィート1インチ(185cm)。だいぶ背丈が違います。
ステッキを持って片手は腰に当て、常に人を見下したように顎を上げて立つマークのチャールズは、
自分の権力を疑わない、揺るぎのない(ように見せたい)姿勢を崩しません。
身柄を劣悪な城に移されることになり、トマス・ハリソンが訪れた際にも、

「今夜、あなたをエスコートします。なるべく遅れのないように…Sir」
「おお、余は(Your majestyでなく)"Sir"であるか」
「あなたを紳士として扱うつもりです」
「だが余は"人間以上"なのだ。分かっていないな。神の目に映る人間以上の存在を」
「我々は神の前に平等です」
「ひとりを除いてな」
「暴君は皆そう言います」

(間)

「其方は無礼であるな…」
「し、失礼しました」


というような調子。
クロムウェルと対面した際も、自分は聖油を浴び、神から力を与えられたといい、
クロムウェルを呆れさせます。

自分は光の中にある、と言い続けるチャールズとは対照的に、
これから時代を切り開いて行くはずのクロムウェルの方は
「私は闇の中を歩いている」と繰り返します。
ヒーローとして描かれてはいますが、常に迷いを抱える存在。
神の声を待ち、自分の歩むべき道を模索しつづけています。
時に占いのように聖書を開いて、そこに神の言葉を見つけようとするのです。

"平和をつくり出す人たちは、さいわいである。
彼らは神の子と呼ばれるであろう。"


そんなクロムウェルですが、ついに王の処刑のために、独立派の議員たちが署名をするシーンでは、
一番に自分が署名をし終えた後、堪えきれずに笑い始めます。
客席にいる私は、笑っていいのか戸惑っているうち、その笑いは他の議員たちの間にも広がり、
皆が笑い始めますが、その中の一人がクロムウェルに跪き、手に口づけしようとすると、
彼は「やめてくれ!」と拒否し、再び沈黙に包まれるのです。
これは彼が結局、チャールズと同じ道を歩んでしまうことを示しているのかもしれません。

他に、私が彼の台詞で印象的だったのは、部下であるヘンリー・アイルトンと思い出したように語るシーン。

「王の首はまだ肩に乗っているのか?」
「どういう意味です?」
「つまり…彼の頭は上品な襟の真ん中に…、アントワープのレースに違いない、糊付けされた…
 母がいつもアントワープのレースについて懐かしげに話していて…」
「…それじゃ、送ったらいい。アントワープの…」
「いや違う、そうじゃない、母は自分で作っているんだ、針とボビンで。
 花瓶のデザインだ。力強い、農民の妻の手で、糸を拾う。
 最近家に居たとき、そうやっていたよ。静寂の中で。不満に満ちた静寂だ。」
「夫人は裁判に反対だと?」
「いや、彼女は反対してるのは、王がまだ生きているってことに対してだよ」


このあたり、この戯曲の粋というか、皮肉が小気味いいのです。

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アントワープの刺繍、ではありませんが、実は私も渡英前に刺繍を手にしていました。
いつもやり取りさせていただいているフォロワーさんがコースターを作ってくれたのです。
しかも、ペアになっていて「大きい方はマークさんに!」と言われたので、
私はなんの疑問も抱かず「それじゃあ、お手紙でUKに送りましょうか」と提案したのですが、
本人は冗談のつもりだったらしく、大変困惑された後、大喜びしてくれましたw

Mark Gatissさんは10月が誕生日ということで、私も何か送りたかったのですが、
何も作れない人間なので、あきらめモードでした。

ですが、直接渡せるということであれば生ものでもいいんじゃないか!?
ということで、劇場にお花を持っていくことにしたのです。
花屋に変装してボーイフレンドに会いに行くような人ですから、
花の贈り物なら迷惑にはならないんじゃないかと思ってw

なるべくチャールズにちなんだものを…と思い、ひまわりを一輪。
これは、アンソニー・ヴァン・ダイクの自画像の中で
チャールズに見立ててひまわりが描かれていることにひっかけています。
出がけにお花屋さんで買ったために、バンケティング・ハウスへも連れて行き、
夜になったら少し元気がなくなってしまいましたが…。

終演後、出入口傍でマークが出て来るのを待っていました。
今回は私の希望だけでなく約束があるのでチャンスを逃すわけにはいかなかったのです。
緊張しました。何度出待ちをしたとしても、これだけは慣れることはありません。

扉から出てきたマークにすかさず声を掛けた私でしたが、
近くに彼の知り合いがいたために、マークは先にそちらに向かってしまいました。
いつもタイミング悪い私…(- -;
黒い艶やかな襟のコートを着たマークは、挨拶を済ませた後、
軽やかな足取りでこちらに戻ってきてくれました。

「こんばんわ!」
「今夜の芝居、素晴らしかったです!」
「ふふっ、ありがとう」
「実はお渡しするものがあって…」
「Wow! ホント?」

ここで用意していた花と、刺繍の入った封筒を差し上げました。

「素敵だ、どうもありがとう!」
「よろしければサインをいただけませんか?」
「もちろん!」
「あと、…あなたの写真を撮らせてもらいたいって言ったら、気にされま…」
「(食い気味に)まさか!!」
「!」

ジッと見つめられながら元気よく言われたので、ちょっとビックリしてしまいました。
そして、お言葉に甘えてカメラを構えたのはいいのですが、
「はーい笑ってー」なんて言いながら、手の震えがガタガタガタガタいつまでも止まらず。
そんな状況でも、彼はニコーっと笑って待ってくれました。
写真撮影を終え、お礼を言うと、

「ミウモ、今夜は来てくれてありがとう!」

彼は右手で花を持っていたので、開いてる左手と、私の差し出した右手で、
まるでリレーのバトンを渡すような握手となってしまいました^_^;
もちろん、ミウモではなく、本名で挨拶してくれたので、自分の名前を言ってもらえたのが嬉しくて。
前回は呼ばれずにじゃあね!ってお別れしましたから。

その後、彼は私の次に待っていた親子から頼まれたサインと写真撮影にも
快く受け答えしていました。
私はというと、入口の横の椅子に腰を下ろし、
ミッションから解放された安堵感からテーブルに突っ伏した状態。

ふと頭を上げてBarの方を見ると、親子と別れてカウンターに向かうMarkの姿が目に入りました。
彼はそこで待っていたモファットとがっしりとハグ。
手にはさっきの花を持っていて、見ていたら
「その花どうしたの?」「さっき向こうでファンにもらったんだ」
というような会話を、こっちを指さしながらしているではありませんか。
ひえ~…SHERLOCKの製作総指揮の2人が私のあげた花の話をしている~(滝汗)
2人が普通の場所でハグしているところを見られただけでも感動的なのに。

そして、2人はスーさんやデヴィッドと合流し、
テーブルを囲んで終演後の軽い打ち上げを始めました。
もちろん皆さんの囲んでいるテーブルの中心には私の花が。
ひえ~。こんなそうそうたるメンバーの中心に私のしょぼくれた花があるなんて…。
(どうか帰りがけに捨てられたりしませんように…)



和やかな打ち上げ風景を眺めながら、私は帰路につきました。
何ヶ月も、この芝居を見るために頑張ってきましたが、
見終わってしまったと思うと、寂しくてたまりません。
何より興味深い戯曲と演出と魅力的なキャストであったことが、余計にその感情を強くさせます。
こんな面白い芝居がもっと見たい、と意欲をかき立てる演劇です。

憧れの人に会ったのに、もっと伝えることがあったんじゃないかと後悔もしました。
直接、今日の演技がどんなに記憶に残る素晴らしいものだったのかを、
もっとちゃんと伝えられたら、どんなによかったか。
ですが、彼のことが好きで、会いに行こう!と決めてから本当にここまで来ることの出来た自分を誇らしくも思います。
そして自分の憧れの人が嫌な顔ひとつせずにいつも優しく接してくれることも誇らしいです。

今度いつこんな機会に恵まれるかは分かりませんが、
私はいつでも、究極のファンボーイの、最高のファンガールのひとりになれるように、これからも精進したいです。

ちなみに。
"55 Days"出演者&スタッフと自分の感想等のツイートをまとめておきました。
よろしければこちらも参考にどうぞ。

コメント (10)
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