とある田舎町の「学校の怪談」
episode 1 トイレの花子さん
さあ、こわがりの女の子はいないかな?
こわいはなしのすきな男の子は――キミかな。
放課後もだいぶおそくなった。
あすは学校祭。
演劇部のH子たちは、暗くなるまで小道具の点検をしていた。
練習のほうはもうOK。
H子は準主役のクララ。
「アルプスの少女ハイジ」がその演目だ。
H子は車いすのにあいそうな、おとなしい子だった。
H子は六年生のトイレにかけこんだ。
「ヤダァ。だれがはいっているの」
どのトイレもノブの下が使用中の赤マークになっていた。
いちばん奥なら……あいている。
だって、あそこは開かずのトイレ。
オバケトイレ。
花子さんの呪いがかかっているというトイレだ。
足踏みしながら、だれかでてくれないかな、とまった。
どのドアも赤のままだ。
だれもでてこない。
おかしいなとはおもった。
でもオシッコもれそう。
もうがまんできない。
勇気をだして奥のトイレへ進んだ。
渡り廊下がギシギシと音をたてた。
きしんだ。
わたしふとったのかな?
少女はふとおもった。
そろそろじぶんの姿が気になるとしごろだ。
花子さんのトイレのノブにふれた。
ひんやりとした。
つめたかった。
手が凍ってしまうほどの冷気だ。
少女はブルッとふるえた。
それでも勇気をだして、おもいきってノブをひいた。
だってここまできてオシッコをもらすわけにはいかない。
さて、それからどうなったと思うかな。
トイレの内側にはノブがなかったのだよ。
少女はとじこめられてしまった。
そとに出られない。
そんなことは、きいていなかった。
ノブがないなんて……。
だれも知らなかった。
「センセイ。タスケテ」
「おかあさん。タスケテ」
「アカリちゃん。たすけて」
「絵美ちゃん。たすけて。クララの役、ゆずってもいいから」
絵美ちゃんはクラらの役、とてもやりたがっていた。
少女はいっしょに残っていた演劇部員の名前をつぎつぎに呼んだ。
そのころになって少女は気がついていた。
トイレは全部ふさがっていた。
その数は、演劇部員の員数だった。
イジワルサレテいる。
イジメだ。
……タスケテ。タスケテ。タス……ケテ。
トイレの周囲のタイルの壁に花子、花子、花子。
という文字がうかびあがった。
文字は、タイル張りの壁をながれだした。
花子。
……真っ赤な血で書いたような文字。
ながれては消えた。
消えてはまた花子、とさらにおおきな字となってうかびあがってきた。
不気味な血の色が明滅していた。
それでも、だれも助けにはきてくれなかった。
少女の声はひくくかすれてしまった。
そのあとね、少女を見た人はいない。
翌日。
クララの役をやった絵美ちゃんが――幕が下りてから叫んだ。
真っ青な顔をして。
「ごめなんさい花田さん。ごめんなさい。わたしがわるかった」
でも、絵美ちゃんはそれからずっといまでも、車いすの生活をしているんだよ。
うしろから花田さんに抱きしめられている。
悲しそうにそういっている。
少女の名前はね。花田花子というんだよ。
● 2011年の7月から連載したものです。このたび、第二部を書くにあたり、とりあえず、前作をのせます。
●第二部を楽しみに待っていてください。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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さあ、こわがりの女の子はいないかな?
こわいはなしのすきな男の子は――キミかな。
放課後もだいぶおそくなった。
あすは学校祭。
演劇部のH子たちは、暗くなるまで小道具の点検をしていた。
練習のほうはもうOK。
H子は準主役のクララ。
「アルプスの少女ハイジ」がその演目だ。
H子は車いすのにあいそうな、おとなしい子だった。
H子は六年生のトイレにかけこんだ。
「ヤダァ。だれがはいっているの」
どのトイレもノブの下が使用中の赤マークになっていた。
いちばん奥なら……あいている。
だって、あそこは開かずのトイレ。
オバケトイレ。
花子さんの呪いがかかっているというトイレだ。
足踏みしながら、だれかでてくれないかな、とまった。
どのドアも赤のままだ。
だれもでてこない。
おかしいなとはおもった。
でもオシッコもれそう。
もうがまんできない。
勇気をだして奥のトイレへ進んだ。
渡り廊下がギシギシと音をたてた。
きしんだ。
わたしふとったのかな?
少女はふとおもった。
そろそろじぶんの姿が気になるとしごろだ。
花子さんのトイレのノブにふれた。
ひんやりとした。
つめたかった。
手が凍ってしまうほどの冷気だ。
少女はブルッとふるえた。
それでも勇気をだして、おもいきってノブをひいた。
だってここまできてオシッコをもらすわけにはいかない。
さて、それからどうなったと思うかな。
トイレの内側にはノブがなかったのだよ。
少女はとじこめられてしまった。
そとに出られない。
そんなことは、きいていなかった。
ノブがないなんて……。
だれも知らなかった。
「センセイ。タスケテ」
「おかあさん。タスケテ」
「アカリちゃん。たすけて」
「絵美ちゃん。たすけて。クララの役、ゆずってもいいから」
絵美ちゃんはクラらの役、とてもやりたがっていた。
少女はいっしょに残っていた演劇部員の名前をつぎつぎに呼んだ。
そのころになって少女は気がついていた。
トイレは全部ふさがっていた。
その数は、演劇部員の員数だった。
イジワルサレテいる。
イジメだ。
……タスケテ。タスケテ。タス……ケテ。
トイレの周囲のタイルの壁に花子、花子、花子。
という文字がうかびあがった。
文字は、タイル張りの壁をながれだした。
花子。
……真っ赤な血で書いたような文字。
ながれては消えた。
消えてはまた花子、とさらにおおきな字となってうかびあがってきた。
不気味な血の色が明滅していた。
それでも、だれも助けにはきてくれなかった。
少女の声はひくくかすれてしまった。
そのあとね、少女を見た人はいない。
翌日。
クララの役をやった絵美ちゃんが――幕が下りてから叫んだ。
真っ青な顔をして。
「ごめなんさい花田さん。ごめんなさい。わたしがわるかった」
でも、絵美ちゃんはそれからずっといまでも、車いすの生活をしているんだよ。
うしろから花田さんに抱きしめられている。
悲しそうにそういっている。
少女の名前はね。花田花子というんだよ。
● 2011年の7月から連載したものです。このたび、第二部を書くにあたり、とりあえず、前作をのせます。
●第二部を楽しみに待っていてください。
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