episode11 理科室の骸骨模型。
理科室には骸骨の模型がありました。
なに……?
そんなものないよ、だって。
骸骨の模型ってどんなものなの。
たしかにあるわけだけどな。
あのころは小学校の理科室にはかならず骸骨の模型があったんだ。
わからない子は、パソコンで「人体骨格模型・ヒューマンスカル特大フィギュア」で検索してごらん。
ていねいな紹介がみられるよ。
すこし怖いけどね。
でも、それを検索してよ。
簡単に、「人体模型」とだけ打ち込んでもみられるよ。
そう、骨の見本がでたろう。
みてくれないと。
これからのぼくの話の怖さが実感できないとおもうんだ。
理科室にはなにか薬品ににおいがしていた。
実験台の上にはまだピーカーや試験管、アルコールランプ、薬品の瓶などが乱雑に置いてあった。
それらを「片づけてきなさい」と三橋先生にいわれた。
こわがりのぼくを教育するためにその指示がくだされた。
当時のぼくは、素直に、そうおもっていた。
まさか、先生にイジメられているとは気づかないでいた。
放課後のことで部屋は静かだった。
太陽が千手山のかなたに沈むところだった。
もうすぐ、暗くなる。
はやく整頓して、先生に報告して下校しなければ――。
帰り道に宝蔵寺の暗い墓地を横切らなければならなくなる。
そう思うと手元がふるえた。
ぼくはあせっていた。
床が振動した。
動いている。
ゆれていたのは骸骨だった。
骨の一本一本が、がくがくうごいている。
おどっているようだ。
あぐががくがく開閉している。
「この標本のつくりかたしってるか」
と三橋先生が理科の時間にいった。
「死体をもらいうけてきて、酸をかけてとかすんだ。するとこうした骨だけが残る」
いまなら、先生にからかわれているとわかる。
そんなばかげたことはないと、否定できる。
でも、あのころはできなかった。
先生の言葉を素直に信じていた。
「これは交通事故でなくなったタカコちゃんの骨だぞ」
と五郎ちゃんがいっていた。
「ほら、腰のあたりの骨にひびがはいっている。くだけちまつているのを補修したんだって三橋先生がいってたぞ」
タカコちゃんは交通事故で死んだ同じクラスのいちばんきれいだった女の子だ。
あごががくがくしている。
「ショウちゃん」
とよびかけられたような気がした。
いやたしかに声がした。
ぼくはドアをあけて廊下に逃げた。
廊下はもうくらくなっていた。
だれもいない。
「死ねば骸骨。燃やせば炭素。くだけば灰。死んだ人間なんか、怖くはない。生きている人間だけが害をなす」
臆病なぼくをいつも父がはげましてくれる、諭してくれることばだった。
そんなこといっても、こわいものはこわいよ。
床がかすかに動いている。
骸骨がおいかけてきた。
「ショウちゃん。いっしょに遊ぼう」
とさそっている。
いやだぁ。
こわいよ。
ぼくはふるえながら夢中になって逃げた。
あとで、あとで遊ぼう。
こころのなかで、タカコちゃんにへんじをしながら廊下をはしった。
角をまがる。
もうすぐそこが、階段だ。
下りれば昇降口だ。
校庭にでられる。
どんとなにかに、ぶちあたった。
骸骨だ。
いや、父だった。
ぼくは父さんの顔をみるとなきだしていた。
「おまえに、理科室の整頓をいいつけておいて、帰宅するなんて教師のすることか」
事情をきいた父は激怒した。
ぼくは、父がのばした手にすがった。
冷たい。
死人のようだ。
かわいている。
かたい。
ぼくは骸骨の手をにぎっていた。
「ショウちゃん遊ぼう」
ぼくは理科室にいた。
あれから一歩もこの部屋からでていなかった。
「ショウちゃん。遊ぼう」
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理科室には骸骨の模型がありました。
なに……?
そんなものないよ、だって。
骸骨の模型ってどんなものなの。
たしかにあるわけだけどな。
あのころは小学校の理科室にはかならず骸骨の模型があったんだ。
わからない子は、パソコンで「人体骨格模型・ヒューマンスカル特大フィギュア」で検索してごらん。
ていねいな紹介がみられるよ。
すこし怖いけどね。
でも、それを検索してよ。
簡単に、「人体模型」とだけ打ち込んでもみられるよ。
そう、骨の見本がでたろう。
みてくれないと。
これからのぼくの話の怖さが実感できないとおもうんだ。
理科室にはなにか薬品ににおいがしていた。
実験台の上にはまだピーカーや試験管、アルコールランプ、薬品の瓶などが乱雑に置いてあった。
それらを「片づけてきなさい」と三橋先生にいわれた。
こわがりのぼくを教育するためにその指示がくだされた。
当時のぼくは、素直に、そうおもっていた。
まさか、先生にイジメられているとは気づかないでいた。
放課後のことで部屋は静かだった。
太陽が千手山のかなたに沈むところだった。
もうすぐ、暗くなる。
はやく整頓して、先生に報告して下校しなければ――。
帰り道に宝蔵寺の暗い墓地を横切らなければならなくなる。
そう思うと手元がふるえた。
ぼくはあせっていた。
床が振動した。
動いている。
ゆれていたのは骸骨だった。
骨の一本一本が、がくがくうごいている。
おどっているようだ。
あぐががくがく開閉している。
「この標本のつくりかたしってるか」
と三橋先生が理科の時間にいった。
「死体をもらいうけてきて、酸をかけてとかすんだ。するとこうした骨だけが残る」
いまなら、先生にからかわれているとわかる。
そんなばかげたことはないと、否定できる。
でも、あのころはできなかった。
先生の言葉を素直に信じていた。
「これは交通事故でなくなったタカコちゃんの骨だぞ」
と五郎ちゃんがいっていた。
「ほら、腰のあたりの骨にひびがはいっている。くだけちまつているのを補修したんだって三橋先生がいってたぞ」
タカコちゃんは交通事故で死んだ同じクラスのいちばんきれいだった女の子だ。
あごががくがくしている。
「ショウちゃん」
とよびかけられたような気がした。
いやたしかに声がした。
ぼくはドアをあけて廊下に逃げた。
廊下はもうくらくなっていた。
だれもいない。
「死ねば骸骨。燃やせば炭素。くだけば灰。死んだ人間なんか、怖くはない。生きている人間だけが害をなす」
臆病なぼくをいつも父がはげましてくれる、諭してくれることばだった。
そんなこといっても、こわいものはこわいよ。
床がかすかに動いている。
骸骨がおいかけてきた。
「ショウちゃん。いっしょに遊ぼう」
とさそっている。
いやだぁ。
こわいよ。
ぼくはふるえながら夢中になって逃げた。
あとで、あとで遊ぼう。
こころのなかで、タカコちゃんにへんじをしながら廊下をはしった。
角をまがる。
もうすぐそこが、階段だ。
下りれば昇降口だ。
校庭にでられる。
どんとなにかに、ぶちあたった。
骸骨だ。
いや、父だった。
ぼくは父さんの顔をみるとなきだしていた。
「おまえに、理科室の整頓をいいつけておいて、帰宅するなんて教師のすることか」
事情をきいた父は激怒した。
ぼくは、父がのばした手にすがった。
冷たい。
死人のようだ。
かわいている。
かたい。
ぼくは骸骨の手をにぎっていた。
「ショウちゃん遊ぼう」
ぼくは理科室にいた。
あれから一歩もこの部屋からでていなかった。
「ショウちゃん。遊ぼう」
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