田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

唇にチャック イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-27 06:07:10 | Weblog
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おどろくほど早く、注文したクリームシチュウはテーブルにきた。
ゆげをたてている。
解凍コックが作ったものだろう。
レトルト食品をチンしてだすだけの。
レストランのコックを誠はそう呼んでいた。
だが、下手に素材から調理するより旨かった。
ひとくちすると体があたたかくなった。
それでかえって、じぶんが寒さでひえきっているのをかんじた。
むろん悪寒は、寒さのためだけではない。

「あいつの女房のおやじがきてからあんなふうに扉をしめたきりになった」
小野崎の義父は県の教育長をしていた。
結婚当時は夫婦ともども出世コースだ。
などと、ずいぶんと友人やっかまれた。
「それで……クチビルニはチャックさ」
香取が非情な動作で唇の上で指を横にひいてみせた。
「そんなバカな。かりにも一人息子が抗議の自殺をしているんだ。真相の糾明があってしかるべきじゃないか」
「そっとしておいてください……。とりつくしまもない、というところにおまえさんがかけつけたというわけだ」
「なんだ、最初から、ぼくがきたのをみていたのか、ひどいやつだ」
「いや誠ならなかにいれてもらえると、期待していたのだ」
「期待がはずれて、ざんねんだったな」
「まあ、あんなもんだろう。あの状況でインターホンを押せるほど、誠は強面じゃないからな。期待するほうがまちがっていた。プレス人間の悲しい性だな」

慧君は5日前に家出をしていた。
詳細な内容は発表されていないが。
担任の体育教師の暴力に死の抗議をするという。
遺書がのこされていたのだという。
暴力をうけ。
虐待され。
しだいに追い詰められていく状況が。
どうやら、こまごまとノートに記録されていたらしい。
それで、はやい段階から捜査願いがだされ、ひそかに警察も動いていた。
それが、今夜。
野犬があまりほえるので。
パトカーをとめて八幡山公園内にはいった警官が。
首をつって死んでいる慧をさがしあてた。
事件は公にされてしまった。

そういう経緯を誠は香取からきかされた。

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