田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

悪夢(2) 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 18:26:44 | Weblog
6月24日 火曜日
眞吾がバールをつきたてるようと叫んでいた。
王子のやつら、赤羽のパーティは、いつからあんなに強くなったのよ。
へんな技をくりだしてきた。
ひとりだけバールをつきたてたら消えてしまった。
そうよ。
ほんとうにあいつ一瞬で、灰になった。
消えてしまった。
胸にバールをつきたてられて……消える。
……灰になる。
……あれって、吸血鬼? 
夢うつつの中で八重子は考えていた。そうだ。わたしたちの敵は吸血鬼だった。
悲鳴がしていた。
こんどこそはっきりと目覚めた。
悲鳴は八重子の口からでていない。
集中治療室の前の廊下。
長椅子にすわっていた。
うたた寝をしていた。
となりに早苗もいる。
治療室の扉が開いている。
悲鳴はその奥でしていた。
集中治療室の扉がひとりでにひらいた。
自動扉だ。
廊下の側から入らなくても、治療室の側にひとが立てば自動的に開く。
扉がひらいても、なんの不思議もない。
だが廊下の長椅子で早苗とともに金次の安否を気遣う八重子の前を通った人影はない。
いくら、うとうとしていても、人の気配を見落とすほどヤワではない。
だから、治療室から医師か看護婦がでてくる。
そうしたら弟の病状をきこう。
……あれは病気なんかじゃない。
……だれもでてこない。
八重子は不安になった。
とても、現実とは信じられないことが起きている。
また……なにかいやなことが、……八重子は立ちあがった。
治療室でまた悲鳴が起きた。
八重子はかけこんだ。
きゃゃぁぁ。
真っ赤な布がおちていた。
布はすこしもりあがりぴくぴく蠢いていた。赤い塊はナースであったもの。
赤い布はナースの白衣であった。
八重子にもはっきりと見ることができた。
超近代的な医療器具の狭間に、おぞましい爬虫類の青い表皮におおわれたQが、つぎなるナースを生け贄にしょうとしてかかえこんでいた。
鋭い歯はまさに白い喉もとにあてていた。
鉤爪が赤くそまっていた。
それを長い舌でペロリとなめている。





悪夢  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 07:03:50 | Weblog
6月24日 火曜日

とくに、下り車線はすいている。



牙がくいこむ。
鋭い牙だ。
ぶすと音をたてた。
肉が裂ける音がした。
不気味な音とともに。
牙が!!
眞吾の首筋に楔となってうちこまれた。
眞吾の瞳は反転した。
黒目が瞼にかくれる。
白目となる。
顔がひきつる。
手が虚空にある。
なにかつかもうとした。
もがく。
ずるっと音をたてて吸われている。
ズルッ。
真紅の血が吸血鬼の唇から滴った。
眞吾の顔がみるまに。
ひからびる。
縮んでいく。
無数の皺がよる。
青ざめた死相……。
眞吾。
わたしの愛する眞吾が。
ふりかえる。
白い目は八重子の像をうつしていない。
八重子は、動けない。
足が動かない。
金縛りにあったように、体が恐怖でかたまっている。
なんとかして助けなければ。動けない。
わたしの眞吾。
眞吾がわたしの目前で死んでしまう。
悲鳴をあげた。
眞吾の顔が弟の金次に反転する。
二人の顔が交互に入れ替わる。
イヤーァ。
声はでた。声だけは必死であげた。
誰かきて。誰か、わたしの声を聞いて。
助けににきて。わたしが悲鳴をあげている。
信じられない。
『空っ風』の元ヘッドのこのわたしが悲鳴をあげている。
信じられない。
わたしの眞吾を助けて。
金次を助けて。声だけはだすことができた。
……八重子は目覚めかけてていた。
これは夢だ。夢なんだ。
体は金縛り。まだ動けない。
疲れていた。
たてつづけに、理解をこえた、異常なことが起こりすぎた。
それにしても、これは夢だ。
夢を見ていたのだ。
そして、覚めかけた夢のなかでまだ考えていた。
なぜ吸血鬼なんかが現れたのだ。
あれは吸血鬼だ。まちがいない。






インターバル(2)    吸血鬼/浜辺の少女(2) 麻屋与志夫

2008-06-23 08:53:31 | Weblog


6月23日 月曜日
インターバル(2)
●狂ったように金曜日からブログの更新をつづけてきた。

●金、土、日の三日間で19回。せっかちなので、こういうことをしてしまう。書き上がっただけ直ぐに投稿してしまうからだ。ごめんなさい。訪問していただくかたには迷惑ですよね。読み終わったとおもったらまた更新、なんてことがなんどもつづいたわけですから。

●それともうひとつ理由がありました。

●22日が誕生日でした。

●北関東の小さな田舎町に住んでいます。小説の話し相手はこのPCのハルちゃんだけです。

●そして、ハルを通して電脳空間の彼方にいるあなたたちとむすばれています。

●わたしの小説は目下のところ、吸血鬼テーマですから、訪ねてくださるのはわかいひとがおおいようです。

●あなたがたのコメントが、訪問者数がわたしの励みとなっています。

●あなたたちの、励ましの精気を吸って小説をかきつづけている。

●わたしこそ最強のマインドバンパイアかもしれません。

●ばんばん精気をおくってください。

●吸血鬼小説が、さらにヒートアップしますよ。

●疲れて庭にでてみたら「アスチルベ」の清楚な花が咲いていました。

助っ人 吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-22 22:10:35 | Weblog
6月22日 日曜日
「麻生眞吾くんだな。分家の皐隼人です。スケットするぜ」
「まあまあ、こんないたいけない男のこやオンナノコをいたぶって、いけない人たちね。どこがおもしろいの」
夏子が余裕をもって微笑みかける。
吸血鬼がざわっと後ろに退く。
夏子は怒りに体がおののいていた。
青い炎が夏子から立ち上ぼっていた。
ゆるせない。あたりには鉤爪できりきざまれた若者がたおれていた。
あとで、たっぷり血を吸う気なのだ。
「あとは……わたしたちにまかせて、噛まれた人をはやく運んで。病院につれてってあげて」
「そうするんだ」
眞吾がいう。ヘッドの命令だ。
「キンジのところにいってあげて。弟のこと、たのむは」               八重子が矢野に叫びかける。
眞吾と行動を共にする。
死んでもいい。
眞吾と死ねるならもう、うれしくて、うれしくて。
涙がでる。
共に死ぬ覚悟だ。 
やさしいことばとはうらはらに、夏子の夜目にも白い顔がひきつっていた。
爪がきらめく。長くのびた。
黄金色にかがやきだした。
吸血鬼にむかってつきだす。
その爪がサクッと抉る。ざらっく鱗状の喉につきささる。青緑の鱗におおわれた皮膚が裂ける。
緑の粘液が噴きだす。
ああ、コイツら兄の配下ではない。
爪の感触がつたえてきた。
同族とのあらそいを忌避するための悍ましい感触がない。
爪が金色にかがやいている。
おなじ吸血鬼でも、ほかの部族に属するものたちだ。
よかった。大谷の一族ではない。兄のRFでもない。
ああよかった。兄さん、ゴメンナサイ。どこで再生を期しているの。
兄の配下でないとなれば、おもいっきり闘わせもらうわ。              爪がさらなる戦闘にそなえ硬度をます。美しくかがやいている。金の光沢をはなつ。
どこに忍ばせていたのか。隼人が鹿沼は細川唯継の降魔の剣、魔到丸をふるう。
「きききさま……」
「おう、あのときの吸血鬼か」
壁絵、ラクガキからぬけでたQだ。吸血鬼マスターだ。
「こいつだ。夏子さん……おれが会った吸血鬼」
「こいつら、トウキョウの夜の一族よ。喉ともちろん心臓がよわいの。それに尻尾をぬけば溶ける」
「吸血鬼が、人に仲間の弱点をしらせていいのか」
「あなたたちが仲間なら、わたしの爪はのびない。これれほど、かたくならない。金色の光輝をおびない。同族とたたかうタブーがはたらかないの。だから、アンタらは敵」
夏子の目が赤く光りだした。
敵の鉤爪と交差して夏子の爪がチャリンと鋼のひびきをたてる。
相手の爪が根元からたたき切られる。
夜目にもまばゆくきらめく。
きらめき、とびちる爪。
眞吾の鞭が風をきってなりひびく。
その音に吸血鬼がおののく。
樹木の影に退いていく。
隼人は切るとみせて、敵の喉に魔到丸で突きをかます。
死可沼流『刺鬼殺』の技。
隼人があみだした新しい技だ。
喉を突いた瞬時、剣先は胸まで切り下がり相手の心臓をえぐりだす。
いかな吸血鬼といえども即死する。緑の液体が噴きあがる。
「北関東は下野、大いなる谷に住む、大谷の夜の一族に永久追放をされた女のバンビーノ、血を吸うことなく、生きながらえている白っ子がいるときいたが……姉さんだな?」
「それだけわかっていたら、ここはいさぎよく退いたら。ここはわたしたち、大谷一族のテリトリーよ」
シロッコとよばれた怒りをおさえて夏子が爪をひっこめる。
「おれは王子の夜光」
「わたしは夏子。鹿未来の娘」
「おう。マスターの直系の娘かよ。また会おう」
このまま闘ってっても、敵を皆殺しにすることはおぼつかない。          
敵に華をもたせて、退かせる。
夏子がうなづく。
吸血鬼の集団が後退したあとには、すさまじい血臭と呻き声が残った。
「どうして、こうも吸血鬼がらみの事件が宇都宮のまわりでおきるんだ」
「それがわたしにもわからないのよ」
隼人のいらだちに夏子までもが同調(シンクロ)している。透きとおる白い肌にかすかに赤みがみえる。興奮している。別の部族とはいえ、吸血鬼におそわれて数多くの若者が入院している。
夏子と隼人それに眞吾もくわわって、自治医大の屋上にたった。
かっては関八州の草原であった街々を見下ろしている。
夏子には地上にあっても風景を鳥瞰する能力がそなわっている。
過去と現在、未来をつなぐ超能力がある。
「わたしがタブーをやぶって百年ぶりて……ふるさと鹿沼にもどってきた。わたしが隼人を愛してしまった。精気をふきこむことはできても、すきだから隼人の燃える情熱をあまり吸収することができない。これって吸血鬼社会のエコロジーをみだすことなの……そうしたことが、悪の波動をひきよせている。兄の、鹿人の敵愾心に火をつけることになっている」
数百年を閲してきたバンパイヤとしてのセンサーが発動されている。
それでも理解できない。夏子もいらだっていた。
夏子の意識の視野のなかに赤い点のようなものがうかびあがった。
「どこかしら、とてつもなく邪悪なものが蠢いている。いまはまだ、ちいさな点にすぎないけれど、悪意の波動は強烈だわ」
「場所は特定できませんか」
「だめよ、わたしの力ではだめ」
眞吾にこたえている夏子の横顔をみながら、隼人は道場に携帯をいれた。
眞吾をぶじ救いだしたことを祖父につたえた。
「それで夏子……」
祖父は鹿未来とかわった。
「そうなの、わたしも感じている。北の方角よ……そこまでしかわからない。トウキョウの夜の一族は、南に去っていったとすると、なにがこうも邪悪に蠢いているのかしら。邪な波動がひろがっている。だれかをよんでいるみたい」
「わたし北にいって見る。ここにいて考えていてもなにもわからないもの。でも……これから起きることは、ぜんぶわたしにかんけいあることのように思えるの。鹿沼にもどってきて、故郷の土の寝床でやすんでいたときに、そう感じたの。お母さんに呼ばれてこの故郷の土をふんだとぎから、わたし宿命を感じた。駅におりたとたんに、隼人と会った。恋をするなんて……そして彼がわたしたちの、お母さんの家の子孫だなんて……なにか時の流れのなかで、わたしたちを出会わせようとしているものがあるのよ」
病室にもどる。眞吾が八重子に事情を説明する。
北にむかう……、おれたちにもなにが起きるか予断できない。
「あたしもいく」
「ダメダ。八重子と早苗でみんなの看病をたのむ」
「女の子のしごとなんて、あたしにはむりよ。それに、ここは完全看護なの。いても、病室にははいれないのよ」
「あすになれば、プレスの連中がおしかけてくる。それをさばけるのは八重子だけだ」
隼人のルノーを、眞吾と高見、矢野はバイクで追尾することにのなる。
国道4号線を北上した。
平成通りを左折、鹿沼インターで高速にのった。
東北縦断道路だ。あまりこんではいない。



麻の鞭 吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-22 20:04:15 | Weblog
6月22日 日曜日
『黒髪連合』の若者たちは吸血鬼の鋭い爪で切り刻まれていた。          
あたりは血の匂いがみちみちていた。
それがいっそう吸血鬼を興奮させている。
たのしませている。
やがて、この闘争に終止符をうつ。
やがて、この殺戮も終わる。
おもうぞんぶん血が飲める。
血が飲める。
よろこびを先送りりするかのように、吸血鬼はたのしんでタタカッテいた。
眞吾の麻鞭がヒュヒュとびびく。
円をえがく。円は螺旋状。
あるいは、稲妻となって空をきる。
いや空ではない。
かならずその空を切り裂くなかに吸血鬼がいた。
吸血鬼の尾があった。
蛍光塗料でもぬったら新体操のリボンの動きさながらのうつくしい動きが見てとれる。
逆だ。
薄墨色の麻の鞭の動きは吸血鬼にも見えていない。
見えていないからこそ、かれらは切られる。打たれる。
打たれ、切られれば血もながす。尾をぬかれる。
うすい緑の血。鞭の音。
ヒュウ、ヒュウと眞吾の怒の音だ。
実戦で鞭をつかうのははじめてだった。
爬虫類の固い肌が切りさかれる。
だがそこまでだ。
さいしょにバルーをうちこんでたおしたのは吸血鬼ひとりだけ。
若者たちは、追い立てられ、血をながし全滅の危機。
「王子のやっら、こんなに強かったのか」
矢野が叫ぶ。
高見がジレている。
「王子のやっら、どうして血をながさないんだ。傷つかないんだ」
しかしひるんではいない。
硬派のなかの硬派。
ヤクザにケツ持ちなどたのんでいない。
いまどきめずらしい。
血を酒杯にみたしすすりあって団結した仲間だ。
血をすわれることなど怖くはない。     
ふいに、林の木陰から女性と男性がわきでた。
「新手の敵よ」
八重子が眞吾に叫びかける。
絶望はしていない。
死ぬときいっしょだ。
眞吾と敵をあいてに真っ向勝負をしている。
うれしい。
手をつないで死んでいけたら、こんなうれしいことはない。
うれしくて、涙がでるってものよ。
ふたりだけならそれでいい。
仲間をみちずれになんかできない。
マブダチをこれいじょう死なせるわけにはいかないのだ。
だが、だが、もうもちこたえられそうにない。
どうする眞吾。いちどはわかれた男、あたしの眞吾。
伝説のレデイス『空っ風』のなかまの将来を思い、ヤクザに食い物にされないうちに解散した。
麻薬(どらっぐ)などに、ハマラナイ、正統派。
硬派のなかのコウハを自認する『黒髪連合』の未来を信じて、眞吾に託した大勢のレデイス『空っ風』のマブダチ。
このままここでみんなと死ねれば、眞吾と死ねれば、本望だ。           
男と女がちかよってくる。
「新手の敵よ」
もうだめだ。八重子は心の中で叫んでいた。






殺戮 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-22 18:32:19 | Weblog
6月22日 日曜日
車の目指す先にある殺戮の場。夏子には闘争の場が見えてきた。
血の臭いに満ちていた。
それもとんでもない害意によって生贄となったモノたちの血。
夏子は感じていた。
わたしが吸血鬼の世界のタブーをやぶって帰ってきたからなのか……。
夏子の癒しの波動を阻止しょうとする夜の一族からの誘いなのか。
なにか起きる気配。
夏子の愛する、故郷、鹿沼。そして、宇都宮。
下野の国は、平安のむかしから流刑地として、穢土として忌み嫌われてきた。                この北の大地に崩壊の兆しを、母の呼び声のなかに体感しての帰国だった。
けつして、もどるまいと思っていた。
遍歴の地で野ざらしとなるのもやむをえないという思いが強かった。
ところが、夏子は吸血鬼。
死ぬことはなかった。死ねなかった。
夏子は、汚れのすて場としてのこの土地の忌まわしい過去を心の底からひきだしていた。
わたしと隼人が駆けつける地は、道鏡の追放された下野の薬師寺の跡のあるあたりだ。
道鏡の怨念が渦巻く地、思い過ごしであればいいが。
「……でも……隼人、わたしはこの土地がすき。隼人を愛しているように、この土地がすきなの、北の果てと思われていたころからわたしたちをやさしくかかえこんで生かしてくれた、この下野の土地がすきなの。鹿沼の土がすきなの。この土地を守りぬく……」
いますこしよ。
勇ましいかけ声で隼人をうながす。
隼人にもみえてきた。
白い靄のかかったかなたに、うっすらとではあるが……血のすさまじい淫悦に踊り狂う吸血鬼の群れが。
「すごいわ。このままではおおぜい、殺される。ヤツラたのしんでいる。ひとりだけ強い若者がいる。けなげよ。たたかっている」
「あれが眞吾。本家、麻生家の血筋のものだ」
「わたしたちの血につながるものね」
夏子が隼人の手にふれた。
小さな火花が散った。
火花には色があった。
青い。夏子が青い炎をあげている。
夏子の思念がながれこんでくる。
夏子は人をおそう吸血鬼に怒りの念をたたきつけていた。
ゆるせない。
夜の一族がなぜこうも無謀に荒れ狂うのか。
闇の世界にひっそりと陸棲することを選んだわたしたちの一族が、どうしてこうも人を堂々とおそうようになったのか。       
そして夏子は憐れみ、悲しんでもいた。
人の血を吸うことでしか生きられない同族の吸血鬼を……。            
国道4号線を右折した。
そのまま直進。
林にのりいれて。
それから右。道がきゅうにせばまる。       
これからさきは、ルノーでははいっていけない。
なんだいものバイクや車のつけた轍の跡。そして、車と、のりすてられたバイク。
ライトはつけっぱなし。いくつものライトのてらす先には地獄。隼人にも聞けてきた。
ふたりは手をつないだ。走る。はしる。ハシル。
現実の音。悲鳴。苦鳴。嗚咽。
そして、夏子と隼人が幻視したとおりの争いが夜の底で、雑木林の奥深くでくりひろげられていた。              
地獄絵図。
まさに、地獄だ。







夏子、隼人走る 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-22 17:59:27 | Weblog
6月22日 日曜日
早苗は血まよっていた。わたしのキンチャン。シッカリシテ。
おかしなことばかり起きている。まともな早苗の感覚ではついていけない。
「そうよ。これはゲームなのだ。わたしたちはゲームの世界にとりこまれてしまったのだ」
血。赤い血。金次の首筋からにじみでている血。おさえてもとまらない。
じわっとふきだしてくる。どれくらい血をながしたのか。金次の顔は青白さをとうりこして灰色の死相をみせていた。チァノーゼがはじまっているのかも。昏睡。このままでは、失血死はまぬがれない。
「キンちゃん。しっかりして。病院についたからね。もう心配ないからね。気を強くもってよ」
キヨシもキヤリヤーでうめく傷ついたほかの仲間をはげましている。
心配なのは、これからだ。がんばるのよ。
すれちがった若者たちに夏子は声なきエールをおくる。
やっと、隼人と並んだ。
夏子は走りながら隼人に念波で話しかける。
聖水で体を清めていた高村神父でさえあれほどの苦しみにおそわれた……。
陽気にふるまっているが、神父の苦しみはよくわかる。
聖水や祈り、十字架もあまり効果がないことを知ったときのおどろき。
心が空っぽになる。
信仰の強いひとほど、悩みも深くなる。
ああ、吸血鬼に噛まれたひとたち、ゆるして……そして苦しみに、痛みにたえて。
凶暴な夜の一族に噛まれたのよ。
いま復讐してあげる。
あなたたちを噛んだものを滅ぼせば、鬼化現象、あなたたちがRFになることはない。
RFにならないはずよ。
なんてことするの。
みさかいなく、噛みつくなんて、いくら吸血鬼でもやることがひどすぎる。
廊下ですれちがい、背後にさっていった、早苗とキヨシたちに夏子はエールをおくっていた。           
がんばって。そうよ、がんばるのよ。
電話のきらいな幻無斎からかけてきた。
めったに電話にもでない祖父だ。
まして、携帯にかけるてよこしたのは、はじめてのことだ。
起こってはいけないことが、起きてしまっていた。
「本家の、麻生眞吾くんが、吸血鬼におそわれている。さいわい、そこからすぐだ。石橋の雑木林のなかだ」         
「番地は林のなかじゃわからないよね」
「冗談はいいから、はやくしろ。……もう、向ってるらしいな」
隼人の気配で祖父にはわかったらしい。さすが剣の達人。
携帯からつたわる隼人のただならぬ気をよみとっている。
「薬師寺跡の南西らしい」
「携帯もこうしたときは便利なものだな」
隼人と夏子はルノーに飛び乗った。








出血  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-22 15:37:29 | Weblog
6月22日 日曜日

まだ出血している箇所がある。あれで、退院させていいのかしら……。
血血血、血のことばかりついてまわる。
吸血鬼? よしてよ。ここは、病院よ。
超近代的医療メカを備えた国立の総合病院。
完全看護だ。ほんとは、つきそいなんていらないのに。
北関東唯一の自治医大付属の国立病院だ。
映画やゲームの世界じゃないの……。
科学の粋をあつめた医療器具がそろっている。
夏子とよばれているヒト。
あの肌の白さはハーフだ。
きれいすぎる。
ナースの嫉妬。
理解できない世界を嘲笑することで、心のバランスをたもとうとする感情が夏子にながれこんでくる。
吸血鬼だなんて、思わず、口ばしってしまった。
わたしもまだ感情の抑制がきかない部分がある。
この年??? になっても。
いや、この年になったからこそ、感情を抑制するのがいやになったのかも知れない。
一族の掟からのがれて奔放に生きていきたいわ。
愛する隼人と結婚して赤ちゃんを産んでみたい。
産めるのかしら。
吸血鬼ということばをきいただけで……ながいこと、差別され、バンビーノーといじめぬかれているので、一族がからんでくると、意地になるのね。
宇都宮が荒廃してきたのは、わたしたち吸血鬼族が動きだしたからなのだ。
鬼の毒気に人びとがあてられている。
餃子を食べたくらいではだめだ。
鬼の害意をのみこんでいる。
鬼の害意の波動にシンクロしている。
そうに違いない。
だから、凄惨な事件ばかりこの地で続発するのだ。
黒磯で女教師がバタフライナイフで刺殺された事件。
宇都宮のオリオン通りの宝石店。
ガソリンをぶちまけた。店員全員を焼死した事件。
立て籠もったヤクザか情婦を道ずれにした拳銃自殺事件。
思川の児童投げ捨て事件。数えあげたらきりがない。
「なによ、これってなにかゲームなの」
金次を運んできた早苗がつぶやいている。
「ゲーム? なんのこと」
看護婦は思わず声にだしてしまう。
夏子のことばがさっそく現実のものとなった。
看護婦は戸惑う。
だが機敏に動きだす。
「急患です。それもおおぜい」




噛み傷  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-22 14:33:41 | Weblog
6月22日 日曜日



「吸血鬼におそわれた患者がきたわ。多量の輸血、それも一刻も早く。ERのドクターに教えてあげて」
本当は、血をぜんぶぬきかえるのがいい。蘇生させるには血をおぎなうのが一番。
全部の血をぬきかえるなんてむりよ。
吸われただけでも補わないと……RFになっちゃう。
でなかったら確実に死ぬ。
夏子は走っている。
走りながら、夏子はナースステーションに声をなげる。
隼人は先にいる。なんども神父の見舞いにきている。
わたしがいるからかな。
わたしが神父につきそっているからかな?
吸血姫の看護をうける神父なんて、ひとむかし前だったら考えられなかった。
いや、いまでも……めずらしいことにちがいない。
でも、でも、ほらモチはモチ屋っていうじゃない。モチ屋ってなぁにい?
若い彼とつきあっているので、ふるい記憶が曖昧になる。
モチヤ? ケイタイもってるひと。
彼モッテルヒト。
ビョウキモチー。
モウシラナイ。
なんでもいいから。
吸血鬼の噛み傷にかんしては、わたしいじように、その治癒法を知るものは、イナイノ。わたしが、イチバン。でも、夏子の自問自答はつづく。
こういうのって、声なきモノローグっていうのかしら……。
神父の見舞いをかねて、わたしに会いにきているのだわ。
かわいい、わたしの彼。年下の彼。おいくつ年下なのですか、と聞かれると困ってしまう。
「あら、いま、年下の彼ってフアッションなの」
そう、とぼけるしかない。
だれにもわたしの年はあてることはできっこない。
夏子は、長椅子の並ぶ、ぴかぴかに磨き上げられた床をすべるように移動していく。
いわゆる吸血鬼ウォークという移動だ。
あまりにも速く足が動く。
人の目には、人間の動態視力では立ったままサアッとすべっていくように見える。
病院の曲りくねった廊下で迷うことはない。
エントランスにむかって走っている。
はやく追いつかなければ……。
ナースはおどろく。         
どうして、指図するの。
ドクターでもないのに……なんで、そんなことがわかるの。
まだ、なんの連絡もない。急患の連絡なんか、まだはいっていない。
おかしいのだ。
吸血鬼っていってたわ。
ヘンナノ。
吸血鬼におそわれた?
なにいっているの。
輸血だなんて? 
なに指図する気なのかしら。
おかしいわ。
オカシイワ。
あのひとのつきそっている神父。
血がなかなか止まらない。止まらなかった。
さいしょは、血小板に異常があるのか、とドクターが話していた。
入院がながびいた。……全身に噛み傷。







悪の波動 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-22 12:12:29 | Weblog
6月22日 日曜日
自己顕示欲が強すぎるのだ。
自分たちの能力を見せつけたいのだ。
隼人は夏子に気遣ってVという。
夏子はあけすけに吸血鬼という。
知らない人が聞いたら、いい大人がゲームの話しでもしていると聞こえるだろう。
「すぐに爬虫類の肌をみせたり、蝙蝠に変身するのはカレらの自己顕示欲よ。カレらは人を殺すために血を吸うの。血を吸うために、血に飢えたために人をおそうのではないのよ。殺戮マシーンといったところね。それにまわりにすさまじい毒気をふりまく。あらゆるものを腐らせるすごい毒気をね」
「教会の大谷石の壁が腐食しました。部分的にですが、改修しなければならないほどです」
「もう影響がでているのだと思う。同じ夜の一族だけど、わたしたちの部族よりはるかに凶悪なの。だから、聖なる建物、教会がダメイジをうけているのよ。感受性のするどい……若者ほど悪意の波動にのみこまれ、影響をうけるわ。それが怖いのよ」
 夏子の声はさびしそうだ。
「その大蝙蝠には尻尾が生えていなかった? ねえ、隼人思いだして。大切なことなの。尻尾がついていなかったかしら」
「……そこまでは……」
「くるは……」
 夏子がふいにつぶやく。声は憎悪を秘めている。
「だれかが……あらそっている。このちかくだ」
隼人にも感じられた。
「なんですか」
なにも感じられない、神父がベットからおりた。
窓を開ける。
「月などこのところ、見ていなかったな」
神父が名月を愛でている。
「くる。……なにかくる」        
どうしてなの? 
どうして、宇都宮に凶悪な事件がこのところ続発しているのか。
オリオン通りで起きた宝石強奪。
ガソリンをまいて店を全焼させ、店員も焼き殺している。
隣の主婦を猟銃で射殺した残虐な中年男。
オリオン通りだった。
ナイフを持った不審者に対処する訓練。
その光景をテレビで報じていた。
秋葉原のような事件を想定しているのだ。
そうした事件の起きる危機感がオリオン通りには確かにある。
隼人の携帯がなった。
道場の祖父、無幻斉からだ。