田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-06 10:37:18 | Weblog
6月6日 金曜日

吸血鬼/浜辺の少女 58 (小説)
「総理襲撃には絶好のポイントだ」
「ビンゴ」
夏子が直接頭に話しかげず声にだす。
ふたりともなにか落ち着かない。
声に出している会話がすごく不穏なものだとはわかっている。
でもにわかに信じられないでいる。
鹿沼の市街に入った。
路肩のガードレールに幟が等間隔を置いて立ててある。
夜風にはためく幟の文字は『綿貫総理大歓迎』。
人気絶頂の総理だ。
ここは、総理夫人の育った町だ。
沿道には夜になっているのに、歓迎の人が群れている。
「夏子さん。この事件が解決したらぼくと結婚してください」
ウッと夏子が息をのむのがわかった。
「バカね。わたしが何歳だと思っているのよ」
夏子が沈黙した。
夏子の声がまた直接頭にひびいてきた。
(わたしと隼人の愛が、わたしたちが愛し合うことが、故郷鹿沼のためになるなら、結婚してもいいわ。わたしたちが結婚することが、わたしたちを育んできた鹿沼の自然のためになるなら……。隼人あなたを好きよ。背中にあなたの気配を感じたときから、こうなる予感があった。わたしたちの愛は、わたしたちだけのものではない。ふたりのものではない。吸血鬼と人間が結ばれるのよ。その愛はだんじてふたりだけのものではない。周りのひとたちとの共生の中にあるのよ。そのことをわかってもらいたいの。わたしって古い女なのよ)
西中学の荒川、加藤、福田が道場で歌ってくれた『千年恋歌』が隼人の心にひびいていた。

やがて燃え尽きていい
あなたに会えるなら

あなたと結婚できるなら、と隼人は声にならない声でかえ歌をうたった。

隼人は夏子を振り返りながらホテルの自動ドアを通過した。
沿道の人出がうそみたいだ。
ホテルのフロントは閑散としていた。
あのとき、鬼島と田村は階下からエレベーターで昇ってきた。
レストランは最上階にある。
狙撃には屋上が適している。
その準備をしていた気配はなかった。
フロントには女性がいた。
「客室で府中橋に面しているのは……」
花火大会でもないのに、なにいってるのかしら。
不審な顔からそれでも返事がもどってきた。
「四階の角部屋です」


インターバル 吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-05 23:22:38 | Weblog
6月5日 木曜日
吸血鬼/浜辺の少女 
●第一部がまもなく終わります。この小説はまだはじまったばかりです。これからどんな展開を見せるのかわたしにもわかりません。それが書く楽しみなのかもしれません。

●鹿沼とか宇都宮。あまり小説の舞台としては取り上げられていません。わたしの故郷であり、ささやかな「アサヤ塾」を主宰しているので毎週必ず塾のある日は東京からかよっています。それで愛着をもって選んだ場所です。

●ゲーム世代の若者、アキバ文化をうけいれている若者にはファンタジーはおなじみですよね。おらが町にはこんなことはない。などと年配のかたはメクジラたてないでください。ごめんなさいね。こはれ小説なのです。現実の土地の名前。建物。町の話題がでてきても、それらは、あくまでわたしの内部の事象なのです。現実とは関係ありませんので、よろしく。

●れでは明日からまた小説のほうをお楽しみください。




吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-02 12:38:16 | Weblog
6月2日 月曜日
吸血鬼/浜辺の少女  57 (小説)
テロ。テロだ。
首都機能の那須への移転に反対している綿貫首相を襲撃する計画……? がある。
天啓。神の声だ。隼人はそう感じた。
あいつぐ、戦い。吸血鬼との戦いに幻惑されていた。
敵の真の狙いが、ほかにあることに気づかなかった。
「落ち込まないで。はじめから、目くらましにあっていたのよ。鹿人は作戦たてるのに長けているから」
なんてバカげた、無謀なことを企てているのだ。
それほど権力を手にしたいのか。
なんて怖ろしいことを平然と実行に移そうとしているのだ。
それほど権力を手中におさめ、人間を支配したいのか?
いままでの、すべての攻撃はテロを察知されないためのフェントだ。
ほかに注意をそらすミスガイドだ。
妖霧から街を守るために。
妖霧を防ぐため――妖霧の元を断つために高村神父がダイナマイトの入ったリックを背負って洞窟に潜入した。坑道を先をいそいでいる。
たったひとりで。果敢にも突き進んでいる。
そうしたイメージが隼人の脳裏に浮かぶ。
神父さん申し訳ない。夏子もぼくもご一緒したかった。
行きたかった。ごめんなさい。
高村神父は暗い坑道にひとり消えていった。
無事に帰ってきてください。
宇都宮のひとびとを吸血鬼の災禍から護衛するために。
宇都宮で遊びまくっている鹿沼の若者を助けるために。
神父はよろこんで命を賭けた。
もはや餃子を食べたくらいでは、吸血鬼の牙を避けることは出来ない。
神父はこの教区の守護神。ガードナーだ。
この町を固守してみせる。
この町の平和を死守する。
という決意をひめた神父のイメージが隼人の内部にある。
「まにあうかしら」
夏子の思いは鹿沼の街にとんでいる。
「もっと飛ばして」
総理がお忍びで、夫人の故郷である鹿沼を訪れるのは今夜だ。
総理が、鹿沼駅前の大通りを通過する予定時間までいくらもない。
残された時間はわずかだ。
群衆を避けるためにこんな遅い時間帯を選んだのだ。
隼人はルノーのスピードがものたりない。
鹿沼までの距離が遠く感じる。
わずか十数分の時間が長すぎる。
長すぎる!!
「わたしたちの推理はまちがっていない」
なにか話していないと不安だ。テロを阻止できなかったら!!
「わたしが鹿沼にもどることは雨野しかしらなかった。成田から電話した。でも時間はつげなかった」
ふたりともさきほどから同じことを話している。
「それなのに、ホテルでおそわれた」
「望遠鏡で見張っていた視野に夏子が入った。ヤツラ驚いたろうな」
「駅から府中橋までは直線道路だ。狙いやすい」
ふたりは脳波を交わしていたことを口にする。
なんども話し合うことで確信はますます深まった。



吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-01 21:13:28 | Weblog
6月1日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 56 (小説)
「過激な展開ね」
「デスヨネ」
隼人の応答に夏子がほほ笑む。
隼人は車の窓から外を見ていた。
まだ暮れて間もないので、田園地帯にでても周囲が見渡せる。
ところどころに街灯もついている。
鹿沼の皐道場までは20分とはかからない。
夏子はただぼんやりと景色を見ているわけではない。
むしろ、なにか一生懸命に考えている。
それが、ハンドルを握る隼人にも伝わってくる。
隼人には夏子の内なる声が聞こえている。
(なにかおかしいのよね。……いくらなんでも、おかしい。なにか見おとしているものがある。吸血鬼はもっと強い。なんども戦ってきたが、中途半端であきらめて引いてしまう。吸血鬼はもっと残酷なはずだ。それにRFまかせで鹿人の直属の吸血鬼がでてこない。鹿人はどこにいるの。なにをしているの。わたしたちを牽制しているだけみたい)
「そうかもしれない。夏子の推理は正しいと思う」
隼人は口に出して夏子に応える。
おまえの背におれたちの目があると思え。鬼島に脅かされた。
初めておそわれたのは……ホテル。
リバサイドホテルの屋上だった。
鬼島も田村も本気ではなかった。
夏子はともかく、ぼくのことなど簡単に倒せたはずだ。
そのあとすぐに、暴走族<バンパイァ>の高野との戦いがあった。
夏子の家がおそわれた。
雨野を奪還に大谷の洞窟にのりこんだ。
夜の一族が皐道場に報復した。
そしてきょうの闘争。
なにか腑に落ちない。
はじめから奇妙だ。
だれも知らなかったはずの夏子の帰郷だ。
どうして鬼島と田村が迎え撃つことがてきたのだ。
どうして鹿人がいなかったのだ。
夏子が隼人とあったのは偶然だった。
鬼島と田村がラミヤ、夏子とあったのも偶然だった、のではないか。
まったくの偶然が続いたのだ。
鬼島と田村はホテルの屋上から停車場坂を下ってくる夏子と隼人をみて驚いた。
かれらはホテルの屋上で望遠鏡でも覗いていたのだろう。実地検分?
かれらの視野にふいに忘れられたラミヤ、夏子が偶然はいった。
かれらは偶然とは思わなかった。思えなかった。
屋上でかれらはなにをしていたのか? 
首都圏移転反対の綿貫首相が来鹿するのは今夜だ!!
そうだ。狙撃。テロだ。テロ攻撃。狙撃。
ホテルからの狙撃だ。
それで首相の一行が通る停車場坂を検分していたのだ。
その視野に夏子と隼人をとらえたのだ。
スナイパーとしての鬼島と田村は場所と位置確認をしていた。
あまりにもタイミングが悪すぎる。
夏子の注意をほかに向ける。
ただそれだけの目的で襲撃してきたのにちがいない。
「そうよ。わたしもそう確信する。いそぎましょう」




吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-01 05:43:51 | Weblog
6月1日 日曜日 
吸血鬼/浜辺の少女 55 (小説)
隼人は高野の胸に魔倒丸を突き刺した。
心臓を刺しつらぬいた。
なんのためらいもなかった。
高野は鬼島が消滅したのに、まだ人間にもどっていなかった。
高野は人間の血を吸った。吸血鬼になっていた。
吸血鬼としてこれから生きるよりも、死んだほうがいい。
首を切り離した。
族の仲間はこの展開に仰天している。
ケントが高野にしがみついて泣いている。
ケントはなにもしらない。RFにもなっていない。
なにもわからないままキャップの死を嘆いている。
殺すも慈悲。という感情に隼人は目覚めた。
殺すも慈悲。おれは残酷な感情に支配されたわけではない。
殺すも慈悲。悪に対して冷酷になれただけだ。
敵は倒す。敵は排除する。敵は消去する。敵は殺す。
敵はなんの容赦もなく殺戮する。
敵であればちゅうちょなく斬る。
隼人の剣に、非情さが備わった。
「逃げましょう。さらにことを荒立てるとはありません」
夏子が悲しそうにいう。
「今日は、逃げてばかりいる」
隼人はまだ戦いたい。
不満をもらす。夏子が隼人の手をとって飛ぶ。
族の連中には夏子の飛翔に能力はわからない。
なにが起きたのかわからない。
高野がジュワッと消えていく。
泡立ちながら霧散した。
玲菜とケントがムンクの叫びの表情になる。
溶けていく高野の遺骸を見ている。
なにか、現実をはるかに超えたことが起きた。
彼らの理解を上回っていることが起きた。
しかしこれで妖霧を断てば、かれらは吸血鬼の呪縛からときはなたれる。
まだ人の血を吸っていないものは元にもどれる。
夏子を悲しませてしまった。
鬼島と高野。たとえRFでも吸血鬼にはかわりない。
夏子の目前で吸血鬼が消えたのだから……。
悲しかったろう。

21

隼人はルノーをスタートさせた。
背後で爆発音がした。
後からきたので仲間のバイクから離れて止めてあった高野のハーレーが火を吹いた。
夏子が神父からもらったダイナマイトを投げつけたのだ。
悲しみを断ち切るような行為だ。
爆発は連続して起きる。バイクがつぎつぎと爆炎をあげる。
燃え上がる。
玲菜もケントとその仲間は動けない。動かない。
高野の死を悼んでいる。