田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-27 05:16:05 | Weblog
小さな公園を路上生活の場としている男だった。
デカ部屋にいるはずの稲垣に。
トイレの建物をとびだすと携帯をいれた。
ドカドカとした足音が署のほうから近寄ってくる。
まだ、犯人がそのへんにいるかもしれない。
携帯から稲垣の興奮した声がする。
武も走りだしていた。
「あたりを、見てくれ。マルタはほかのやっらにまかせろ。まだヤッタやつはこの辺にいる」                  

 Fデパートの非常階段をふりかえっていた。

「あれも、ヤッパ殺人事件だったのだ」
 それは確信となって、武をおそった。

闇のなかに黒々と螺旋階段はとぐろをまきながら屋上にむかっていた。
 そこから中学一年生の女子生徒が転落死(自殺としてかだずけられてしまったが)したのは3月ほど前だ。
 道路にもデパートの駐車場にも人影はなかった。
 犯人はどこに消えてしまったのだ。
 血のながれ具合からみて、兇行がおこなわれて間もないことがわかる。
 武はあせっていた。
 自分が犯行現場にいた。
 ほんの数分前まで、犯人があそこにいたのだ。
 それなのに、ながながと小便垂れていた。
 血が流れだしてくるまではっきりとした気配は感じられなかった。
 だだ、漠とした勘であそこでぐずぐずしていたのだ。

 死体があるとは思ってもみなかった。

 犯人らしい人影がみあたらない。       
 
 武はあきらめて、現場にもどった。

「指紋が出たぞ。それも何人分も」
「公衆トイレだからな、特定はむりか」
「コミにまわれ。聞き込みにまわれ」

 自宅からかけつけた課長の本田がわめいている。
 いわれるまでもない。
 武と稲垣は黒川ぞいの、桜やハナミズキが植えられた『ふれあいの道』にも駐車場にも人影がないのは確かめていた。
 
 河川敷公園に降りた。
 背後で、鑑識のフラッシュが光っていた。

「なんど嗅いでも血の匂いだけはなれない。すきになれないな」
「血の匂いが好きになったら、バァンパイァだろうが」
 稲垣が武をなぐさめるように肩をたたいた。

 あの、たえがたい匂い。
 嗅ぎ慣れた、血の匂い。

 殺人課にまわされたとき。
 はじめて大量の血をみて。
 死体から発散する匂いを嗅いで。
 吐いてしまった。
 
 だが、武にはこれからおきることはわからなかった。
 稲垣が不用意にももらしたバァンパイァということばが。
 現実味をおびてくるのがわからなかった。
 
 血の祝祭にかれらが招待されている!
 
 超能力があるわけではない。
 わかるわけがなかった。
 そんなことが、わかるはずがなかった。
 
 武が稲垣の肘をつついた。
 捜査の範囲をさらに広めた。  
 
 貝島橋の下をくぐる。
 公園の隅の藤棚のした。
 
 東屋でアベックが淫行のマッサイチュウだった。
 公園の常夜燈は明るすぎた。      
 女があわてもせず。
 立ち上がった。

    応援のクリックよろしく
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-26 23:32:54 | Weblog


 法眼武は鹿沼警察署に隣接した公衆トイレに入ろうとしていた。
 街角の公園の隅にあるトイレまではほんの数十歩だ。
 デカ部屋をでたときすませてくればよかった。
 縦揺れの地震があったのを機に仲間とわかれてきた。
 尿意はふいにおき、すでにがまんできない。
 お茶をのみすぎていた。         
 そうだ。
 部屋をでるときは、モヨオしていなかった。
 だから……すませてくればよかった、……というのは正しくない。
 なぜふいに……尿意をもよおしたのか。
 つまらないことを理屈っぽく考える。
 トイレの建物にはいった。
 人のはいってくる気配をセンサーでとらえる。
 スタートした音楽がすでになっていた。
 お猿のかごやだ、ほいさっさ。
 というメロデーがなっていた。
 なんだ……この選曲は。
 この夜も更けようとしているのに先客がいた。
 ながながと尿をした。
 
 背後のふたつある扉は開かない。
 
 おおきいほうの用をたしている気配がない。
 それどころか、人がはいっているようすもない。
 
 だが、確かにだれかいる。

 そのまま立ち去れなかった。なにか、ある!!
 刑事のカンが武にもついてきたのかも知れない。
 奥の扉の下から水がながれてきた。      
 配管がこわれて、水があふれている? 水には色がついていた。
 赤い。赤錆色のどろっとしたながれはまるでいきているようだった。
 タイルのつなぎめの凹みをアミダくじのように流れてきた。
 
 蛇行する線となって流れてきた。
 ぶるぶるふるえていた。
 
 血だ。
 
 トイレの悪臭。
 アンモニア臭にまぎれていた血の匂いが濃密にただよってきた。
 まちがいない。
 殺人課の刑事が嗅ぎつけた匂いだ。        
 またかよ、こんな田舎街で。
 おおすぎるよ。
 扉のノッブに素手で手をかけるようなへまはしなかった。
 いつも携帯してる白の手袋をした。

 刑事が第一発見者かよ。
 さえねぇ、事件だ。

 だが、開いた扉のなかには、予想を超えたモノがあった。
 
 便座に男が座っていた。
 喉元が三日月型に大きく裂かれている。
 血はそこからながれだしていた。

 下半身はむきだし。
 もっともトイレの便座にすわっている。
 だから、それは異常なことではないかもしれな。
 ボッキしていた。
 男根が快楽の絶頂といったふくらみをみせていた。
 天をついていた。
 さきっちょから白濁した液がふきだしている。
 しゃぶられていたのか。
 腟のなかにあって快楽をむさぼっていたのか。
 自分でシゴイテいたのか。
 武はそんなことを職業的に考えた。

 男には見覚えがあった。

    応援のクリックよろしくです
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
    訪問ありがとうございます。


吸血鬼/浜辺の少女外伝 魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-26 08:28:47 | Weblog

        
 犬飼ケイコが消えた。
 塾長の麻屋は納得がいかなかった。
 どうしてもっとはやく連絡してくれないのだ。
 月曜日に家をでたきり木曜日になってももどらない。3日も外泊していることになる。
 電話をかけてきたのは、母親だった。
 母親はおろおろしていた。       
 犬飼ケイコ。 
 犬飼中から通ってきている中学2年生の美少女だ。
ふっくらとした顔立ち。
 平安美人もかくやといったしもぶくれの丸顔がのっている。
背が高く細め。
そんな美人の規格からははずれているが、話しているだけでも楽しい。
イヤシ系美少女。           
 アサヤ塾でもすこぶる人気がある。
「アサヤ先生。ケイコになにかあったの。メイルうっても返事ないの」
 女生徒にきかれる。塾なので、鹿沼にある七つの中学から県立高校にはいりたいという成績優秀な生徒があつまってきている。
むろん、勉強onlyという塾生だけではない。だれもこばばない。
ケンカに明け暮れ、塾には余り顔をださない二荒三津夫のような高校生もいる。
番場もいる。塾生がイロイロなのは、塾長、麻屋の包容力の豊かさだろう。
「トラブルにまきこまれたらしい。あとは……なにもわからない」
 易者にきてもらった。
 わからない。
 ハイ、警察へはとどけました。
 でも、行方はまだ、わからない。
 親の不徳のいたすところ。
あとは、だまって待つだけです。
 途中から電話をかわった父親がおろおろした声でいっていた。
「私立探偵を……探偵社にたのんでみたらどうですか」
 それしか手がないだろう。
なんで、易者なんだよ。
そのつぎは拝み屋かよ。
すこしいらいらしてきたが、逆らはずに、静かに聞いてみた。
「パソコンのネットで調べたが……費用がいくらかかるかわからないもんで」
 易者からパソコンと話しが飛ぶ。
費用が不明瞭なので、だから、探偵社には依頼しなかった……ということらしい。
探偵社に頼むと、という主語をおぎなってきかなければ意味不明。
 なにかちぐはぐな、アンバランスな現代の家庭風景を垣間見た思いだった。
容赦なく金をとられるのが怖いのだろう。
かなり経済力のある農家で、土建業も兼業している。
犬飼という、土地の名を氏としている旧家だ。
県議をしている祖父が次期市長戦にうってでるだろうと予想されている。
それでも都会の探偵社などに依頼して、金をバカスカ巻き上げられる恐怖のほうが娘を心配する親心を越えたのだ。
あるいは、政治家として祖父がスキャンダルをきらったのかもしれない。

 ドカっと音がした。
 隣家でガス爆発? 窓がまだ揺れている。
かなり激しい。
 2階で数学を教えている妻のミチコの教室にかけあがった。
「いまのなんなのよ」
 黒板で解いていた二次方程式を背にミチコが青ざめた顔を夫にむけた。
隣家はしんと夜空のもとで静まり返っている。
 直下型の地震だったか。
と麻屋は思った。
 いちどきりの立て揺れだった。
爆発音のようだった。
爆風におそわれた感じだった。
それでこそ近隣のガス爆発と感じたのだ。
 教室の床が跳ね上がった。
衝撃的な縦揺れだった。
それも、一瞬、ドカっとなにか爆発したように揺れた。
教室のテレビをつけたがなんの報道もなかった。
いつもは、ほとんどリアルタイムといってもいいほどの、分差でテレビの上画面に文字がながれるのに。
 おかしいではないか。
 いつもだったら地震があってすぐに臨時ニーュスがはじまるのに。
この辺だけの局地的な揺れだったのだろうか。
 麻屋はそのまま妻の教室の後ろで生徒たちを見ながら立ち尽くしていた。
 10時まであと10分は授業中だ。
テレビで確かめられないからといって、どこかに問い合わせるわけにもいかなかった。
テレビをつけっぱなしにしておくわけにもいかない。
生徒はほとんど地震のことなど気にしていなかった。
 しかし、この縦揺れがこれからおこる変事の前兆(おーめん)だったのだ。


     応援のクリックよろしく。
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


鹿沼女性ドライバー水死事件 麻屋与志夫

2008-08-26 00:28:38 | Weblog
8月25日 月曜日

●各局で一斉に「鹿沼女性ドライバ―水死事件」を報じている。

●痛ましい事件がおきてしまった。

●ブログでも喧々諤々。いろいろな意見がでている。

●ぜひ関心をもってお読みいただきたい。

●わたしが吸血鬼小説の舞台としている鹿沼で起きた事件だ。

●なんとも痛ましい事件でわたしとしてはコメントのしようがない。

●亡くなった方には哀悼の言葉をおくりたい。

     応援のクリックよろしく
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ



新連載/吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-25 22:23:38 | Weblog
 吸血鬼「浜辺の少女」外伝 魔闘学園


 そして、底知れぬ所に投げ込み、入り口を閉じてその上に封印し、千年の期間が終わるまで、諸国民を惑わすことがないようにしておいた。その後、しばらくの間だけ解放されることになっていた。         

 黙示録   20章3節

 プロローグ

 東武日光線でもとりわけ小さな駅だ。
 関東平野の極み、北の端にある。    
 旧市内の人口は4万にみたない。
 郡部をいれても10万ほどだ。
 でも面積だけは市としては栃木県のトップ。
 鹿沼市。
 新鹿沼発浅草への快速は一時間に一本だけ。
 さえない田舎の駅舎。
 ……だが、この日の午後ふいに黒装束の若者の群れを迎えることとなった。
 茶髪は頭頂で炎のようにおったち、青白い顔。
 太陽を避けているかのような青い顔は仮面をかぶっているようだ。
 のっぺり顔。
 むきたてのボイルド・エッグのようなテロンとした表情の欠落した顔だ。
 それもそろってみなおなじ顔ときては異様というよりは不気味だ。      
 黒の特攻服の背に真紅の髭文字で〈妖狐〉。
 狐の頭部がかいてある。
 般若の顔にみえる。          
 ゴテイネイニ、とがった耳に血をしたたらせた犬歯。つりあがった金色に光るフォクス・アイ。
 狐の目。
 怨嗟にみちた目。
 世を呪う目だ。            
 背中いっぱいにえがかれている。
 女生徒がふるえながらつぎつぎと木製のベンチから立ち上がった。
 気付かれないように忍び足で駅舎のそとに逃げた。
 動けた彼女たちはまだ勇気があった。
 ぽかんと口をあけている、女生徒。腰がぬけた。
 動こうにも動けない。
 胸の筋肉がしめつけられるほど強烈な恐怖におののいていた。
 携帯をとりおとしていることにも気付いていない。
 携帯から話し中だった友達の声がしているのにもおかまいなしだ。       
 駅のプラットホームから校舎がみえる。
 レトロな木造。
 超さえない鹿陵高校。
 総番の二荒三津夫は同世代の陰気なそれでいてギラギラしたオラーをあたりにふりまくものを敵とみた。
 からだがふるえていた。
 ビビったわけではない。
 硬派の極み、喧嘩にあけくれる男の闘争心に火がついたのだ。
「なんだ、これァ」
 副番の番場がスットンキョウな声をはりあげた。
 群れの最後尾のこの男だけは、膝まである学制服、長ランが、番場にスーッとちかよってきた。
 番場はおもわず後ずさっていた。
 身構える番場に男は目礼をした。
 血の気のうせた顔をよせてきた。
 口が臭い。
 番場は体からすうっと力が吸い取られていくように感じた。みようにまのびした、関西弁のアクセントで、街の中心街にある市役所裏の御殿山公園への道順を聞いてきた。
 現われたときとおなじように、妖狐の姿はさっと駅舎から街に移動する。

「ヤサにかえれなくなったな」
「そうスね」
 やっとのことで、番場は口をきいた。
 番場が去りゆく学生服の背を見ながらふるえだした。
「おそいんだよ。おれはヤツラが青い炎をあげているのがみえたぜ」        
 三津夫にそういわれて、肌がひりひり焼かれるような恐怖が番場をおそった。  ふるえている理由を番場は理解した。
 おれは怖がっている。
 駅舎からでた。
 田村旅館の庇のしたの駐輪場にさきほど妖狐の邪気を避けた女子学生が群れていた。
 彼女たちは口を閉ざして黙って三津夫と番場を見送った。
 いつもはキャバキャバとおしゃべりしている彼女たちなのに臆病そうに黙り込んでいる。         
 彼女たちの視線をしり目に三津夫と番場は走り出した。          
「こんな田舎街になにようがあるっていうんだ」
 あとの言葉は自分に三津夫はといかけた。
 黒い群れを追いかけた。
 田舎街の平和が破られた。
 そう思ったのは、すこしあとになってからだ。
 ふたりは興奮していた。
 どうしてこんなにむきになっているのか。
 なぜ、追跡しなければならないと思ったのか。
「妖狐、なんてゾク、どこにあるんだ」
 黒装束の群れがわがもの顔で、三津夫たちの街を、彼らのテリトリーを闊歩している。黒い裾をはためかせ、駅前の十字路を左折した。
「あの妖気はなんなんスかね」
「すごい妖気を放ってる。だがなにかわからない」
 不気味ですらあった。
 彼らの歩いていくあとに黒い妖気の帯びがのこった。
「蝙蝠にでもばけたのかよ。消えちまったぜ」
「あっそうか、アトマスフェアは、蝙蝠ですね」 
 やっと気付いたらしい。
 至極納得。といった声がもどってくる。
 番場の顔から恐怖がきれいに消えている。
 たちなおりのはやいやつだ。
 番場はいつもの声にもどっていた。
 見えなくなった集団を追いかける。
 どうして、追いつけなかったのだ。
 彼らが左折してから数分のタイムラグだ。
 それが、どうして見えないんだ。
 あんなに、目をひく黒装束の群れが駅前の雑踏のなかで、忽然と姿をけしてしまった。マジックをみせられたようだ。
 イルージョンのなかにはいりこんでしまった感覚がある。
 いくら目を凝らしても平凡な田舎街の日常の人の流れがつづいているだけだ。
 こんどは、自分の視覚がおかしくなってしまったのか、そうした不安が三津夫と番場を苛みだした。 
 
 ちょっと街角を遅れて曲がった。
 目の前から黒装束が消えていた。    
 
 まさかそのまま消えたままになるとは。
 三津夫も番場も、狐にばかされているような気分になった。

 黒装束の集団は消えた。

    応援のクリックよろしく
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

 ふたりの追いかける先で、集団は消えてしまった。

あとがき/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-24 18:48:40 | Weblog
8月24日  日曜日

●昨日、彩音ちゃんを書き上げたあとで風を引いてしまった。
あとがきが書けなかった。

●この小説はまだまだ書くことがある。
書きつづけていきます。
いつの日かまた彩音ちゃんと会ってください。

●ロッキー・ザ・ファイナルを見る。
何度見ても感動する。
小説家の苦悩は絵にならない。
スポーツのように絵になる世界がうらやましい。

●「泳いでいるアヒルは足を見せない」
わたしの好きな格言だ。
たぶんベトナムの諺だったと記憶している。

●いまブログで小説を四本書いている。
いつの日か書籍化できることを夢見ている。

●でも活字文化が危機に瀕している。
「論座」が廃刊になった。
ショックだった。
友だちがノンフィクションを連載していた。
長いこと読んでいた雑誌だけに残念だった。
ブログで訪問者がふえるのは楽しい。
書籍化もだが、このままでも結構楽しいものだ。

●外見的には淡々とキーをたたいている。
心ではいろいろな葛藤がある。
それは人には見えない。絵にならない。

●ロッキーのように頑張らなければ。
みずからを励ました。

●またすぐ作品を連載します。
よろしくおねがいします。

    応援のくりっくよろしく。
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

明日の彩音/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-23 11:52:19 | Weblog
76

 その期限がきれれば、黒川の西岸の街全域もコウモリインフェルエンザは猖獗するだろう。
 その伝播を止める方法はない。
 彩音は演劇室に飛び込んだ。
 美穂と静が部屋に閉じこもっていた。
「はい、おまち。たすけにきたわよ」
「ありがとう。彩音ほんとにきてくれたんだ」
 静が泣いている。
「校庭のとめてある4駆動まで走るの。いい? あれに乗って脱出するのよ」
「いくわよ」
 静が泣き声だ。でもみんなに掛け声かけて廊下を走りだす。
 彩音はまだやつれている美穂の手をとって走る。
 殿を固めている。
「どうして病院からぬけだしてきたのよ。あそこは、ここよりもずっとあんぜんだったのに」
 彩音は異様な気配をかんじる。
 首筋に凶念が吹き掛けられる。
 ふりかえる。
 ああ、そこには美穂が。

 美穂が犬歯をのばして彩音をねらっていた。
 ぐぐっと犬歯がのびてくる。
 息が臭い。
 がっと美穂の口がおおきく開く。
「斬」
 司が剣をひらめかせた。美穂の首が宙を飛ぶ。
 噛まれていた。あの衰弱は噛まれていたためのものだった。
「美穂!」
 悲痛な彩音の絶叫が校庭にひびいた。
 美穂の体はまだ立っている。
 学生服の中で美穂の体はぴくぴく蠢き脈打っている。
 まだ生のなごりの痙攣をつづけている。
 それなのに、服のしたの肌に狼の剛毛が生えてた。
 美穂をこんな体にかえたヤツラがにくい。
 稲本だってこのままにしておくのはくやしい。
 彩音は万感の思いをこめて美穂の体をそっとだきしめた。
「さようなら、美穂……」
「彩音あのままではきみまで噛まれた。だから、だからぼくは……」
「いわないで。わかっているから」
 司の英断に彩音は愛を見た。
 司が行動にでてくれなかったら。
 彩音は美穂の歯牙にかけられていた。
 人狼吸血鬼になていた美穂に噛まれていたはずだ。
 彩音は美穂を斬るために剣をふるえない。
 いちはやく、それを察して司が……その決断に文音は司の愛を感じた。
「司、ありがとう」
 美穂の体をそっとグランドに横たえた。
「さようなら、美穂。このままにしておいてゴメン」
 彩音と司に群衆が寄ってくる。唇から血をながしている。どうやら共食いをはじめているようだ。
「もうこれ以上はもたない」
「汚染されていない生徒はみんな車にのりこんだかしら」
「もうこれまでだ」
 ふたりは4駆動にむかってじりじり後退する。
 静たちが乗り込むまで車を守っていた麻屋のもとにかけつける。
「美穂が噛まれていたなんてわからなかった。ざんねんだったね」
 彩音を引き上げる。
 静がなぐさめる。
「見てたの」
 彩音はこのとき、じぶんが泣いているのにおどろいた。
「出発するぞ」
 父の声が運転席でした。
 車の後部扉に人狼吸血鬼が爪をたてている。
 人狼の吠え声がする。
 彩音はきっとその吠え声のするほうを見据えていた。
 そこに、彩音の故郷鹿沼がある。
 そこに、彩音をいままで育んでくれた鹿沼がある。
 軽い揺れが彩音の体に伝わってきた。
 車が発動した。
 わたしは文美バアチャンの遺志を継ぐ。
 この街にのこる。
 司とふたりでこの街でオジイチャンと人狼吸血鬼を倒す。
 この鹿沼を守る。
 守ってみせる。
 鹿沼が滅びるなんて。
 あまりに悲しすぎる。
 でも、だれもそれを許してはくれないだろう。
 わたしが、鹿沼に残ることは。
 だれも許してくれないだろう。
 それでも……のこりたい……。

 司と守ってみせる。
 でも、それをだれもよろこんでくれないだろう。
 彩音は司の肩に頬を寄せた。
 
 彩音と司を乗せてきた九尾の狐が猫のように小さくなっていた。
 彩音のひざにのっていた。狐は彩音を見上げいる。文美バアチャンのやさしい視線を彩音は感じていた。

     応援のクリックよろしく。
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
     応援ありがとうございました。



低地に住むもの/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-22 08:38:34 | Weblog
75

 臭い吐息。
 悪臭だけが司の彩音にふりかかった。
 コウモリとなった稲本は飛び去った。
「われらが飼育を拒むというなら、やはりこの鹿沼はいったん滅びてもらうことになる。われらが牧場となって飼育されるのがいやなら、滅びるがいい」
 さすがにここで争うことの愚をさとったのだ。
 稲本の遠吠え。
 死人の肌のような。
 土気色に濁った空にこだました。
 でも負け犬の遠吠えなどではない。
 稲本にはそれだけの能力を備えているのだろう。
「この隙に噛まれていないものを全員助けだすのだ。そしてこの街を去れ。この低い場所にいたら上空のコウモリ花粉にやられるだけだ。うしろをふりかえらずにさっさとこの低地の街からさるのだ」と麻屋。

「お父さんは? ぼくらといきましょう」と源一郎。

「いやこの街と運命を共にする。このひとたちをみすてるわけにはいかない。覚悟はきまった。残るのはわたしひとりでいい。美智子も源一郎がつれていってくれ」
 源一郎が悲痛な顔で父を見ている。
「おれだけでいい。おれは吸血鬼に侵されたおおぜいの教え子の最後をみとってやる」
「おじいちゃん」
 校庭では悲鳴があがりつづけている。
 女生徒を凌辱するものたちの数はいっこうにへらない。      
「なくな、彩音」
「しばらくはまた闇ね……」
 黄金色の光のなかでかすかな気配がする。
 麻屋は狐にむかって祈る。
「玉藻さま一族のものをよろしくお導きください」
「あのとき九尾のちからを封印しなければ、あなたたちを苦しめないですんだのですね」
 狐の口をとおして玉藻の声が聞こえてくる。
 こんどは怯まない。
 戦いぬく。
 吸血鬼と黄金の狐。

 闇と光の戦いがいま再開された。

 玉藻の声が力強くひびく。

 高音でコーンというような狐の鳴き声にきける。

 だが鹿沼滅亡までのカウントダウンははじまっている。

 麻屋がはったバリヤ消滅まであと10時間。

    応援のクリックよろしく。
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ






彩音と司/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-21 04:59:41 | Weblog
74

 校庭は暴徒。
 いや仮性吸血鬼となった街の人たちで埋められていた。

 阿鼻叫喚の庭の上空は。
 昼を暗くするコウモリが。
 重層的に群れていた。
 キュユと鳴きながら女生徒をおそっていた。

「源一郎、あれを」
「おう、先刻承知」

 源一郎が閃光弾を拳銃に装填した。
 上空のコウモリめがけてうちこんだ。

 あたりが眩い光でおおわれた。

 司と彩音をのせてきた。
 あの黄金色の九尾の狐が。
 閃光弾の光に誘われて。
 またも出現する。

 さらに光の輝度をましている。

「おのれ犬飼のものども。人狼め。いつの世も、男は獣。女をむさぼることしかできぬのか」

 狐に乗って玉藻が降臨した。

 玉藻と狐が一体となる。
 
 玉藻のものである九条の光が狐から校庭にとびちった。
 
 玉藻のものである光が闇の男達の体につきささった。
 光る体毛が針となってとび散ったのだ。
 光のなかでとびちった針のような黄金の毛がきらめいている。
 女生徒にのしかかっていた仮性吸血鬼がジューと音をたてて、溶けていく。
 玉藻には怨敵犬飼一族の狼男にみえるらしいが、むべなるかな。
 玉藻の時代には吸血鬼という概念はなかったのだ。
 コウモリがばたばたおちてくる。
 玉藻の光と閃光弾の効果だろう!!

 太陽の光が校庭にさす。
 ジュジュと煙をあげて吸血鬼になりたてのモノたちが溶けていく。
 
 闇が消え光がさす。
 
 やっと閃光弾でとりもどした光のなかを、稲本が悠然と近寄ってくる。
 光を浴びても平気でいる。
 両手を前につきだす。
 
 爪がは鋼の光をはなっている。

 彩音が剣を構える。
 司も剣を構える。
 
 稲本はふたりの若い剣士をにやにや眺めている。
 侮蔑をこめてみつめている。
 すぐにはおそってこない。

 どう料理するか。
 どうたべるか。
 たのしんでいるのだ。
 
 光がすこし薄らぐ。
 その瞬間黒いシルエットがふたりのまえで跳躍した。
 上から襲う気だ。
 害意に満ちみちた稲本の顔が頭上に迫る。
 ふたりは同時に同じ動作をした。
 仰向けに体を倒すと剣を垂直にたてた。

 司と彩音。

 ふたりの呼吸がぴったりとひとつになっている。それがうれしい彩音だ。
 牙をむきだした稲本がふたりの上で反転した。

    応援のクリックよろしく。
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
 




九尾の騎士/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-20 06:30:34 | Weblog
73

 携帯が鳴った。

「彩音、助けにきて。静もいる。わたしたち演劇部の部室にいる」
 
 忘れてた。学校閉鎖がとけた。
 今日から、平常授業があったのだ。

「どうなっているの? 美穂、おちついて」
 
 美穂は面会謝絶の重体だったはずだ。
 いつのまに退院したのだろう。
「え、美穂が学校にいるの? わたしの母がした輸血がきいたんだわ」
 と彩音のところによってきて慶子がいう。

「街のオヤジたちが発情しちゃってるの。学校がおそわれてる。男の子もみんな赤い目になってる。女の子はレイプされてる。もう地獄、地獄だよ」
「慶子、いこう。学校がおそわれている。美穂も静もあぶない」

 授業を再開するのが早すぎたのだ。

「学校っていちばんわたしたちにとって安全なところじゃなかったの」

「彩音……」と玉藻がやさしく声をかける。

「わたしの乗り物を貸してあげる。あなたたちの一族がわたしの廟をまもり、一族の純血を守り通したことに感謝しているわ。こんどはわたしも後にはひかない」

 黄金色の噴水のなかから、九尾の狐が現れた。

「これなら、ふたりのれる。慶子いこう」
「わたしは母をたすけに病院にいく。病院は東地区に在るのよ。司くん、彩音といっしょにいつてあげて」
「てれるな、白馬の騎士じゃなくて、九尾の騎士か」
「おゆき」
 玉藻が彩音と司をみてほほえみ、狐に命令をくだした。
 だが、玉藻は影となり、薄れかけている。
「わが一族のいちばんわかい武者ぶりね、ふたりの初陣のてだすけをするのよ」

 あとのことばは九尾の狐にかけたものだった。
 声だけが残り、玉藻はまた消えてしまった。
 まだパワーが足りないようだ。

「美智子、文葉、わたしたちがもどったらすぐ出発できるように手配をたのむ」
 麻屋と源一郎が4駆に飛び乗った。
 司と彩音は九尾のキツネの背中にのって空を飛んだ。
 モロ山にある地下の大洞窟にワープしたときのような感じだ。
 
「そこ、動かないでよ美穂、いまそっちへむかっているから」
 
 校門のところに男がいた。
「彩音ちゃん、おじさんといいことしょう」
 門のところで、まるでまちぶせしていたみたいだ。
 股間をモッコリさせた酒屋の藤田だ。
「彼氏といっしょにどこへ行くのだ。おじさんといいことしょう」
 藤田には九尾の狐はみえないらしい。
 よだれをたらしている。好色な目を赤らめて追いすがってくる。
「斬」
 司が刀をきらめかせた。
 よだれをたらしたまま藤田の首が宙にとんだ。
 もう人間ではない。
 人ではない。
 吸血鬼への変身をはじめているものに情けはむようだった。

    応援のクリックよろしくお願いします。
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ