田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

負のエネルギー/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-06 06:13:16 | Weblog
53

 慶子にもわかってきたようだ。
 マジな顔でおおきくうなずいている。
「だからその恨みのこもった反省室を再封印するか、思いきって亡霊を解放してやれば……」
 彩音と慶子が同時におなじことをいう。
「ふたりとも、だいぶわかってきたようだな。わたしたちは、吸血鬼との戦いに優位に立てる」
 だが心の片隅では……。
 麻屋は、反省室。
 などとは思っていなかった。
 拷問部屋だったろう。
 いや、そんなことはないだろう。
 物事を悪く考えすぎる。
 これも吸血鬼の影響を受けているのだ。
 とぶっそうな推理を否定する。
 歴史の中に消えてしまっている。
 ……残酷な話……。
 にも、目をむける必要はある。
 美しいものだけを見て生きていければ。
 こんなに幸せなことはない。
 
 吸血鬼は街の暗い部分からエネルギーを吸いとっているのだ。
 人を不幸にしている。
 その、負のエネルギーを食い物にしている。 
 恨み、嫉妬、貧困。を発生させている。
 さらに鹿沼に不幸をもたらそうとしている。
 すべて吸血鬼が画策している。
 ヤツラを滅ぼさなければ、平和な鹿沼にはもどれない。
「もう、幸橋の下のあたりよ」
「彩音も慶子も気づかないのか。このあたりはもう昔ほられた洞窟じゃないぞ」
 壁がよごれていない。
 まわりがコンクリートだ。
 どこかでさきほどコウモリにおそわれた階と合流している。
 おかしい。
 これは!!
 吸血鬼だけの通路が鹿沼の地下にできているのだ。
 下水路とうまくジョイントすれば吸血鬼は地下通路を利用していつでも、どこへ でも出没することができる。
 これはたいへんなことだ。
 街を歩いていて悪臭におそわれることがある。
 あれは地下道から吸血鬼がでてきたときの臭いだろう。
「図書館から、隣の川上澄生美術館へ。そして……」
 地下道で街から街へつながっている。
 そんな考えが閃いた。
 閃いたからといって、安易にそれを生徒たちの前で口外するわけにはいかない。
 麻屋はふたりを制止した。
 話し声がする。
 どこかで人の話し声がしている。
 低い押し殺したような声。
 でも、まちがいなく人の声だ。
「どこから聞こえてくる……? 慶子。上のほうからかな? どうなんだ」
 麻屋が慶子を仰ぎみている。

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怨霊/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-05 22:19:41 | Weblog
52

「空気がふるえている感じ」
「はやく、逃げよう。コウモリに食いつかれるわ」
 なるほど。
 慶子がたたくと、ぶぁんとしたとらえどころのない音がする。
 音が広がる感じだ。
「さがっているんだ」
 手近の木製の椅子の上にのる。
 デザインからしてかなり古い。
 ガラクタだ。
「先生の重みでこわれないかな」
 慶子がへらず口をきく。
 それでも椅子を押さえる。
 麻屋は、さすがに慶子よりうえに、ただし頭一つぶんだけ背が高くなる。
 麻屋と慶子が顔をみあわせている。
「せんせいのこと、仰ぎ見たのはじめてだよ」
 コンクリートの天井とみえたのは、分厚い板だった。
 板をずらす。
 暗い穴が見える。
 上の階にでられた。
 三人は一段うえにあった洞窟を歩きだしていた。
「センセイ。どうして反省室にそんなにこだわるの」
「それはな、彩音、反省室にはなん年ものあいだ虐げられた紡績女工の恨みが残留思念となって残っているんだ」
「それがどうしたの」
「慶子な、それが吸血鬼を呼びよせていると思うのだ。虐待されたものは虐待した人を恨む」
「それが?」
「それが……」
「ふたりとも、気づかないのか。鹿沼の人たちが会社では上層部にいた。上役だった」
「女のこをいじめたのは、鹿沼の人。だから鹿沼の人が恨まれているんだ」
「こんどのことは、かなり根が深い。明治、大正、昭和にわたる恨みが背後にあると見た」
「そうか、鹿沼が恨まれているんだ。美しい街の底に過去の亡霊が生きていたのね」
 と彩音も納得する。
「そういうことだ。澄江さんと純平くんの純愛なんてめずらしいことだった。だからこうして、その話がいまも残ったのだ。語りつがれたのだ」











地下通路/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-05 04:10:39 | Weblog

51

 学校はお休み。
 川の向こう側。
 東地区は。
 人間の頭に例えれば。
 脳コウソクで死にかけている。
 そのまだ死んでいないペナングラ。
 周辺に生徒を避難させた。
 受験生は高校の入試がある。
 西と北の各中学に分散登校。
 受験が近付いているからと緊張などしない。
 授業中から携帯で友だちづくりに熱心だ。
 現代っ子だ。
 仲間がふえて大喜び。

 行政が報道陣の注視の中でどんな手をうっているのか。
 テレビでもみるほかにない。
 いま街でおきていることなのに。
 テレビで見た方が情報は確かだ。
 街の人の噂話より正確だ。

 元気をとりもどした彩音と慶子のコンビ。と麻屋は。
 あの地下の反省室を探しにきていた。
 図書館の地下の洞窟にいた。
 文美はもっぱら行政のアドバイザーとして活躍している。
 今回の探索には不参加。

「どこかに、脱出口がある。女工哀歌にはノンフイクションの箇所がかなりある。読んだかぎりでは……このへんに……」
「どうして抜け道にこだわるの」
「吸血鬼がいまでもその道を自由にいききしている。このあたりの建物の地下がヤツラの地下街になっている恐れがある」
「そうだね、ヤツラの貯蔵室だってあった」
 そして、彩音はあの吸血鬼回廊をワープして。
 モロ山の地下の洞窟をさまよった経験を麻屋に伝える。
「そういうことだ。ヤッラは地下で活動しているのだ」
 麻屋は床をどんと強くふみしめた。
 反響音に耳を傾けている。
 ふいに、バサバサと羽音がおきる。
 地下道のどこからともなく、コウモリの群れがとびだす。
 三人はあわてて走りだす。
 狭い部屋にとびこむ。
 部屋にはガラクタがむぞうさにつまれている。
 調度品はどうみてもかなり古い。
 国産繊維が活発に稼働していたころのものらしい。
 物置として使っていたのだろう。
 扉にコウモリがぶちあたりギギっと鳴く。
 いやな鳴き声。

「せんせい。ここおかしい」
「どう、怪しいの慶子」
 長身にまかせて、低い天井をさぐっていた慶子が叫ぶ。
「はやくして、扉がやぶられる」


注。 『モロ』という響は吸血鬼と関係があったと記憶しています。後ほど調べてみます。著者。

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焼却/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-04 11:15:27 | Weblog
50

 翌日の栃木新聞。
 鹿沼中学校の特集記事で一面がうめられていた。
 鹿沼中学校で突然発生した奇病は『コウモリインフルエンザ』によるものと衛生当局によって断定された。
 たまたま春先で花粉アレルギーの蔓延する時期に校舎取り壊しで放置されていた古材に長年こびりつき、溜まっていたコウモリのフンが、スギ花粉と混ざりあってでた症状だ。
 ひとからひとに伝染する危険はない。
 ただ、目がはげしく充血し、赤目になるだけだ。
 健康的には弊害はでていない。
 また、古材はただちに焼却処分するので病気の感染が広がる心配はない。
「健康に弊害はない、なんてよく書けるね。どこの家でも、ねたきり病人かかえちゃって苦労しているのに。鼻水がでて、苦しくて勉強に集中できないで受験の三年生なんか、かわいそうだよね」
「街が正常に機能していないものね」
「へんなオジサンがヨダレたらして寄ってくるものね。いやだよね」
「だけどさぁ。糞(フン)。コウモリのフンと花粉。ダッテ、うまくまとめたわね。こんなのってフンフンゆって信じられないよね。彩音」
「だって、慶子。コウモリをだしたとこなんか意味シンよ」
「どうして、どうしてよ? 教えてぇ」
「ようく考えよう。コウモリは吸血鬼の変身した姿じゃん」
「あっそうか。気づかなかった。彩音んとこのおばあちゃんって、ヤッパスゴイワ」

 街をいく人がいない。
 ある朝起きてみたら、街から人が消えた。
 そんな感じだ。
 人が消えたわけではない。
 外にでるのが怖いのだ。
 家の中で不安に怯えているのだ。
 車は通っている。
 人が街を歩いていない。
 コウモリのフンがこびりついた廃材を焼却処分にした。
 それだけで、このインフルエンザをくいとめることができる。
 なんて、おかしい。
 夕ぐれるとパタパタと不吉な羽音がする。
 飛び交うコウモリがいる。
 校庭に山積みされた廃材は焼却した。
 校舎を消毒している保健所の職員の姿をテレビでみながら麻屋は思う。
 これで、吸血鬼熱を封じこめるとは当局も考えてはいないはずだ。
 これは、蚊によって媒介されるデボラ出血熱みたいなものかもしれない。
 コウモリは空を自由に羽ばたいているのだから始末に悪い。
 街のそこかしこにフンはおちている。
 もうおわりだ。
 このままほうっておけば、いずれこのわたしたちの愛する美しい鹿沼は死の街となってしまうだろう。
 ただ幸いなことに、黒川があるので、街の中心部西地区にはまだ発病しているものはいない。
 黒川の向こう側だけが危険地域だ。

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学校閉鎖/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-03 20:17:10 | Weblog
49

 彩音のイヤミに文美がせきばらいで反応した。
「なんだ、定年まで市の図書館にいた文美おばぁちゃんのアイデァだったの」
 
 すなおに、彩音はほめる。
 わたしのほうが、語感が古い。
 わたしは『コウモリ熱』なんていっていた。
 まさか、吸血鬼熱だ。
 なんていえないものね。

「まぁね」と文美が反り返る。
「わたしは、この街はおかしい。この街ではなにかが起きている。なにか街の影で、うごめいている。……と、警告してきた。妄想バカ……と、長いこといわれつづけてきたの。でも、妄想でしかいえないこともあるのよ。妄想にも真実はあるの」
 夕暮れるとコウモリが空一面に飛び交った。
 薄闇の空にコウモリが群れている。
 不気味な鳴き声を上げて夜空をさらに暗くする。
 どこから、このコウモリの大軍は現れたのだ。
 ひとびとは逃げまどう。
 怯えて家の中に閉じこもる。
 昼も夜も家の中で震えている。
 コウモリはフンをまきちらす。
 コウモリのまきちらすフンの悪臭が空から降ってきた。
 その強烈な臭いを嗅ぐと頭がくらくらする。
 その排泄物は、屋根や地面に降りそそいだ。
 太陽に炙られ乾燥し埃となって舞い上がる。
 街の東地区は隅々まで、埃まみれになった。
 ひとびとは気づきはじめていた。
 この異臭を放つフンまじりの埃は……。
 ただごとではないと。
 この異物は、異形のものがいる証拠だと。
 それでも、うどうすることもできなかった。
 大勢のひとがコウモリインフルエンザにかかってしまった。
 どこの家でも、ひとりは病人をかかえこんでいる。
 高熱がつづく。
 うなされる。
 ワイセツなことを。
 ワメキチラス。
 熱はなかなか下がらない。
 薬も効かない。
 ただ寝ているだけだ。
 青白く、日増しに衰弱していく。
 窓を密閉しても、埃だからどこからともなく部屋にしのびこむ。
 埃はまさに生きたウイルスを含んでいた。
 とりわけ、鹿沼中学の学区内。
 黒川の向こう岸。
 市の東側が罹病率が高かった。
 東に高い台地が連なる。
 その河川段丘の下を黒川が流れている。
 上昇気流がある。
 空気の淀みがほかの地区とちがうのかもしれない。
 こうもりの巣、発生源が鹿沼中の旧校舎にあるせいでもあった。
 廃材もまだ校庭の隅に山積みされている。
 生徒たちは、サージャンマスクをして予防に努めた。
 目はおおうわけにはいかない。
 赤目になった。
 赤くただれた眼からは涙が出た。
 とまらなかった。
 咳が出た。クシャミが出た。
 とまらなかった。
 そして。
 
 ついに学校閉鎖。

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H5N1型?/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-03 12:51:07 | Weblog
48

 いまの大関教育長は麻屋の先輩だ。
 民間から起用された。
 建築会社の社長だ。
 教育委員会のある旧消防署あとはアサヤ塾からは目と鼻の距離だ。
 気さくに、とことこ歩いて大関はやってきた。
 そして、固まった。
「集団脱走。集団登校拒否。集団……」
 大関はあまりの生徒のおおさに絶句。
 なすすべもない。
 大関はあまりに現実ばなれした話しに絶句。
 対策を思いつかない。
 だいいち、一級建築士からたたきあげた社長だ。
 理系の頭だ。
 吸血鬼の存在はファンタジーの世界。
 理解できない。
「昨夜、上都賀病院で共に闘った警察とフアイャマンがいるわ、あのひとたちにきてもらって……」
 彩音、慶子、静の3人が同時に叫ぶ。
「あの人達に、吸血鬼との接近遭遇体験を話してもらえばいいのよ。そうすれば、教育長の偉い先生も分かってくれるよ」

15

 学校閉鎖。
 市民は家の中に閉じこもっている。
 昼中は街に人影がまばらだ。
 太陽の直射をきらっている。
 紫外線にあたることを避けている。
 鳥インフルエンザ……。
 コウモリは鳥てすか?
 獣ですか? 
 鳥だとしたら、そのまま鳥インフルエンザでいいではないか。
 黒川の上流で白鳥が死んでいる。
 べつに解剖して調べなかった。
 今になって、H5N1型だったのではないか?
 人にも感染する新型のインフルエンザではないか?
 鳥インフルエンザなのだ。
 やはり、そうなのだ。
 喧々諤々。
 そんな議論を反復する愚をくりかえさないためにも、そのものズバリ。
『コウモリインフルエンザ』汚染地区。
「考えたものね? 行政にも知恵者がいるのね」
「おほん」

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「アサヤ塾」/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-02 11:27:30 | Weblog
47

 いや、仕事がないのかもしれない。
 ハローワークの前の人だかりは増えるいっぽうだ。
 Hな妄想をうかべて、男たちは、街をうろついている。
 ほんとうは、みんないい人たちなのだ。
 吸血鬼に血をすわれているのだ。
 霧のなかの吸血鬼ウイルスを吸い込んでしまったのだ。
 ともかく、街が正常に機能しなくなっている。
 塾の教室によく授業中をみはからって電話がかかってくる。
 塾から100メトルもはなれている中山運送店の主人からだ。
 家の前で急ブレーキをかける車があって、ウルサイ。
 ブレーキの音がやかましくて、眠れない。
 迷惑だ。
 塾にいく車だ。とわめく。
 大通りで車がブレーキをかけるたびに塾生の家族の車だと、どうしてわかるのだろうか。
 どうしてだろう。
 授業中に電話する迷惑は考えてみたこともないのだろう。
 アサヤ先生はていねいに、そのつど、あやまっている。
 この街のいたるところでなにか変なことが起きている。
 ご近所トラブルが絶えない。
 コウモリのフンを吸ったからだ。
『コウモリ熱』にかかっているのだ。
 アサヤ塾がすぐそこだ。
 酒屋のオッチヤンがおそってくる気配はなかった。
 今のところ、そこまでする気はないらしい。
 だが、やがて……。

     14
                                                                          「吸血鬼が血だけを吸うという認識は古い。人を苦しめて、その人の苦悩を糧として食べる吸血鬼もいるのだ。昼でも徘徊できる一族もある。いまは、いくつにも枝わかれしてね、なんでもあり。進化しているんだ」
 説明しながらオッチャン先生は司に目礼している。
 顔見知りらしい。
 学校からスキップしてきた赤目でない彩音のクラスメート。
 静に先導されてぞくぞくと到着する。
「アサヤ塾」の教室はまんぱいだった。
 彩音がねらわれている。
 彩音のクラスメイトがまずねらわれている。
 心配して文美もかけつけていた。
「女子生徒の生気をすっているのだろう。わかい娘が集まっている学校は吸血鬼にとってはさいこうの猟場じゃないか。獲物をさがして歩く必要はない」
「吸血鬼に変身する一族だったら昨夜のよう闘えばいいのよ」
 慶子が勇ましくいいきる。
「ところが、目が赤く充血している。それだけじゃだれもあいつらが仮性吸血鬼だってこと信じてくれないわ」
「それより、どこかに親バァンパイヤがひそんでいるはずだ。元を断たないことにはどうしょうもないのだ」
「もっとスゴイキュウケツキがいるのですか、アサヤ先生」
 彩音が困り果てている。
 困惑しているのは、ここにいる……みんなも同じだ。
「ともかく、教育委員会にれんらくしてみる」
 教育長はあわれ、驚異区長になっているのに気づいてはいないはずだ。

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胡蝶乱舞/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-02 04:20:41 | Weblog
46

 青黒い血がふきだしている。
「鹿沼流三の舞い『胡蝶乱舞』受けてみよ」
 彩音まで古典的なセリフになってしまった。
 彩音は返す刀で吸血鬼の胸を横に薙いだ。
 蝶が舞っているように美しい。
 胡蝶の精とみまがう彩音が吸血鬼相手に戦っている。
 舞のように美しい剣技だ。
 コウモリの糞をふくんだ花粉さえも、蝶の鱗粉のようにきらめいている。
 吸血鬼は腕を拾いあげる。
 逃げていく。
 これで何体傷を負わせ、何体消滅させたことになるのだろう。
「追わないほうがいい」
 府中橋を渡り切った。
 なんとなく大気が明るくなってきた。
 オッチャンの吸血鬼避けのバリャは、どうやら本物らしい。
 塾が近付くにしたがってさらに明るくなる。
 コウモリのフン混じりの花粉は降っていない。
 鬱蒼と茂った庭木の緑が空気を浄化している。
 その稟とした塾の敷地の明るさと清潔感。
 彩音にも、慶子にも。
 はっきりと視認することができた。
 塾までもうすぐという路地から中年の男があらわれた。
 御用聞き。
 彩音の家に出入りしている商人だ。前掛けをしている。
 藤田屋とロゴかはいっている。
「彩音ちゃん、路上劇かね」
 出入りの藤田酒屋のおじさんだ。
 彩音を物陰から見ていたのだ。
 ストーカしていたのだ。
「きれいな足しているね、ちょっとだけさわらせてくれよな。な、いいだろう。おばぁちゃんに内緒だよ」
 ニタニタ笑っている。
 スケベったらしい危険な目。
 彩音のお尻のあたりをジット見ている。
 Hなことを思いうかべているのだ。
「おじさん、へんなこというと、来月からなにもとらないよ」
 いちいち抗弁してもはじまらない。
 無視することにした。
「ありがたい。そうしてよ。裏のほうで、配達するのがめんどうだったのだ」
 信じられないことばが、商人の口から飛び出した。
 ここにも、吸血鬼ウエルスに冒されたスケベオヤジかいる。
 淫ら欲望の対象を中学生にまでひろげている。
 スケベオヤジが多発している。
 ヨダレをたらしている。
 欲望に狂った赤い目。
 で、いたいけない少女を追いかける。
 そういえば、石田燃料店のワカオヤジも同じようなことを、アサヤ先生にいって威張ったらしい。
 石油を配達するのがメンドクサイというのだ。
 もともとこの街の人はおかしかった。
 働くのがあまり好きではない。 
 ここにきてそれがさらにひどくなってきた。
 仕事をしないでぶらぶらしている。

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鬼切り/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-01 07:11:36 | Weblog
45

 司が彩音に何か投げてよこした。
 彩音はあわてて右手で受け止めた。
 平凡な白鞘。でも舞扇みたい。
 脇差だ。
 逆手に構える。
 彩音の肘から少し出るくらい。
 一尺七、八寸。50センチはある。  
 それにしても。
 このノウテンキな司には吸血鬼を見る力はないのかしら。
 彩音が訝かった。
 吸血鬼が背後から司をおそった。
 キラっと司の右手が光った。
 どこに隠しもっていたのか!!
 白刃がきらめいた。
 吸血鬼が青い粘液をふきあげる。
 全身が泡立っている。
「彩音さん、抜いてみて」
「ちゃんでいいの」
 
 わたされた脇差し。
 抜きはなった彩音。
 眩く光る。

「とても、皐手裏剣だけで倒せる敵ではありません」
 なんでも知っている。
 わたしより吸血鬼の知識があるみたい。
 彩音はうれしかった。
 司の芒洋とした顔がきびしくひきしまる。
 吸血鬼と戦う司。
 みていると、彩音の胸がきゅっと鳴った。
 美剣士机司。吸血鬼と剣の舞をみせている。
 コウモリと吸血鬼にかこまれた薄闇の中。
 彩音の顔が薄紅色に染まっていた。
「彩音のタイプね」
 これも不敵に慶子が彩音をからかう。
「いくわよ」
「いいわ。彩音、おもうぞんぶん舞ってよ」
 司が彩音の動きをじっと見守っている。・
「もっとはやくわたしとけばよかった。ゴメンヨ」
 鞘は、長すぎる舞扇の形に似せてある。
 仕込のある舞扇といったところだ。
 だか、まちがいなく白鞘の小太刀だった。
 握り締めた彩音の体に戦慄がはしった。
 まるで、ひさしぶりにあった恋人どうしがピピときたみたいだ。
 いやそんなものではない。からだに力がみちみちてきた。

 抜きはなつ。
 眩く光る。
 青い光りをはなっている。
 彩音は体中のエネルギーを小刀の柄に集中した。
 エネルギーは破邪の気となって切っ先までみなぎった。

「それでいい。その集中力だ」
 吸血鬼が立ちすくむ。
「それは」
「わかりますか? 鹿沼は稲葉鍛治の鍛えた名刀『鬼切り』の一振り。吸血鬼さん。あなたたちの仲間が何人も切り倒されている伝説の技ものです」
 彩音は吸血鬼のふところにとびこんだ。
 さっと横になぐ。
 吸血鬼の腕がボトリと落ちた。

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