田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

風鈴/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-10 08:36:08 | Weblog
62

 司が文美を抱え上げた。
 救急車を呼ぶまでもない。
 文美は息絶えていた。
 鹿沼流の家元、舞い名手は舞いながらその最期をしめくくった。
 舞いながら死んでいけて本望だっただろう。
 彩音に終りの舞い『朽ち木倒し』を伝授できた。
 満足だったのだろう。
 いい死に顔をしていた。
「彩音ちゃん。本当の悲しみはこれからやってくる。ぼくが、これからは、いつもついているから。いやでも、彩音ちゃんのそばについているから」
「いやなわけナイデショウ」
 文美の亡骸が目のまえにある。
 こんなときなのに、彩音は動悸が高鳴った。
 こんなときだから、また泣きだしたいほどうれしかった。
 よかった。
 ひとりぼっちにならないですんだ。
 司がいる。
 麻屋のオッチャン先生。
 慶子。
 美穂。
 静。
 大勢の仲間がいる。

 宮部校長がすぐそこまできている。
 神田と談合していたのは、校長だった。
 楔はもうつきた。
 どうする。
 まさか、校長先生に斬りつけることはできない。
 どう戦うの。
 どうすれはいいのよ。
 赤目をしていただけの校長を鬼切りで切り倒すことはできない。
 あのひとたちは、感染症吸血鬼なのだ。        
 仮性吸血鬼だ。
 彩音と慶子はよろめきながら身をひく。
「きみたちうちの生徒だね。ここでなにしてるんだね」
 宮部の両眼から赤味が消えている。
 吸血鬼を倒したからだ。
 親バンパイアを葬ったからだ。
「きみはどのクラスの生徒なの」
 彩音をみる目がかぎりなくやさしい。
 彩音の名前も。
 今までに起きたことも。
 なにもかも記憶にないらしい。
 吸血鬼の呪いはとけていた。
 真正吸血鬼の神田を倒したからだ。



     17

 文美の通夜。
 彩音だけになってしまった広すぎる家。
 鹿沼流の稽古場のある古い家が一門の通夜の客を迎えている。
 風鈴が風になっていた。
 南部鉄の風鈴だ。
 春なのに、冬の風鈴の趣がある。
 鹿沼は京都のように盆地にあるので、夏には風通しが悪く、多湿。
 冬は寒く風が強いのよ。
 いつまでも冬が残っている。
 春が来るのが遅いのよ。

 よく文美バアチャンがいっていた。
 風鈴が鳴っていた。
 風鈴の音がよくひびく夜だった。
 その風鈴を楽しむ文美はいま棺のなかだ。
 彩音は涙ぐんでいた。
 泣いていた。

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一子相伝/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-09 04:55:52 | Weblog
61

『朽ち木倒し』
 鹿沼の里で温かくうけいれられた巡礼。
 彩音の遠い祖先。
 が……。
 土地の悪霊と刺しちがえて死ぬ。
 温かくうけいれてくれた里びとへの報恩。
 悪霊にしがみつく。
 おのがからだを犠牲とする。
 朽ち木が倒れるように悪霊とともに死ぬ。
 鹿沼流の『終りの舞い』はそう呼ばれていた。
 舞いの奥義がすべてこめられていた。
 降りしきる雪のなかに朽ち木のように伏す舞い手。
 話しには聞いているが彩音もまだ見たこともない。
「おばあちゃん」
 なにいっているのかしら。
 ?????
 彩音が文美に呼びかけた。
「どうしたの」
 
 その瞬間だった。

 彩音に飛びかかろうとする神田に文美が優雅な舞いの仕種のまま、しがみついた。
 こうでもしないとコイツは倒せないのだよ。
 
 彩音よく見てね。
 
 文美の沈黙の声が彩音の頭に直接ひびいてきた。
 文美の白刃が神田の首につきささった。
 そのいきおいで、真一文字に切り裂いた。
 首から青い血が飛び散る。
 神田の首がくっとたれさがる。
 
 とどめ。
 とどめだよ。
 彩音。

 彩音は必死で神田の心臓に『鬼切り』を差し込んだ。
 さしこんでおいて抉った。
 青い血が吹き出している。
「バアチャン」
「彩音、彩音がこの技をつかうのは百年早いからね」
 鹿沼の語り部。
 文美の背中に神田の鉤爪が突き通っていた。
 手術用のメスのように鋭い。
 鉤状に曲がっている。
 半月型の外側にもシャープな刃がついていた。
 こんなもので、突き刺されては、助かるわけがない。
 それを承知で文美は彩音のために神田にしがみついたのだ。
 
 吸血鬼は首を切り離す。
 心臓を抉る。
 
 それで消滅させることができるのだ。
 首を切られたのに文美の背中に生えた神田の腕は。
 鉤爪は、まだひくひく動いていた。
「バアチャン。死なないで。わたしをひとりにしないで」
 彩音の呼びかけに文美は応えられない。
 震える手で、赤い柄の刀を彩音のほうへさしだした。

『朽ち木倒し』だよ……。

 文美の最後の意識が彩音に流れ込んできた。
 いつもこの『朽ち木』の剣と『鬼切り』はもっているんだよ……。
 司は上沢の分家の男。仲よくしてね。
 彩音には、甲源一刀流の太刀筋を司の剣さばきに認めたときから、もしやという予感があった。
 ふたりで、この鹿沼を守って。
 それが鬼と対立する守護師の務めだからね。
 故郷の自然を。
 鬼の蹂躙から。
 鬼に踏みにじられることから。
 ……守るために。
 彩音は生まれてきたのだから……ね……
 わたしはおまえと一緒……だよ。
 いつもいっしょにいるからね。
 それで、とぎれた。
 ながいこと彩音のそばに、いつもいた文美の意識がとぎれてしまった。
「バアチャン」
 文美をだきしめて、彩音は泣いていた。
 涙がとめどもなくほほを伝った。
 まだみたこともない父と母にかわって、幼いころから育ててくれた文美オバアチャン。
 彩音のそばを離れずいつも見守ってくれていたオバアチャン。
 それなのに、もう彩音の呼びかけに応えてくれない。
 鹿沼流の奥義『朽ち木倒し』を身を持って伝授してくれた。
 ありがたい舞の師範でもある。
「彩音ちゃん。これからぼくらの戦いがはじまるのだ」
 司が彩音の手をぐっとにぎった。
「文美さんは、体をはって、一子相伝の鹿沼流の奥義を伝えてくれたのだ」
「わかっているの。でもいまだけでいいから……泣かせて」
「涙が止まらないのよ」
 文美の体から温もりが消えていく。
 冷えていく文美を彩音はいつまでも抱きしめていた。

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文美/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-08 21:27:43 | Weblog
60

 切ってもダメだ。
 緑の血を流すくらいだ。
 それも、すぐに止まってしまう。
 神田がいるからだ。
 街に永住した親バンパイアだ。
 神田が存在するかぎり、金太郎飴みたいに、どこを切っても元の状態になる。
 再生する。
 これでは戦いようがない。
 司も同じ戦いを挑んでいる。
「どうすればいいのよ」
 彩音は司に呼びかけた。
 司は彩音におそいかかろうとする敵を追い散らすのに必死だ。
 応えはもどってこない。
(もう、どうすればいいの)切ることはできる。
 倒すことができない。
 消滅させることができない。
 いままで戦ってき吸血鬼とは能力がケタはずれに上だ。
「どうすればいいの」
「彩音ちゃんがこの神田に食べられてしまえばいいのだよ」
「吸血鬼さん、じゃ、わたしをたべるまえに教えてくれる。わたしたちがいなくなったら、この鹿沼をどうする気なの」
「なんだ。そんなことか。じゃ教えてやるか。ここをおれたち人狼吸血鬼族の『牧場』にするのだ」
「牧場? それってどういうこと」
「この街のひとたちは、暗黒の生活のなかで、苦しみ、わかい娘は生き血をすわれる」
「娘たちの生き血を吸うのが目的なの」
「血を吸わないとわれわれは生きていけないのだ。この清流の川がなぜ黒川と呼ばれているか知らんだろう」
「知るわけないでしょう」
「血はなぁ、月の光で見ると黒く見えるのだ。太古からこの黒川のほとりでは若い娘の血が流されてきたんだ」
「それで黒川なの。許せない」
「おまえの血も流してやる」
 神田と彩音が話しているまに、文美が動いた。
 文美が彩音のまえに回りこんでくる。
 神田と彩音のあいだに割って入る。
 彩音を背後にかばう。               
「どけ。しわくちゃババア。ババアの血なんか飲めるか。そこどけ。かわいい孫娘の血を吸ってやる」
「あんたら隠れ吸血鬼にこの鹿沼をいいようにされてたまるものですか。ババアの剣を受けてみよ」
 文美が神田と真っ向からにらみあった。
「彩音」
 文美が腰をしなやかに落とすと相手を吸血鬼の胴を下から切り上げた。
 神田が彩音のほうに寄ってきた。
 彩音は足をひきずって逃げる。
「彩音。朽ち木倒しだよ」







インターバル/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-08 13:37:33 | Weblog
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8月8日 金曜日
●うれしいことがあった。五日、の訪問者はいつも通り104人だった。いつも百人前後なのだが、閲覧者は2709人。とても信じられなかった。

●その夜は北関東名物のすごい雷雨だった。PCがそれで発狂したのではないか。こんなに大勢の人が閲覧してくれたなんて信じられなかった。訪問してくれた人が、おやこれはおもしろいではないか、ということで何ページほかにも目を通してくれた、そう理解していいのでしょうかね。

●長いこと小説を書いているがほめられたこはありません。

●ところが、夏休みで遊びにきた孫娘が、おもしろいよ、もっと先読みたい、といってくれた。

●頭がくらくらっとした。それほどうれしかった。書くはりあいができた。

●そして、今回の閲覧者数です。日本ブログ村のファンタジー小説ランキングも現在10位。

●わたしの拙い小説に確実に読者が増えている。

●うれしい。

●ではまた今宵、月光が冴えわたるころお会いしましょう。


死闘/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-08 11:48:05 | Weblog
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59

「胸騒ぎがして、駆けつけてきたの」
 出口に文美がいる。
 穴の中にさしこむ外光を背に受けて!!
 文美の姿が浮かびあがった。
 司もいる。
 光を背景に文美と司が。
 シルエットとなっている。
 光の中にいる。
 ありがたい。
 これでなんとか戦える。
 文美は朱鞘のいつもの剣をたずさえている。
「彩音ちゃん。忘れ物」
 司が初めて会ったときのノリで『鬼切り』と舞扇をなげてよこす。
 形勢が逆転した。
 とはいかなかった。
 数からいっても吸血鬼のほうが多い。
 三倍近くいる。
 そして、こちらは無傷なのは、彩音と駆けつけてくれた文美と司の三人だ。

        16

 戦いの場は河川敷に移る。
 吸血鬼の群れは彩音を取り囲んだ。
 半径三メートルの円陣の中に彩音は取り込まれた。
 吸血鬼の青白い鮫肌からはいやな臭いが発散している。
 腐敗臭が、カビ臭い湿った土の臭いが彩音の回りで渦を巻いていた。
 臭いだけで気が萎えてしまう。
 その渦がさっと彩音に流れよってくる。
 これなら、目をつぶるっていても敵の位置はわかる。
 そして、彩音の右手には、司から譲り受けた『鬼切り』がある。
 左手には使い慣れた舞扇。
 仕込みになっている。
 短剣が芯に潜ませてある。
 文美ばあちゃんも駆けつけてくれた。
 はやく決着をつけて、慶子と先生を病院につれていかなければ、そんなことを考 えたのが油断だった。
 ガバっと足首に吸血鬼退攻撃がきた。
 害意の流れは彩音の顔をねらうとみせて、体をふせ彼女の下半身をおそってきた。
 ジャンプした。
 かなり高く跳んだ。
 見切りがあまかった。
 敵はさらに餌にとびつく犬のようなかっこうで彩音の踵に鉤爪をかけた。
 想像を絶する痛みが彩音をおそった。
 なんとか、着地はしたものの片足では立ちあがれない。
 こういう痛みが慶子とオッチャンをおそったのだ。
 だから、あれほど剛毅なオッチャンも。
 強きの慶子も。
 戦意をうしなってしまったのだ。
 いや、闘う気力はあっても。
 体がゆうことをきかないのだ。
 彩音は着地と同時に鬼切りを下にきりさげた。
 稲妻のようなすばやさだ。
 敵の顔を削ぎおとした。
 彩音に、爪をたてたヤツだ。顔をソイデやった。
 ところが……瞬くまに、顔は再生した。ニャっといやな笑いをみせる。
「むだです。むだですよ」
 ニタニタ笑いながら彩音に迫る。







危機/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-08 06:43:54 | Weblog
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58

 神田の背中に吸血鬼が群らがっている。
 後光のように神田の背後に控えている。
 いままでに倒してきた吸血鬼だ。
 恨みの視線で三人を威嚇する。
 慶子が絶叫する。
 胸を鉤爪で引き裂かれた。
 パッと血が飛び散った。
「慶子!!」
「痛いよ。彩音」
「今、コイツラを倒したら病院につれていくから。それより携帯いれて。バアチャン呼んで」
 慶子が痛みをこらえて、携帯を取り出す。
 バンと神田の足蹴が慶子の腕をヒットする。
 舞い上がった携帯を神田はキャッチした。
 粉々に握り潰す。
 恐ろしい握力だ。
「コイツをたおすだって。いってくれますね、彩音ちゃん。できるかな。できるかな」
 神田が不気味な哄笑を上げる。
 乱杭歯が青白く光って彩音に迫る。
「彩音ひけ。ひくんだ」
 ああ、なんとしたことか。
 いちど倒したはずの吸血鬼。
 背光となって神田のまわりに浮遊していたモノたちが実体化した。
 その数おおよそ12体。
 いやもっといるようだ。
「こんなのは、目くらましだ」
「そうかな。そうかな」
 復活した吸血鬼に麻屋はザクッと肩の肉をはぎ取られた。
「苦痛も……錯覚かな……、塾のクソ教師が。痛みはほんものだろう。血もでてますよ」
「オッチチヤン」
「心配するな。これきしの傷、なんてことはない」
 麻屋は肉をもがれたショックでおもわずよろけてしまった。
 よろけながらも麻屋は彩音と慶子を出口に向かわせた。
 無傷なのは、彩音だけだ。
 さすがに舞いで鍛えあげた反射神経だ。
 それは、彩音の本来そなえている能力なのだろう。
 舞うように体が動いている。
 動きながら、少しずつ退いている。
 吸血鬼にも鉤爪でとらえることができない。
 シュシュといらだっている。
 乱杭歯のあいだから。
 威嚇音が吐きだされる。
 喉をグルグルと鳴らす。
 彩音を包囲する。
 ジュワジュワっと。
 包囲網を。
 しぼりこんでくる。
「逃げられるかな」
 神田がうれしそうにニタニタ笑う。
「慶子。彩音。逃げるんだ。おれにかまわず逃げろ」
 彩音が叫ぶ。
「文美バアチャン」
 ……。
 彩音が叫ぶ。

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悪臭/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫  

2008-08-07 22:29:33 | Weblog
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57

 教師仲間は外聞をはばかった。
 ひたかくしに隠してきたのだ。
 それをいいことに校長室でご乱行におよんでいた。
 神田が悪意にみちた顔で一歩前にふみだす。
 顔がそばに寄ってきた。
 息が臭い。
 ドブ泥のようだ。
 腐敗の臭いだ。
 そばにいるものを腐らせてしまうような臭いだ。
 乱杭歯をむきだした。
 さらに近づいてくる。
「その生徒をこちらにわたせ」
 吸血鬼の鉤爪がぐっとのびる。
 せまってくる。
 楔が効かないのか??
 彩音はとびのく。
 慶子は背が高いうえにバスケの選手だ。
 習性おそるべし。
 ジャンプしたが上にしてしまった。
 頭を天井にうちつけた。
 痛みではいつくばる。
 その上を麻屋がとびこす。
 神田にまわしげりをかます。
 神田がふっとび壁に激突する。
「オッチャン。ヤルジャン」
「ドウダ。ゲンキガデタカ、彩音」
 これでもくらえ。
 彩音が慶子をかばいながら楔を吸血鬼のふとももにつきたてる。
 ジュっと緑の血がわきでる。
 鱗がケロイドとなって溶けだした。
 にわかづくりの楔が効果ありとみてとると、慶子は元気に起き上がる。
「こんどは、とびはねるなよ」
「わかってるわ」
 慶子が神田に楔をうちこむ。
 神田はぜんぜん怯まない。
 溶けた傷跡もふさがっている。
 いままで相手にしてきた吸血鬼とはパワーが違う。
 能力がはるかに上のランクだ。
 たった一人の神田に三人が圧倒された。
「だめだ、吸血鬼呪縛の呪文がきかない」
 麻屋の朗唱がとぎれる。
「そんなたわごとが、おれに通じると思っていたのか。あまくみられたものだな。

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霊験/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-07 18:27:31 | Weblog
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56

 壁がびんびん震えている。
 すごい力だ。
 まさに人のものではない。
「招かれなければ入ってこられない。真正吸血鬼かもしれないな」
 空気がもたない。
 狭い空間だ。
 このまま閉じこもっているわけにはいかない。
 三人は意を決した。
 ソレっとかけ声かけて扉をおした。
 全身青い鱗におおわれた異形のものがいた。
 大きい。
 吸血鬼のボスか?
 大中寺の魔除けの札をからだにつけている。
 岩船山高勝寺の板札をこまかく裂いてつくったにわか楔をもっている。
 彩音が吸血鬼と向かいあった。
 健気だ。 
 いままでたおしてきた吸血鬼よりはるかにランクが上だ。
 目が赤くぎらぎら光っている。
 威嚇するように乱杭歯のあいだからシュシュっと息をはく。
 牙がさらにのびる。
 彩音は吸血鬼捕縛を高々と朗詠する。
 慶子も唱和する。
 彩音は吸血鬼の鉤爪をさけて、体をねじった。
 その姿勢から楔をとばす。優雅な舞いの姿だ。
「鹿沼流一段『風花』の舞い」
 と彩音が叫ぶ。
 みよ、楔は2本とも吸血鬼の胸につき刺さった。
 一体は倒した。
 皐の楔より霊験あらたかだ。
 それはそうだろう、岩船山は高勝寺の板札を裂いてつくつた楔だ。
 にわかづくりといえども、効果テキメンなのは、あたりまえだ。
「あんたのような不細工なヤツはナンニンいるのよ」
 風花が舞うように楔が吸血鬼みがけてとんでいく。
「ほざけ。小娘め。塾のジジイもシシャリでるな」
「これは、これは元教育長の神田先生。帰り咲きでもねらってるんですか」
「黙れ、もう鹿沼の教育界はわれわれのものだ」
 確かに、吸血鬼に神田の顔がオオバラップしている。
 もともと、犬歯が異常にながく吸血鬼面だったので気づかなかったのだ。
 麻屋の古い記憶の中でも、すでにこの神田は吸血鬼行為にふけっていた。
 校長時代に周り女教師にワイセツなふるまいをしていると評判が立っていた。
 元祖セクハラ校長だ。

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岩船山/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-07 07:19:12 | Weblog
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55    

「わたしたちの祖先の仕打ちを許してくれ。やすらかな冥福を祈ります」
 壁に大平山大中寺の札がびっしりとはってある。
 セピア色に色褪せている。
 それが新鮮な色にもどった。
 いま刷り上げられたような色だ。
 死霊の怨念で汚されていたのに。
 麻屋の祈祷で、その御利益が回復したのだ。
 太平山に隣接した岩船山高勝寺の板札がうちつけてある。
 麻屋は祈りつづけた。
 足音がかれらが通りぬけてきた洞窟にひびく。
 近寄ってくる。
 複数のものだ。
 せまいのでエコーとなって聞こえる。
「気づかれたな」と麻屋。
 彩音が壁に耳を寄せた。
 いちど通りすぎた足音がもどってきた。
 有蹄類のようにどすどすと固い音がする。
 三人は袋のネズミだ。
 この部屋にはどこも出口がない。
 いま進んできたのが抜け道だ。
 延長された部分もある。
 閉鎖され、埋められてしまっている箇所もある。
 ともかくむかし掘られた穴だ。
 息苦しくなってきた。
 狭い部屋だ。
 換気がわるい。
 よどんでいた空気がさらによどむ。
「おっちやんセンセイ、なにやってるの」
 わざと慶子がおどけてきく。
 麻屋は板札をナイフで割っていた。
「紙札をからだにまきつけるんだ。これが楔がわりだ」
「わたしが皐の楔を忘れたから……。ゴメンナサイ」
 壁が外からどんどんたたかれた。
「はいってはこられないみたい」
 慶子も壁に耳をあてた。

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牧場/吸血鬼ハンター美少女彩音  麻屋与志夫

2008-08-06 23:12:02 | Weblog
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54

「事後処理は市役所にまかせておけばいい」
「生徒たちは全部帰宅させたが、だいじょうぶだろうな」
「ほかのものに、人から人にはこの熱はうつらない。移す能力もないはずだ」
「生かさず、殺さず。ずっとわれわれの餌ですか」
「そういうこと。ヤッラどうしで精気をすいあったら、鮮度がおちるからな」
「おいしい精気を吸いおわったら、おいしい血を吸いましょう」
「たのしいな。たのいしな」
 だれがはなしているのか声がくぐもっているのでわからない。
 美術館のあたりだろうか。
 それに壁越しだ。
 麻屋はうしろのふたりにバックするように合図する。
 いつのまにか、吸血鬼の侵攻は市民のレベルまで浸透している。
 異界が現実の鹿沼と重なりあっている。
 人の精気を吸って生きているマインドバンパイヤが増殖していた。
 ひとがひとを差別する。
 『お近所トラブル』がたえない。
 しまいには猟銃で隣の主婦を射殺する。
 吸血鬼よりも残酷なことを平然とやってのける。
 川に親友の子供を生きたまま投げ込む。
 学校でのいじめ。
 大人同士のいがみあい。
 苦しみ、悲しむ。
 苦しみや恐怖におののく人の精気は吸血鬼にとっては、最高のゴチソウだ。
 吸血鬼の侵攻が鹿沼を中心にして広がりつつある。
 精気を吸われても、吸血行為のようにドハデな、ひとの生死にかかわることもない。
 吸血だけを目的としない、マインドバンパイアが増えている。
 だから、いままで、だれにも気づかれなかったのだ。
「教室で平気で携帯かけまくる。携帯であそんだり、おかしいと思っていたんだ。制止しても、なにいわれているのかわからない。しかられていても、携帯から手をはなさない。数分おきにでかいあくびをする。精気をすわれていたんだな」
「そうか、うちの学校だけではないよね」
「汚染はひろがりつつある」
「ひょっとして、全国区」
「あるいはな……」
 麻屋はふたりを肯定する。
 だが、これほどひどいコウモリインフルエンザは鹿沼の東地区だけだ。
 それが、せめてもの救いだ。
 ここでこの地区だけでくいとめないと大変なことになる。
 全国にこんなインフルエンザが蔓延したら日本は破滅だ。
 核攻撃どころの被害ではなくなる。
 後ずさっていた慶子がどすっと壁にぶちあたる。
 壁がくるっと回転した。
 回転ドアになっていた。
「ヤバイよ。いまの音きかれたよ」
「どうしょう、彩音」
 慶子は泣き声を出した。
「あっ、ここが反省室だ」
 怨恨の渦がうねっている。
 麻屋は吸血鬼捕縛の呪文をとなえながら、部屋の隅から隅までゆっくりと歩く。 渦の動きがうすらいでいくのを肌に感じる。

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注。「モロ」としいう言葉はやはり吸血鬼に関係ありました。
河出文庫「吸血鬼伝説」栗原成郎 281ページを御覧ください。