僕が用事を終えて行ってみると店は閉まっていました。
けれど住居の窓には灯りが見えたのでピンポンを押すと
「どなたですかぁ・・・」とおばちゃんの声にホッとしました。
「緑町のパン屋です」
「ああ・・・パレットさん?」何ヶ月、或いはそれ以上の久々なのに
おばちゃんの記憶力には舌を巻くばかりです。
セコムのステッカーが貼ってある玄関が開いて
相変わらず元気なおばちゃんが登場しました。
(おばちゃんの店は通りの角にあって過去に何度も
当て逃げ被害にあったので、ファンクラブの人達が
無敵の盾イージスを配備したらしいのです)
「何がおいりですか?お店入りますか?」
それを僕は丁重にお断りして焼き上げたパネトーネを
クリスマスのパンだからと渡しながらご無沙汰をお詫びして
さて・・・おばちゃんはとても元気でニコニコしながら立板に滝!
先祖代々の墓が山本五十六元帥と同じだったり
「ニイタカヤマノボレ」打電にまつわる話からお嬢さんが
世界の海のダイビングから最近は世界の都市や近郊、
荒川土手まで走破することに熱中している話まで。
盛り沢山のてんこ盛り。
身振り手振りに笑顔を加え、ちょっと茶髪で小さく痩せっぽちな
おばちゃんの体がどんどん大きく見えてくるのです。
僕より一つ上のお嬢さんは勿論来年の東京シティマラソンの
抽選にも当たっていて走るそうです。
おばちゃんは観に来てと言われるままに
会場まで足をはこぶそうで幸せを絵に描いたような人生。
お嬢さんは子育て終わって青春真っ盛りですねと言うと
おばちゃん満面の笑み。話を聞く僕まで和む笑顔なんです。
おじちゃんが他界して今年の夏は十七回忌をしたそうで
やはり女性は逞しいと思ったものです。
僕位になると運動していないと体は急に動きませんからね・・・
なんて言えば「まだお若いでしょ・・・」と僕の歯を浮かせてみせます。
「お茶でも飲みますか?」と聞かれて僕がお断りしたところに
先ほどから背後をうろちょろしていた男が僕に
遠慮がちに声をかけてきたんです「あの~自転車いいですか?」
見れば僕のママチャリがイージスの横で彼らの車が路地に
侵入するのを阻止していたんです。
「ごめんね~」と彼らに言いながら、おばちゃんに持たされた
ミヤゲの礼を言い別れを告げて帰還の途・・・
おばちゃんが店に来たお客に出すお気に入りの
「生クリーム・チョコレート」
おばちゃんは模型を売るより
お客と元気のやり取りをしているように
僕には見えてなりません。