D899 初稿の全体像
- 速度指示無し ハ短調 D899/1 4/4 展開部の無いソナタ形式 181小節(決定稿より22小節短い)
- Allegro ハ長調 D916B 4/4 ソナタ形式 127小節までで再現部が無い
- 速度指示無し ハ短調 D916C 4/4 182小節までで再現部が無い
「D899決定稿」と全然違うことが、シューベルトファンの皆様であれば、歴然とお解り頂けることだろう!
D916B と D916C の楽譜は、ドブリンガー(世界初出版楽譜)とユニバーサルから出版されており、3千円程度で容易に入手できる。もちろん、ベーレンライター新シューベルト全集でも出版されており、「小品集II(BA5521)」である。
楽譜が容易に入手できる割には、「演奏を聴く」ことは極めて難しい曲である。CDが発売されたことは国内盤のみだけでなく輸入盤も含めて皆無と思う。(発売されたら購入したいので監視している曲の1つ!)
演奏会も、日本ではたった1回だけ、J.デムス の確か新宿文化センターでの演奏だった。
シューベルト「忘れられたソナタD916B」 J.デムス補筆完成版 日本初演
と言う演奏会だった。
- 第1楽章 Allegro ハ長調 D916B 4/4 241小節 デムス補筆完成版
- 第2楽章 Allegretto ハ短調 D900 2/4 41+12小節 デムス補筆完成版
- 第3楽章 All'ungherese, quasi Marcia ハ短調 D916C 4/4 284小節 デムス補筆完成版
と言う構成。1988年にデムス補筆版楽譜がユニバーサルから出版されるよりも前だったように記憶しているが、20年以上前のことなので、確固たる自信は無い。
聴いた印象はただ1言「これ、本当にピアノソナタ?」だった。当時既に「ヘンレ版:シューベルトピアノソナタ全3巻」は出版されており持っていたし、米VOXの「クリーン盤 : シューベルトピアノソナタ全集」を聴き込んでいたので、「シューベルトのピアノソナタ」には聞こえなかった。演奏自体は良かったのだが。
今から考えれば、
- 即興曲の第2曲&第3曲は「ソナタ」には聞こえない!
- 1978年当時既に、1822-23年頃作曲と推定されていた D900 を無理に中間楽章に入れたのは「やはり無理」
だった、と感じる。
しかし「とても魅力的な曲!」と感じたことも事実。シューベルト自身、
「D899初稿」を改訂後に、D916B は「交響曲ニ長調 D936A」と「ピアノトリオ変ホ長調 D898 作品99」に転用
しているほどである。
D898 は完成したが、D936A は31才で若死にしたシューベルトは「完成できなかった最後の交響曲」となってしまった。モーツァルトも若死にしたがそれでもシューベルトよりは4才長生きしているからなあ。
原点に戻ろう。シューベルトは「即興曲集第1集」を、ハ短調 → ハ長調 → ハ短調 で作曲し、ほぼ完成していた。しかし、出版社 = ハスリンガー に渡す前に全面的な大改訂を施し、ハ短調 → 変ホ長調 → 変ト長調 → 変イ長調 の「決定版」にし第2曲以降を差し替えの上、第1曲も精密に仕上げた。
廃棄された曲の内、D916B の方は、交響曲D936A や ピアノトリオD898 に転用された。
D916B と D916C が「本来の位置通り」に演奏されるのは、おそらく「来年7月20日の佐伯周子」が日本初演である。もちろん「決定稿」の方が魅力は深いが、「D899初稿」も魅力ある曲である。「シューベルトファン」の方は是非聴いて頂きたい。