もう、一週間になるか、キラリと光る一本の糸が庭のヒバの枝から二階の窓の手すりに渡されたのは。その距離約5メートル、もう一本渡されて、長大な吊橋のように風に揺らいでいた。
取り払うのは簡単だが、姿を見せない蜘蛛がこれから如何するのか見極めることにした。どしゃ降りの雨も二,三回あったが、強度があって耐えた。
今朝見ると、下のほうにも支点を張り蜘蛛の巣が形を成してほぼ完成していた。未だ巣の主は姿を見せないが、巣の下部に、小さな獲物がかかっている。
おそらく最初は、風に吹かれて反対側の空中に飛んだのであろう。
一回で成功したと思えない距離を糸を引きつつ飛んだ。一本の糸が張れれば、あとは思い通りに巣が出来る。
巣作りの本能だけで出来るとは思えない技である。
けっして大きな蜘蛛ではないと思うが、小さなこの虫にとっては、大事業である。
小さな頭脳で大きな行動力。奮闘一週間、雨にも負けず、風にも負けず、蜘蛛の宇宙ステーション完成をこころからお祝いする。
不可能と思える事も、強い意志力で実らせた小さき命に学ばせてもらった。
柳に跳びつく蛙の努力を見過ごさなかった小野道風が重なって見えるではないか。