「分かったわ。そうします。もし私が見張られていたとしても、誰にもこの策略は悟らせません。でその後は?」
「その後は上の階に上がってください。私はそこにいますから…… それからお母さんを私が見つけた寝ぐらまでお連れします。で、明日になったら使いに受領証を持たせ、預けておいた荷物を取ってきて貰うのです」
マダム・フェライユールは同意した。このような不幸に見舞われても息子の心が折れてなかったことを幸いと感じていた。
「パスカル、私たち、今のままの名前で通す?」と彼女は尋ねた。
「ああ、それは……取り返しのつかない大間違いになりますよ」
「それじゃ、どういう名前を名乗りましょうか? 決めておかないといけないわ。鉄道の駅で聞かれるでしょうから」
彼はしばし考え、やがて言った。
「お母さんの結婚前の姓にしましょう…… 私たちに幸運をもたらしてくれますよ。私たちの新しい住まいはモーメジャン未亡人の名前で借りることにしましょう」
更にしばらく彼らは時間を取り、注意しなければならない点を忘れていないか検討した。全て大丈夫と確信するとマダム・フェライユールは言った。
「それじゃもうお行きなさい」
しかしその前にパスカルには果たさねばならない義務があった。
「マルグリットに知らせねばなりません」と彼は呟いた。それからデスクの前に座ると彼は恋人に手紙を書き始めた。事の次第を簡潔に伝え、思い切った行動に出る決心をしたこと、新しい住所が決まり次第彼女に知らせること、そして最後にもう一度会って自分の口から詳細を伝え、心の願いを述べる機会を与えてくれるよう頼んだ。自分が無実である証明は一言だけで十分だった。自分がその犠牲となった奸計については触れる気さえなかった。彼はマルグリット嬢の愛情を受けるに値する男だった。彼女が自分に対し持ってくれている信頼は揺るぎないことを知っていた。
息子の肩の上に屈みこみ、マダム・フェライユールは彼が書いたものを読んだ。
「この手紙は郵便で送るつもり?」と彼女は息子に尋ねた。「大丈夫ね? 必ずマルグリット嬢の手に渡るわね? あなたの敵のために働いている誰かの手ではなく?」
パスカルは頷いた。11.12